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トヨタコネクティッド株式会社 ⼭﨑陽平様に聞く 生成AI業務改善

生成AIサービスのプロダクトオーナー、エバンジェリストなどトップランナーの皆さんへのインタビュー特集「突撃!隣のプロンプト!」へようこそ。

今回は「トヨタコネクティッド株式会社」AI統括部 チーフプロセスアナリストの⼭﨑陽平 様から、生成AI業務改善についてお話を伺います。
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「限りなくカスタマーインへの挑戦で新たなモビリティサービスを創る」トヨタコネクティッド株式会社

——御社と⼭﨑様について、読者の方へ自己紹介をお願いいたします。

トヨタコネクティッド株式会社」の⼭﨑陽平と申します。AI統括部のAI戦略室 プロセスチームで、チーフプロセスアナリストを務めています。

当社は、トヨタグループの一員として、主にコネクテッドカー領域のサービスを展開しています。本年はChatGPTで知られるOpenAI社とも密接に連携し、AIを力強く推進するAI統括部が立ち上がったところで、大変面白い会社ではないかと考えております。

トヨタコネクティッド株式会社公式サイト:https://toyotaconnected.co.jp/

私は業務プロセスの可視化分析、AIソリューションの設計企画、モデルの精度検証を担当し、効率的な業務改善を推進しています。

開発チームや、業務分析ができる人を提供し、各部の大規模な業務のリソースをAIツールで解決する

——プロセスアナリストについて、詳しく教えてください。

AI統括部の業務改善には二つの方針があります。一つは、AIにまつわるリスキリングを行い、社員自らが自主的な改善をできるようにすることです。

もう一つが業務推進です。AI統括部内部から業務分析や高度な開発ができる人材を提供し、各部の大規模業務を業務フローから変えたり、AI・自動化ツールを用いて解決します。

私は後者にあたる、業務分析と開発の要件立てを行い、大規模な業務改善を進める役割を担っています。

ファーストインプレッションはまだ疑問の残るものだったChatGPT

——ChatGPTのファーストインプレッションを教えてください。

ChatGPTに初めて触れたのは2022年11月末の登場直後でした。実は、事前の期待値としては、あまり使えないだろうと思っていました。自然言語系のAIの一部を置き換えることになるとは思っていましたが、マルチモーダル化やエンジニアリングへの適用などすべての業務に影響を与えるほど有用とは全く想像もしていませんでした。

最初の印象や実際に使ってみたときのファーストインプレッションも、速度や精度を含めて、上記の想像通りの印象だったと思っております。

生成AIを使った業務改善で月500~600時間ほどのコスト削減を実現

——トヨタコネクティッドでプロセスアナリストとして携わるまでの経緯を教えてください。

当初の印象とは異なり、ChatGPTを継続的に使用するうちに、その多様な可能性が明らかになってきました。

また、生成AIは急速に進化し、アップデートごとに品質・速度が向上していますし、利用にかかるコストも低減しています。また、様々なサービスとの連携により、機能が大幅に拡張されてきました。

例えば、情報検索が格段に容易になり、顔認識や背景除去などの高度な画像処理を必要とせずに動画制作が可能になりました。生成AIのアップデートに合わせて、私も生成AIを使い続けていくようになっていました。

その中で、大手グルメサイトを運営する会社様でもAI利活用推進案件の担当をすることとなり、記事作成支援などで月500~600時間ほどのコスト削減を実現しました。そういった実績を踏まえ、トヨタコネクティッドからお声がけがありました。

伝統ある自動車業界でこのような先進的な取り組みができることに魅力を感じ、参画を決意しました。最初に軽くお話があったのが2023年11月から12月ごろで、2024年2月に入社しました。

プロセスアナリストの四段階アプローチ 効果的な業務改善の鍵

——プロセスアナリストの取り組みにおいて、特に重視されているポイントは何ですか?

私たちは通常、本格的な実装の前にPoC(実験)フェーズを設けています。これにより、効果的かつ効率的な導入を目指しています。実験フェーズは大きく四つの段階があり「① : 業務棚卸し」「② : 業務分析・方針検討」「③ : モデル作成とオフライン検証*1」「④:MVP*1作成とオンライン検証*3」の4ステップに分かれます。

*1 オフライン検証: 実際のユーザーや本番環境を使用せずに、システムやアルゴリズムの性能を評価するプロセス。
*2 MVPシステム: Minimum Viable Product(最小機能製品)システム。最小限の機能を持つ製品版。主要な価値提案を検証するために開発される初期バージョン。
*3 オンライン検証: 実際のユーザーや本番環境でシステムやアルゴリズムをテストし、ユーザのリアルなフィードバックを得るプロセス。

