組織開発とアプリシエイティブインクワイアリーに関する備忘録
組織開発とは
・人と組織が最善の仕事をできるように支援することを目指す分野
・組織とコミュニティーにおいてシステム的な変化を生み出すためのバリューに基づいたアプローチ
・組織の成果に影響を与えたいという期待や必要性から生まれた学問領域
組織開発の基本となる3つの要素
組織開発には3つの要素(バリューによる意思決定・組織をシステムと捉える・根拠としての行動科学)がある。これらは組織開発の考えのベースとなるもので、それらを用いて組織を望ましい状態にする。
①バリューによる意思決定
決断はバリューに基づいてなされるため、組織開発で最も重要なのが「バリュー」になる。バリューは人々の言動を生み出すもの。組織開発のプラン作りの前には以下の基本バリューの浸透度・共有度を調査する。
- エンゲージメント
- 人間関係
- オーセンティシティー
- 受容性
- 学習を促す環境
- リスペクト
- エンパワーメント
- 柔軟性
- プロアクティビティー
②組織をシステムと捉える
組織開発では組織をシステムと捉える。そのシステムを構成する要素に以下があり、それらを把握して効果的なソリューションをデザインする。そのためにもシステム的な要素がどのように相互関係にあるのか考慮しなければならない。例えば組織カルチャーの変革する際には各要素が変革をサポート出来るようにしたり、リーダーのコーチングを行うときにもシステム全体を念頭に置く必要がある。
- 構造
- 文化
- プロセス(仕事がどのようにして行われたかのかを示したもの。小さいプロセスでは例えば部門間のメールのやりとりなどがある。プロセスには正式なものと暗黙の2種類がある。)
- プラクティス
- ゴール
- 組織の測定尺度
- コミニケーションと意思決定プロセス
- テクノロジー
- スキル
- マネジメントの実践
③根拠としての行動科学
組織開発は行動科学の研究と理論によって裏付けされている。特に以下の著者による書籍にある理論は参考になる。
以上の基本要素を把握した上で、組織開発の実践に進む。組織を変革する方法はいくつもあるが、上記で紹介したクルト・レヴィン氏が考案したアクションリサーチが一般的なモデルになる。
アクションリサーチとは
・組織開発で一般的に最も使われているモデル
・先住民とポジティブな関係を生み出すために開発された手法
・調査し、アクションを考え、実行し、検証を繰り返すプロセス
組織をアクションリサーチでアライメントする
アライメント(整合性が取れている状態)されている組織ではメンバーの役割が明確で重要な仕事にフォーカスしている。さらに適切な権限委譲がされており、1人1人が責任持って取り組んでいる。このようにプロセスはうまく流れて活気付いている。
アライメントされてない組織ではプロセスと構造が品質に問題を生み出す。アライメントされてない原因として「役割が曖昧で混同されたり重複している」や「誰が意思決定を行うのか不明」がある。
アライメントへのステップ
①ビジョン(未来の望ましい状態)・目的(理想的な貢献)・ゴール(数年間で最も重要なプロジェクト)を明確にする。
メンバーを活気づけることが重要になる
②理想的な組織のモデル、プロセス、文化をデザインする。
ここで後述するアプリシエイティブ・インクワイアリーのモデルを利用する場合がある
③理想的な組織デザインと現状のシステム的な要素を比較する
キーとなる障壁やギャップや制約を強調する
④組織のアライメントを改善するための選択肢を生み出す
理想的な状態や現状からアライメントを実現するための選択肢を壁一面に貼り出すことも有効
⑤システム的な要素のリアライメント(システム要素がゴールに貢献できるよう体制を整えること)のプランを描く
これまでの調査から2~3つのプランを作る。プランの構成要素は4つ。
・サポートしたいビジョン、目的、ゴール
・アライメント後の組織が生み出す結果
・メンバーの役割とグループ間のプロセスの変化
・短期と長期のコスト
⑥組織のリアライメント
メンバーが新しい仕事のやり方をやり方を支持出来るようにプランを実行するタイミングを相談する。マネージャーらにコーチングを行い新しい役割について周知とサポートを行う。必要があれば1on1を実施する。
⑦進捗を評価し、必要に応じてリアライメントする
アライメントができてれば煩わしい仕事は減り、モチベーションが向上しているはず。プラン展開後はパフォーマンスと生産性をモニタリングし、評価する。
さらに希望が持てるアライメントを行うために
個人と組織の変革に向けた肯定的なアプローチをアプリシエイティブ・インクワイアリーと呼ぶ。一般的な組織開発のアプローチは問題を見つけて解決していくプロセスを取るが、この場合だとネガティブな考えがベースになり、ポジティブな選択肢を無意識に排除してしまう。そこで注目すべきを問題ではなく可能性に置き換え、より希望が持てるワクワクするような質問にすることで自信と創造性を生み出すことを目指すのがアプリシエイティブ・インクワイアリーになる。このモデルを活用することで参加者が保守的な考えを減らし将来への活力を持ちやすくなる。
