背中で聞いた軽部の叫び
今でも思い出すと背筋が凍る
笑い話になって良かったといえる
僕のお気に入り話のひとつ
起 出会い
承 誘い
転 公園
結 叫び
起 出会い
あれは高校2年の春休み
若者の勢いだけで友達と遅くまで遊び尽くした夜の静岡駅
さあこれから家路につく所でしたがたった220円で家まで帰してくれる頼みの最終バスが無い
タクシーでは2000円かかる。よほどの決断力と経済力がないと高校生には難しい
しかしながら、春の心地よい風と深夜のテンション上げの状態から「少し家まで歩いてタクシー代を浮かす」作戦をたてた
これが中々気持ちよくてテクテク軽快に歩いていますと、後ろからマウンテンバイクに乗ったサラリーマンが通り過ぎ、くるっとUターンして声をかけられた
「こんばんわ~今何時かわかる?」
きっと真面目な会社勤めで部下からの信頼も厚く中肉中背で顔が大きい。声のトーンも軽くて聞きやすい、そしてマル眼鏡が良く似合う男性はなんだか軽部アナに似ていた
「あ、1時過ぎくらいですね」
近くで見るとサラリーマン必須アイテムの腕時計をしている事にこの時は気にも留めなかった
「こんな時間にどこいくの?家に帰る途中?」
僕は春の風と家路のお供に軽部さんとの会話する事をすんなりと選んだ
承 誘い
話すとこれが中々楽しい局アナで音楽やTV番組の話題、昔卓球部だった事など、どんどん共通点が出てきて一気に仲良くなった気がしました。さすが軽部さん人当たりが良いな~楽しいな~(それミラーリングだよ!!)
そして会話が盛り上がる中、眠気と疲れが顔を出し始めたその時、軽部さんからお誘いがありました
「もうさ、うちこの近くだから泊まりに来ちゃいなよ」
「え~あーいいすね!」(ノリと深夜テンション)
軽部さんの眼鏡がキラリと光りました
「一人暮らしだしさっホントすぐそこだから」
「朝ごはん買って何か食べたい物ある」
なんだか軽部の雰囲気が変わってきました
「いやーいやいや、君いい身体してるね」
「ベット一つだけどいいかな、布団もあるけど一応ね」
「あーわくわくしてきた楽しみだね」
あれ~なーんかおかしいな~怖いな~怖いな~
言葉使いや柔らかい雰囲気が急に出てきた
やっぱり、普通に、いやかなり、なんかおかしい
もしかして、あれーこれは
ものすごく不安に駆られ超絶家に帰りたくなり、次の角で軽部宅とは逆方法に曲がることにしました
「すいません!やっっぱり親が心配するので!帰りますね!!」
しかしそんな事では軽部は引き下がりません。反対方法なのにこちらへ着いてきて勧誘が続きます
「いやいや全然大丈夫。問題ないからさ~大丈夫さ~おいでよねー」
点 公園
そして僕の家に帰るのには大きな公園を通り過ぎる必要があり、この公園に入ってからグイグイっと怒涛の勧誘が始まります
「なんか肩幅意外とあるんだね~」
「いい太ももっいい筋肉っ!」
「ヒゲも生えるタイプなんだかっこいいね」
なんかめっちゃ触ってくる!!
なんで?さっきまで部下から信頼が厚い爽やか軽部だったのに、いつからアフターキャバ嬢口説くゲス軽部に!
ある疑惑を持った僕は公園を出たら完全に逃げる事に決めました
結 叫び
公園の出口で僕は「すいません!もう!帰りますね!こっちなんでサヨナラ!!」と早口で言って振り向きもせずにダッシュ!
すかさず
「ちょ、待ってよ~もう少し話そうよ~」
IKKOさんのイントネーションで軽部がまだ着いてきます
「いや!すいません!ほんとに!」
一生懸命走ってますが、押していたマウンテンバイクに跨った軽部を中々引き離せません
「いいじゃんいいじゃん早く家いこうよ~」
欲望を剥き出しにしてきたモンスター軽部!
そして確信をもった僕はマウンテンバイクが入って来れない石垣を超えて遂に安全な距離を確保する事に成功しました!
「さよーならー」と言い放ってそのまま一目散に家路にダッシュする僕の背中にこの戦いの負けを悟った軽部が叫びます
「僕さぁ実はゲイなんだよねーー!」
やっぱりー!!だよねーー!!ずいぶん前から感じてました!!
そのまま怖くて振り向かないで走り続けていると軽部から最後にもう一言
「最後にさぁチュウしようよー!!」
なんでやねん!!!!
最後の叫びにカモフラージュされていないおじさんの欲望を背中で聴いた 高2の春でした
終わり