① : 業務棚卸し

「① : 業務棚卸し」の目的は、「a : 効率化のインパクト」と「b : 実現可能性」の面から「どの業務を改善対象とするか」です。

「a : 効率化のインパクト」算出においては、「1件ごとの業務工数」や「月間発生件数」から大枠の業務工数を算出します。「b :  実現可能性」については、「顧客個人情報の扱い」や「関連システムの数」などから予測を立てます。上記を記入する棚卸しフォーマットを作成しており、できるだけ標準化した方法で棚卸しし、効率化対象業務を選定します。

② : 業務分析・方針検討

①で効率化対象業務を決めたら、「② : 業務分析・方針検討」に移ります。目的は、対象業務の「ASISとTOBEの業務フロー作成・認識すり合わせ」です。

選定した業務に対して詳細なヒアリングやAsIsを分析し、「業務フローがどうなっているのか?」「フローのどこに時間がかかっているのか?」「AIに利用させたいデータは?」を把握します。その後、AsIsを元にToBeを描き「AIが業務フローのどこに影響するのか」「AIの結果を確認・保守する部分がどこか」などを担当者とすり合わせます。

③:モデル作成とオフライン検証

方針が決まったあと、「③:モデル作成とオフライン検証」に進みます。目的は、手元での検証データでモデル精度を図り、ユーザリリースの基準を関係者と合意することです。

オフライン検証は時間がかかるので、飛ばしてしまう場合も多く見受けられます。精度が悪くても許される環境で初期リリースする場合には、オフライン検証無しで「④ : MVPシステム開発」にうつるのも良いでしょう。

一方で、「AIを作ってみたけど精度がいまいちだからモデルの精度改善をしていきたい」となった場合には、オフライン検証は確実に必要なステップとなります。

この場合、オフライン検証を行うことで、精度が良くなったか悪くなったかの説明責任も果たせます。そのため、少数事例でもいいので、オフライン検証を入れることをおすすめします。

④:MVP作成とオンライン検証

モデルの精度がユーザに使ってもらえると判断したら、「④:MVP作成とオンライン検証」に進みます。目的は、「定量的な工数削減効果や定性的なシステム利用満足度の測定」です。

本ステップでは、「a : MVPシステム開発のスピード」と「b : MVPシステムのUI/UX」を重視します。ユーザからのフィードバックをもらうことが目的なので、aで時間をかけることはプロジェクト遅延に繋がります。

一方で、MVPシステムのUI/UXを犠牲にしていいということでは有りません。ユーザは小さな面倒を非常に嫌います。AIの精度が良くても、インプットデータの投入が手間だったり、工数削減や満足度に繋がりません。OSSやノーコードツールなどを利用した、スピードとUI/UXの両立をした進め方が非常に重要です。

本番実装

これらを経て、「AIモデル/MVPシステムの効果がある」と判断されたら本番の実装を行います。①〜④に示す実験フェーズを経ることで手戻りを減らし、作ったものの利用頻度が低いといった事態を避けるよう心がけています。

業務の担当者や関係者との認識すり合わせで特に重要なポイントは、「① : 業務棚卸し」の部分で、「効率化のインパクト」と「実現可能性」を早い段階で把握することが非常に重要だと考えています。

例えば、工数をしっかり把握した上で改善を検討しないと、開発者のリソースや私たちのリソースを投入した結果、ROIが見合わないという事態に陥る可能性があります。そのため、ある程度の開発工数を事前に把握しておくことが重要です。

また、生成AIへの期待値やフィジビリティについても早めに調整が必要です。AI導入で全てが自動化されるわけではありませんし、高精度の結果が常に得られるわけでもありません。

時には運用方法自体の見直しが必要な場合もあります。例えば「データの形式が統一されていない」など、AIを導入する前に解決すべき課題がある場合もあります。

精度についても、60%から80%に上げるのと、80%から85%に上げるのでは、かかる時間や労力が大きく異なります。そのため、精度への期待値と工数のバランスを考慮し、適切なROIが得られるよう運用することが重要です。これらの点について事前にすり合わせを行うことが、非常に大切だと考えています。

AI導入における課題は、期待値調整と効果検証の重要性

——プロセスアナリストの取り組みにおける課題や難しさを感じるところがあれば、教えてください。

主に二点あります。

一点目は、AI精度に対する適切な期待値の設定です。AI導入で全てが自動化されるわけではなく、常に高精度の結果が得られるわけでもありません。早い段階で、この現実を関係者と共有することが重要です。

二点目は、実際の効果検証です。AIの精度だけでなく、実際に業務改善や工数削減につながったかを確認することが重要です。そのため、できるだけ早い段階でオンライン検証を行い、実際の効果を数値で示すようにしています。これにより、本当に達成したいことは何かを再確認し、実利用での効果を確認することができます。

これらの課題に対処するため、事前の期待値調整と早期の実利用検証を重視しています。関係者との綿密なコミュニケーションと、実データに基づく効果検証が、成功への鍵だと考えています。

移動中に考えをまとめてもらうなど、日常のあらゆる場面でAIを活用するように

——プロセスアナリストの取り組み以外に、生成AIを業務で活用されていますか?どのように活用されていますか?