アプリシエイティブ・インクワイアリーのステップ
①トピック
今後の方向性ともなる変革したいトピックを決める。問題についてではなく、ポジティブで組織の未来に関係するものが良いトピックです
②ディスカバリー
トピックのポジティブな話を引き出す質問によって、潜在的に持っている組織の強みやベストプラクティスを発見する。これをアプリシエイティブ・インタビューという。
③ドリーム
参加者にビジョンやアイディアなどを話し合って自分たちに何が可能なのか発見してもらう。皆で話すことで境界の枠組みを超えて大きく考えることができる。話し合いによってトピックを実現するビジョンを生み出すことがこのフェイズの目的になる。ファシリテーターはメンバーの議論の参加を促すために成功した将来を想定させ、理想の状態を問うことで視座を高める。
④デザイン
ディスカバリーで組織の強みが分かり、ドリームでトピックを実現するビジョンを生み出したことで、それを実現するために何を変えるべきか(リアライメント)について話し合う。ホワイトボードにオペレーションプロセスやプロセスマップを作成してもいいでしょう。話し合いの結果、メンバーを喚起する刺激的な目指したい姿をステートメントとして残します。
⑤デスティニー
ステートメントを実現するためのアクションやプロジェクトを構築していきます。
新しい方向性に対応するために
ここまでで何を変えて何を実行するべきかが分かりましたが、実行する人自身が新しい方向性に対応するにはどうしたらいいでしょうか。人が変革に対応し、適用するために辿る内的なトランジションというプロセスを活用する。トランジションはこれまで馴染んだことを手放して、新しい方法に慣れていくことで、これによって変革が日常的なものとして受け入れる文化を築くようになる。
人をトランジションさせるステップ
①エンディング
まずはこれまでのベストプラクティスを捨てる。そのため快適性が失われ、喪失感が生まれるため、なぜ変革をするのが正しいのかをマネージャーらが①全体像②目的③役割④計画を説明する。何が古いやり方になるのか認識を周知する。この周知がされないと変革が突飛なものと感じられトランジションのスピードが遅れる。
②ニュートラルゾーン
カオスのフェーズで混乱が生じて苦痛をもたらすが、創造的な活動のために必要な期間。アイディアを生み出すため実験をしたりブレーンストーミングを行う。注意として一時的な生産性の低下を見込んでおく。孤立を感じないようにトランジションのプランに協働出来るように促す。
③ニュービギニング
新しい望ましい行動、役割が明確となる。このタイミングで大切なのはしっかりと成功を讃えること。
組織に影響を与えるためのコーチング
組織開発の実際の推進者は現場のマネージャーだが、彼らの多くはたくさんのプロジェクトを抱え、中には行き詰まった状態となっている。こういう状況は精神的なものであり誰でもあり得るため、この状況では組織開発の実践は難しくなってしまう。
これらの問題はコーチングのサポートによって再び推進できるようになる。コーチングとは相手が自身のゴールにたどり着く支援を行うための会話で、素晴らしいコーチングとは自分はほとんど話さず相手の話を聞き、思考プロセスをファシリエイトする。
人が行き詰まった状態になるには以下の状況がある。これらはコーチングでサポートが可能。
①計画を見失って整理できず、やるべきことを先延ばしにしている場合は、行動可能なことを整理してあげる
②他責な言動をしている場合は、そのような発言をしていることに気づくように促す(ただし深刻なメンタルが原因の場合を除く)
③達成するべきことが不明確でモチベーションが下がっている場合は、意味のあるゴールに再設定する。
④仕事に忙殺されて疲れている場合は、必要のないタスクを除外して意味のあるタスクに時間が使えるように整理する。
⑤ビジョンが不明瞭で何をやるべきか混乱してる場合は、オープンエンドな質問によって行動に繋がるビジョンを明瞭にする。
⑥なぜか実行が億劫になっている場合は、何が原因となっているのかを特定する。実行可能なプランをブレインストーミングするのものいいでしょう。
⑦コーチングを受けること自体に抵抗がある場合は、抵抗を生むトリガーを明らかにし、コーチングを許容しやすい状況を作り出す。
コーチングのフィードバックのフレームワーク
相手の振る舞い方に何か気づいたことがあればSARメソッドを用いるのが良い。以下の順序で伝えることで相手が理解しやすくなる。
①状況(Situation)「あなたは自身のアイディアに対してメンバーに指摘をしてほしいと言っていました」
②行動(Action)「しかし、あなたの態度はフィードマックを求めていないように伝わってきました」
③結果(Result)「そのため、メンバーから発言は無く、あなたはアイディアを改善することができませんでした」
ちなみにSARメソッドは他にもインタビューや採用面接(採用にはTaskを加えたSTARメソッドもあります)でも利用できる。
参考資料
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