「伝える」と「伝わる」の間にあるものは? 大学生と考える震災報道の課題
こんにちは、オープンコラボレーションハブ「LODGE」です。
3月7日、LODGEと千代田キャンパスコンソの共催による「防災・減災体験ワークショップ」のプログラムの一環で、社会学および防災工学の専門家である江戸川大学の隈本邦彦先生をお招きし、講演をいただきました。
関連記事:
隈本邦彦先生プロフィール
講演の4日前、私たち社員とプログラム参加中の学生さんたちは福島県の被災地を見学しました。現地での記憶を織り交ぜながら、震災報道における課題や、災害教訓についてお話を伺いました。
当時の報道で見る「3月11日に何が起きたか」
講義前半は、当時のニュース映像を交えながら、発災直後の状況を時系列で解説いただきました。発災直後に官邸で第一報が伝わる様子や、各地のカメラが捉えた津波の様子、地震規模が分かるにつれて報道の内容が緊迫度を増していく様子が投影されました。
当時10歳以下だった学生さんにとって、発災直後の映像を見る機会はなかなかなく、じっくり見るのは初めてとおっしゃる方も。この日は学生さんのほかヤフー社員数名も見学をしていましたが、LODGEを通りがかった社員も数名が立ち止まり、見学していました。
被災地では発災後に大規模な停電が起きました。たとえば仙台では発災後2分で停電しています。NHKでは津波が町を飲み込む様子を世界で初めて生中継しましたが、津波が迫っている、本当に情報を届けたい場所にいる方々に映像を見てもらうことはできず、大きな課題が残りました。
ラジオ局には非常電源が備えられているため、停電時でもラジオ放送が可能で、いつでもどこでも聞くことができます。隈本先生はいつも小型の防災ラジオを携帯していると紹介くださいました。
「受け身にならず、自ら考え行動することの重要性」
講義後半のテーマは震災報道における課題です。犠牲者の有無や遺族感情への配慮から、本当に伝えるべき教訓を伝えづらい状況がメディア側に生まれてしまう、といった内容はとても衝撃的でした。
宮城、岩手の小学校の事例をもとに、犠牲者数の違いはどう生まれたのか、本来どのような準備、教育があるべきだったのか、お話いただきました。
本ワークショップのテーマでもある「受け身にならず、自ら考え行動することの重要性」がここでも語られました。また、3月3日の福島県での語り部講話にあった「想定は役に立たない」と同じフレーズがありました。
阪神・淡路大震災のデータから見る「本当の教訓」
最後に、1995年の阪神・淡路大震災の様々なデータをもとに、防災における本当の教訓についてお話をいただきました。データをもとに震災の全容を振り返ると、誤った認識をしていたことに気づかされます。ここでも、地震発生直後の貴重な映像をご紹介いただきました。
阪神・淡路大震災の当時のニュース映像を見ると大規模な火災のインパクトが強いですが、データを見ると過半数が窒息、圧死だと分かります。耐震性の高い家に住むことや、家具の耐震補強の重要性を再認識しました。
さらに、阪神・淡路大震災の死者の年齢分布をみると、20代前半の若者と、お年寄りが突出して多いです。学生用アパートや古い家など、耐震性の低い家の被害が大きかったことが分かります。
一方で、「耐震補強をしていれば助かった」というメッセージは、死者に鞭打ち遺族を責める内容になってしまい、報道する難しさがあるといいます。
メディアが「伝える」行為(報道)と、世の中に「伝わった」状態の間には、停電など物理的な難しさに併せて遺族感情への配慮など、様々な課題があることを学びました。いざとなったらテレビやネットで情報収集できるから大丈夫……と慢心するのではなく、改めて、日頃から正しい備えをすることと、受け身にならず情報を取りに行く姿勢が大事であることを学びました。
学生さんの声
講義の終了後には、グループワークで印象に残ったことなどをディスカッションしました。
また、「古い実家の耐震補強について、家族と本格的に考えたいと思った」「改めて家具の固定など、当たり前だと言われていることをきちんとやろうと思う」などの声も。先生のお話を聞いたことで、自然に当事者意識につながったようです。
講義終了後は、ヤフー、LINE社員や法政大学の職員さんなど、様々な方が隈本先生と意見交換していました。