ほぼ全ての業務で生成AIを活用しています。業務関連のリサーチはもちろん、スライドの骨子作成、サービスリリース時の説明手順書作成、ブランディングのための画像作成など、様々な場面で利用しています。最近では、タイピングが面倒に感じることもあり、音声入力しながらChatGPTに文章を作成させることもあります。

シナリオ作成なども、大まかな指示で文章を作成してくれるため、スマートフォンで仕事ができるようになってきました。移動中に考えをまとめてもらうなど、日常のあらゆる場面でAIを活用するようになってきています。業務指示を出すような感覚で利用しています。

「ハードルを下げる」ことが生成AIの最大の利点

——生成AIで一番魅力的に感じるところを教えてください。

生成AIの最大の魅力は、自分の能力を大幅に拡張してくれる点です。具体的には、業務処理能力が約1.5倍になったような感覚があります。優秀な学生が入社したようなスキルレベルで、様々なことを即座にこなしてくれます。これにより、多くのことへのハードルがどんどん下がってきているのが最大の利点だと考えています。

例えば、プロトタイプ作成や英語での文書のやり取りなど、これまでハードルが高くて実行できなかったことが、一気に実行可能になりました。自分でも挑戦しやすくなり、新しいことを学びやすくなったと感じています。

技術の進化により、画面作成や公開・リリースまでも、言葉で指示するだけで可能になる日が来るかもしれません。記事作成や動画制作も、自分のアイデアを外部に発信することがより容易になってきています。

業務改善の文脈で言えば、開発のハードルが大きく下がることで、誰もが自由に業務改善を行える世界が来るかもしれません。そうなれば、時間や工数を気にせずに、面白いアイデアを実現できるようになるでしょう。

最終的には、生成AIによって業務改善のプロセス自体の価値が変わり、現場の人々が自由に創造的なアイデアを実現できる世界になることが、最も面白い展開だと考えています。

生成AIはビジネスにおける必須のツールで、競争力を保つための鍵

——この記事を読んでいる方に生成AIをお勧めしていただけますか?

生成AIの活用を強くお勧めします。今や、生成AIを活用しないということは、1.5倍から2倍の作業力を持つチームを持たずに他社と競争しているようなものです。1年後、2年後にはさらにその差が顕著になると予想されます。

生成AIの活用により、業務の効率化と新しいアイデアの具現化が可能になります。まるで自分の分身を得たかのような生産性向上が期待できます。これからの時代は、生成AIを使いこなすことが、ビジネスの成功に欠かせないスキルになると感じています。

最初は小さな部分から始めても構いません。まずは自身の業務の一部を生成AIに任せてみて、その効果を実感してください。それが、次第に業務全体の効率化や新しいビジネスチャンスの発見につながっていくでしょう。

生成AIは、今やビジネスにおける必須のツールであり、これを使いこなすことが競争力を保つための鍵になります。ぜひ、一度試してみてください。

様々な階層に提案、相談し、大きな業務改善に挑戦していきたい

——プロセスアナリストの取り組みならびに御社事業の将来展望について、聞かせてください。

まず現在の課題から説明します。課題は主に二つあります。

一つ目は、徐々に解決されつつあるのですが、意思決定手法がボトムアップなので、大きな業務改善を見つける為の工夫が必要だということです。他社では、トップダウンで業務の棚卸しを行い、各業務にかかる時間を把握した上で改善を進めているケースもあります。

私たちのチームでは現在ボトムアップ的なアプローチを取っており、社内営業的な活動を通じて、皆様の協力を得ながら大きな案件を見つけていく方法を用いています。

二つ目の課題は、発見した案件をしっかりと推進していくことです。

先般リスキリングチームと協力して業務棚卸セミナーを実施したところ、約160点の業務リストを社内からいただきました。これらの業務は年間3000時間から4000時間ほどの所要工数がかかっていることが特定されました。これらの中から大きな業務改善や工数削減につながる効率化を積極的に進めていく予定です。

この業務棚卸セミナーでいただいたタスクは、社内のアンバサダー的な役割を持つ方々からご提供いただいたものです。

創出した案件をやりきっていき、社内に対してのAI統括部のブランディングも高めていきたいです。また、数多くの案件をやり切るためにも、共通できる作業や進め方の標準化を行って、多数の案件を推進できる基盤を整えていきたいですね。

AI統括部ではnoteを更新中

お話を聞いた方

トヨタコネクティッド株式会社
A・I統括部 チーフプロセスアナリスト ⼭﨑陽平様

(聞き手・撮影:ロコアシ事業部長 あさい

ロコアシ:AI活用人材にデスクワークを委託!

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