a little something : tail nail tale
だっかっらっ 本当さ 飛んでったんだ
何度 言わせるんだよ
だっかっらっ ネコがだよ
非常階段にビロードみたいな影を残してさ
サッと星空に向かってさ
大きな弧を描いてさ
唯一の目撃者は ビルの管理人クンでね
いつものように 屋上の巡回に向かったんだって
その時にさ 見たらしいんだよ
普段は口数少ないのにさ なんか興奮して話してたな
ねぇ こんな話 聞いたことない
星って 長いこと放っておくと 煤けるっていう話よ
星空は 昔はもっときれいでね もっと明るかったっていう話よ
でも 誰も信じなかったんだ
ボクも含めてね
だってさ 空飛ぶネコだぜ
そもそも ネコがいるとか いないとかさ
だって 屋上だよ
野良のいっぴきくらい いついてたって不思議じゃないだろ
ワタシたちの視線って 煙突が吐く煙に似てるんだって
ほら 軽油とか 重油とか あの黒いもくもくみたいなもんなんだって
だからね ワタシたちが見上げるたびに 星は煤けてくんだって
まさかね 嘘っぽいわよね 怪しいもんだわ
あ そうだ
ネコと言えばさ この街にはルールがあるんだ
ボクたちにとっては 当たり前のことなんだけどね
よそのヒトは みんな 不思議がるんだよ
誰もさわったことがないんだ
えっ ネコにだよ
だから ボクたちがだよ
どうしてかって
うーん どうしてなんだろう
昔からそうなんだ
ダメなものは ダメ
だってさ ルールなんだからさ
それから 都合のいいお願いも控えたほうがいいって
恋人ができますように とか
アイドル(地下はイヤ)になれますように とか
こういうのが いちばんまずいらしいのよ
身勝手なお願いってね コールタールみたいにこびりつくらしいの
星にね べったりよ
それで 徐々に光が奪われていくらしいのよ
小さな星だと ひと晩で群青色になっちゃうんだって
でもね 見上げてごらんなさいよ じゅうぶんきれいよね
くすんでる星なんて 見当たらないわよね
管理人クンが言うにはさ
そのネコが 星を磨きはじめたっていうんだよ
尻尾をさ ほうきみたいに揺らしてさ 星を磨いてたって
アイツ きっと特別なネコなんだって
ねぇ 星ネコって知ってる
小さいころ おじいちゃんから聞いたこと あるのよねぇ
星を磨くネコがいるって
しっぽでね 煤を払うんだって
ただ ヒトにさわられると ただのネコになっちゃうの
だから この街ではネコにさわっちゃいけないんだって
つくづくロマンチックなお話よね
でも まぁ そんなネコなら いてもいいかもしれないわ
あ それより爪よね
夜空をひっかくの
流れ星とか 細い三日月って
もしかして ネコの仕業なんじゃないの