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J1 第33節 大分トリニータ戦 雑感

前節、残留を争う横浜FC相手に壮絶な打ち合いを演じ敗れた徳島。何とか残留圏内に留まるものの、依然綱渡りの状態が続いていることに変わりはない。今節もまた、すぐ下の順位につける大分が相手。今節こそ勝たねばならない。対する大分も前々節、前節と連勝しここで徳島に勝てば順位が入れ替わる位置まで上がってきた。残留の命運を握るともいえる33節はポカスタでのホームゲームとなった。

スタメンは前節から2人を変更。前節怪我から復帰し途中出場して得点にも絡んだ宮代選手が浜下選手に代わってスタメンに、また、ボランチの鈴木徳選手に代わってU-23代表にも選出されたジョエル選手がメンバーに名を連ねた。

前半、徳島にとっては向かい風。筆者はこの試合を現地観戦したがかなり強い風が絶え間なく吹いていたように思う。そんな中、序盤は後ろでボールを保持するとそこから前線目掛けて長いボールを蹴るシーンが目立つ。前節の結果を踏まえ、ゲームの入りを慎重にしたのかもしれない。当然風の影響を受けてどうしても寸足らずになりうまくターゲットに収まらない。相手に回収され押し込まれるシーンもしばしば。しかし、時間が経つにつれて次第にボールを保持し敵陣に相手を押し込むシーンも出始める。お互い何度かゴール前で惜しいシーンを作ったもののスコアレスで前半は終了。

後半は追い風になることもあり、徳島がボールを握って敵陣内でプレーをする時間が増える。この試合でも垣田選手の走力と懐の深さは大きな強みとして発揮され、スタメンに返り咲いた宮代選手も強度の高いプレーを見せた。

なかなか得点が動かない中で迎えた70分、徳島に待望の先制点が生まれる。右からのCKに驚異的な跳躍力をもって頭ひとつ抜け出したカカ選手が合わせる。このシュートは相手GKのファインセーブにあったものの、ファーにこぼれたボールを宮代選手がダイレクトボレーで叩き込んでゴール。宮代選手は前節のアシストに続き、今節は自身10試合ぶりの得点で垣田選手と並んでチームのトップスコアラーに返り咲いた。

62分に3枚替えを敢行していた大分だったが、失点直後さらに2枚替え。5枚の交代カードを使い切り4バックにシステムを変更。町田選手と野村選手の左右も入れ替える形に。この変更により徳島は相手をうまく捕まえられず大分の前線へボールが供給され始める。すると80分、徳島は同点に追いつかれてしまう。左サイド高い位置まで上がってボールを持っていた相手SBにボランチが絡んで徳島の守備網を突破。フリーでアーリークロスをあげられる。後ろ向きに走りながらの福岡選手のクリアは不十分で長沢選手におさめられシュートを打たれる。これは何とかセーブしたもののこぼれたところにいた町田選手に決められる。徳島としては相手の変化に対応するまでのわずかな時間にやられてしまった。

終盤に差し掛かっていたこともあり、前掛かりで勢いを強める大分の攻撃を凌ぐ徳島も攻め急ぐシーンばかりが目立ち、次のゴールは生まれないまま残留を争う両チームにとっては痛いドローとなった。

徳島は試合を通じてやや攻め急いでいるように見えた。ボールを奪うとすぐに縦につける攻撃が目立ち、単調に見える時間もあった。この辺りは鳥栖戦での大成功が悪い意味で脳裏に焼き付いてしまっているところがあるのかもしれない。それでも個の質で劣らない、ともすれば優位性を見出せる今節の相手には脅威となるシーンを作ることができたのも事実である。


試合後の岩尾選手のコメントが一部物議を呼んだようである。少なくとも岩尾選手はこの試合の結果だけでなく内容においても満足していないようであった。さらにコメント内で2つのことについて言及している。ひとつは「徳島が積み上げてきたスタイルを表現できていないことに対する失望」、もうひとつは「戦術に拘泥し勝利という目的を見失っているように見えることへの危惧」である。



宮代選手のコメントから、今節は相手を引き込んでひっくり返すという戦い方がプランとして与えられていたようである。鳥栖戦のイメージは選手だけではなく指揮官にも大きな影響を与えていたのだろうか。確かにこの戦い方は岩尾選手の言うところの「徳島が積み上げてきたスタイル」とは違うようにも思う。したがって、今日は徳島のスタイルを表現できなかったという指摘はもっともだろう。

では、今日の徳島は「戦術ありき」で勝つという目的が明確でなかったのだろうか。

個人的にはそうは思わない。確かに当初は「鳥栖戦でうまくいったからって・・」と思わないことはなかったが、大分の戦術的特性や選手の質を踏まえると、勝つためには今日の戦い方がベストだとポヤトス監督は考えたのではないだろうか。ボール保持へのこだわりを捨てることで相手の術中にはまるリスクを回避し、前線の選手が相手DFに対して質的に優位に立てることを踏まえてシンプルに攻撃するというプランは至極現実的にも見える。

もちろん、どういう戦い方をするのが勝利に一番近いのか、ということについて唯一絶対的な正解はない。そうだとしても今日のチームの振る舞いが正解を出すことを放棄していたとは思えない。ポヤトス監督はリカルド前監督よりもずっとリアリストであるとつくづく感じる。そもそも徳島のスタイルを貫くことだって「勝つことより戦術か」という同じ批判に晒される可能性すらある。どのような方法をとってでもとにかく目の前の試合に勝つことを優先するのか、チームとしての成熟・ブランディングも含めた長期的な視点で「徳島スタイル」を大切にすることを優先するのか、ということについてはまた別の話である。

思慮深い岩尾選手のことなので、筆者ごときには想像も及ばない深い意図や思いありきのコメントなのだろうとは思うが、珍しく個人的には違和感を覚えることとなった。

今節、湘南が横浜FCに勝利したことで徳島は再び降格圏に沈むことになった。仙台には勝ったものの、横浜FCに敗れ大分には引き分けるという厳しい6ポイントマッチ3戦であった。ここからはさらに厳しくなる。希望の光は少しずつ小さくなっている。ただ、まだ残っている。最後の最後まで徳島のために祈り、目標の達成を願う。



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