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J1 第37節 湘南ベルマーレ戦 雑感

2019年この地で鈴木徳真選手の放ったシュートがゴールに到達するまでのシーンがスローモーションで何度も頭の中にフラッシュバックするという徳島関係者は少なくないだろう。我々は帰ってきた。2年前、ここに置いてきた忘れ物を取りに。残留を争う者同士の直接対決として今度こそ湘南を倒すために。負ければ降格が決まる可能性もあるLAST2、37節は因縁のレモンガススタジアムに乗り込んで湘南ベルマーレとの6ポイントマッチとなった。

試合直前にショッキングなニュースが飛び込んで来た。湘南のオリベイラ選手が急逝された。前日の練習にも参加するなど大きな健康上の懸念はなかったようで、検視の結果、死因は急性うっ血性心不全と発表された。若いプロスポーツ選手の急死は残念ながら世界中でしばしば報告されている。最も大きな医学系文献検索エンジンであるPubmedを使用し「athlete sudden cardiac death」のkey wordで検索をかけると実に2624もの文献がhitする。ゼロにはならないかもしれない、それでも積み上げられた知見によって、こんな悲しい別れが一例でも少なくなることを願って止まない。謹んでご冥福をお祈りする。特に湘南の選手たちにとってはメンタル的に今節はとても難しい試合になったことは推察される。

徳島のスタメンは前節から一人変更。前節PKを相手に与えたプレーでもらったイエローカードが累積4枚目になったジエゴ選手が出場停止。代わりに田向選手が先発入り。これまで田向選手の出場を切望するサポーターも多くいたが、実に久しぶりの登場となった。ジエゴ選手よりも高さや推進力では劣るかもしれないが、守備の安定性や周囲との連携面では優位と考えられこのメンバー変更が吉と出るかどうか。

序盤から静かな立ち上がり。引き分けでもほぼ残留が決まる湘南は予想していたよりも前からプレッシングに来ない。中盤辺りで構えてこちらのビルドアップを引っかけたら素早く攻める算段。必然的に徳島がボールを持つ時間が長くなるが、徳島も慎重にゲームを運ぶ。基本はサイドの裏を狙ってやや長いボールを蹴ることが多くなった。

お互い動きの少ない膠着した前半ではあったが、個人的には「攻めあぐねている」とか「焦れる」とかいうnegativeな感情は全く湧いてこなかった。なぜなら、いつも以上に徳島の選手が相手の出方を「見ている」ことがわかったから。「相手の動きを見て」「相手を動かして」サッカーをするのはJ2を席巻した2020年 徳島のサッカーであるが、ここに来て昨年のdoctrineに立ち返り、これをポヤトス監督のサッカーと融合させた(折り合いをつけたというべきか)、2021年のいわば完成形を見せてもらっているように感じた。スコアは動かずハーフタイムに突入したが、この時点で「いけるんじゃないか」という予感はあった。

後半先にギアを上げたのは徳島。ボールを保持しながら全体を押し上げ相手を敵陣に押し込んでいく。今節も左サイドで西谷選手が起点となりチャンスを作る。63分に徳島は選手交代。鈴木徳選手に代えて杉森選手を、垣田選手に代えてバケンガ選手を投入。ボランチを2枚にして右サイドに杉森選手を配置、宮代選手を真ん中に持ってくる4-2-3-1のような形にフォーメーションも変更。

ゲームが動く中で遂に均衡が破られる。64分 左サイドを宮代選手と西谷選手のワンツーで突破。折り返しを中で受けた宮代選手のシュートは相手に当たってCKを獲得。岩尾選手はボールをセットしすぐキックモーションに入る。そのとたん、ゴール前の徳島の選手たちは湘南のマーカーを引き付けてニアへ結集。岩尾選手の右足から放たれたボールは低い弾道で密集地帯を超えていき、ぽっかり空いたファーのスペースへ。そこへ後ろから走りこんで来た宮代選手がぴたりと合わせてダイレクトボレーでシュート。ゴール右隅をとらえたシュートはGKに弾かれるものの、詰めていた岸本選手が相手DFに後ろからユニフォームを掴まれながらも押し込んでゴール。非常に美しい、デザインされたセットプレーがものの見事に決まり徳島が先制。

先制後、ゴールが必要な湘南が攻勢を強めたため、少し押し込まれる時間が続くものの徳島は終始安定した守備を披露。そしてタイムアップ。2年前に置いてきた忘れ物、奪還完了。同時に遂に一つ上の順位だった湘南に勝ち点で追いついた。

今節の勝利で徳島は過去を清算し、残留という未来を自分たちの手元に引き寄せた。前節に引き続き今節も「徳島らしく」戦い、ゲームをコントロールして勝つことができた。繰り返しになるが、時間はかかったもの最後の最後で2021の徳島はチームとして一つの完成形に達した。

この時期になると毎年思うことがある。サッカーの1シーズンはひとつの物語であると。試合に勝った・負けたという結果がもたらす、チームという生き物の機微な移ろいを我々も1年間かけて追体験するのだ。最高のハッピーエンド(リカルドはいなくなっちゃったけど)を迎えた2020シーズンだけでなく、最後の最後で絶望を味わった2019シーズンだって物語としては抜群のものだったと、今ならそう思える。そして2021シーズン。本当に色々なことがあった。それでも今年も最後の瞬間までワクワク・ドキドキしていられそうなことにこの上ない喜びを感じ、徳島ヴォルティスに関わる全ての人に感謝したい。

徳島ヴォルティスの2021シーズンという物語の最終回の幕が間もなく上がる。その先に待つのは歓喜か、絶望か。



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