【意味不明小説】形而上学上のアリア
親愛なる将軍様 御中 殿
冬といへば秋である今日この頃、みなさまいかがお過ごしでせうか。寒い日が続き〼が、貴殿らにおかれましてはご健勝のこととは重々承知であり〼ながらも、益々のご健勝をお慶び申し上げ〼とともに、ご多忙中とはいへやはり寒い日が続く昨今、より一層のご健勝をお祈り致しつつ、今後ともご指導賜り〼よう、また今後さらなるご健勝ならざるを得ませんこと、僭越ながら何卒宜しくお願い申し上げる次第で候。
さて近年、口鼻に布あるいは紙のあてがわざる中高年の徘徊がある種の陰謀論的性質を帯びつつある折、我輩の周囲の者も風邪の回復の捗々しくあらざるを以て、その辺のカエルをとっ捕まえては煮て喰ふ者、一人二人にあらざるなり。思へば旧知の人の訪ね来ることの絶へて久しうなるも、画面の向かふで醜女の蒲魚ぶること改善に向わざるに業を煮やしたかと思へば、救急車の夢に現に担ぎ上げること甚だならず、また左肩に世界遺産の4度5度穿て倒れ伏す者の夥しさ馬鹿にならず、本気号泣候。
吾輩はといへば、往々にして早々に親孝行を果たし、帰る家も無かりせば、路頭に迷ひて冬は寒さに凍え、夏は暑さに悶え候。徒然なるままに道辻にふらふらと踊り出て月面歩行を披露すれば、平時は無能を極めたる岡っ引き、ここぞとばかりに目を光らせて飛び出したり。かの月面歩行、白色二輪の接近したるを見るや否や、何処から取り出したものかや、天女の羽衣をまといて宙を舞ひ、月に戻らんとす。然れども、現在昼の刻なれば空に月は無く、お天道様に焼かれて身を焦がし、落ちて遂に今宵の晩餐になれり。
昨年の秋の暮れ、かねてより世間知らずで知られる越後の殿様、月の落ち来りて人の世の終わりたるなる世迷言を真に受け、財産の全てを放蕩に注ぎ込みて破産に陥りたり。同じ頃、金閣寺にて電気設備の経年劣化により短絡して火花散り、たちまちのうちに業火になれり。消防車あまた出動するも間に合はず、金閣寺遂に打ち上がりて夜空を巡り、宇宙の彼方に消えたり。足利義満、大いに怒りて、京に知られたる鍋奉行を訪ね、家の戸を叩く。すると、戸がなんとも卑猥なる音を立てて開き、中から頭の禿げ上がりたる初老の紳士現れたり。遠藤さんなりけり……。
「これこれ。まずは儂の昔話を聞くべし」
江戸時代末期、呉の港では極秘裏に戦艦大和の建造が進められていたが、坂本龍馬によりその存在が世間に暴露されると、やむなく大砲を外し、欧米人を乗せて出航させ、浦賀沖でその姿をお披露目することとなった。当時の街の人には、大和は巨大な砲門をいくつも備えた船と知られていたため、艦載兵器を取り除いた大和に気がつかず、皆これを黒船と呼んだ。したがって黒船来航とは、江戸幕府を終わらせるために朝廷、薩摩、長州が仕掛けた壮大な茶番であり、アメリカなどという国はもとより存在しないのである。
この騒動の裏で暗躍していた人物こそ、当時の日光猿軍団の代表取締役であった中臣鎌足である。鎌足は自身が取締役に就任するや否や東証プライムに上場し、株式を公開するなどという荒廃した商売に了解して後悔した商会の狼狽と相対して到来した後輩と交代した妖怪を招待した教会を完膚なきまでに潰した。スパゲティよりルサンチマンを好む彼にとっては、例え男爵芋でもとっくりセーターの代わりにはしなかったであろうことは想像に難くなく、ましてや社会経験豊富をUTAU自称大手自営業の男に、オーディオアンプの良し悪しなど微塵の関心もなかった。さてバブル景気が一段落し、人々がガラケーからスマホに乗り換え始めた明治初期、連日海外からの要人を招待したカラオケ大会が催されていた迎賓館からは、大衆に迎合し過ぎてもはやポルノと化した、吐き気を催すJ-POPがこれでもかと聞こえてきた。周囲の住宅地の人々は、そのせいで酷い不眠とストレス性疾患に悩まされていた。ところがある夜、いつもとは打って変わって格式高い曲と透き通った美しい声が響き、人々を驚かせた。皆が迎賓館の窓の周りに集まり耳をすませると、こんな歌が聞こえてきた。
偉い政治家 よく見れば
権力に付く ゴミばかり
学者先生 よく見れば
金に群がる 蝿ばかり
良心なんぞ とうになし
我らのために 死ぬがよし
ケンコロケンコ ホーホケキョ
母の腹より 生まれいで
父の背中に 道を見る
言葉によりて 物分かち
心によりて 物を知る
地に足付けて 明日を見よ
これぞ人たる所以なり
カコロカッコロ ホーホケキョ
人々はすっかり嬉しくなり、その場で踊り出した。踊って踊って、そしてそのまま、帰らぬ人となった。
BAD END
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