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さすが先生、渋いですね
実験を終えて、ノートをまとめることになった。地球の周りを月は廻る。太陽の位置は動かないから地球から見ればさまざまな形に反射して光る月が見える。月の位置が日々変わることで、自ずと見え方が変わってくるのである。
これを図で表す。苦手な子には「教科書の図を写してもよい」とする。もちろんよく理解している子は、何も見ずとも次々に図を完成させている。要するにそれぞれにノートに向き合っているのである。
ノートが完成したら、タブレットに入っているアプリを使って写真を撮って提出させる。各自が提出したノートは全員が閲覧可能である。凄いノートは誰が見てもすごい。当然子ども達はこれらを参考にするわけだ。
ふと見ると、筆が止まっている子がいる。まるで気持ちの悪い芋虫を踏んづけたような顔をしている。
近づくと「先生、俺、こういうの苦手なんですよね」という。「そりゃ先生も知っている。君とは3年の付き合いだからね」と私。そして付け加える。
「苦手なことから逃げずにチャレンジする人。そういう人間が最終的にカッコいい大人になるんじゃないかな」
この「カッコいい」という言葉が、結構子ども達にはヒットすることがある。
「さすが先生、相変わらず渋いこといいますね」
とかなんとか言いながら、彼はノートに書き込みを始める。そして意外にも(3年間も接しているので意外でもないのだが)しっかりとした図を書いている。
「前から思ってたんだけどね。才能あると思うよ」
そう一言告げてその場を後にした。
授業後アプリを開けてみる。完成したノートと共に、月について詳細に調べたカードがそこには添付されている。