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病気の意味

拙著「前世物語」から・・・

   妻の病気の意味
 昔々、東京の下町に、いつも野球帽をかぶった少年がいました。ひとし、と言います。
 ひとし君はさびしん坊でした。いつも石をけって帰って来ました。大きなランドセルが黒いカタツムリに変身します。
 ひとし君の夕食はいつも仏さまと一緒でした。ちゃぶ台が野球場のように広がります。彼はキャッチャーが得意でした。
 夜遅く、お母さんが帰ってきました。お母さんは女工をしていました。ひとし君はお母さんが大好きです。優しい目をしたお母さんは「今の妻」です。
 今夜、彼はお母さんに頼みました。
「一緒に寝て欲しいなぁ」
 でもお母さんはとても忙しいのです。ひとし君はお母さんのニコニコした顔を見ながら眠ってしまいました。
「だって仕方ないもの・・・」
 朝、ひとし君は一人で起きました。もうお母さんは出かけていません。彼は一人で食事の支度をしました。お母さんは近所でも評判の働き者です。そしていつもニコニコしていました。
 ひとし君は大学生になりました。今日は入学式です。彼は新しい学生服と大学帽をかぶっています。
お母さんもきれいな着物を着ています。二人が門の前までやって来ました。彼はお母さんに何か言われました。怒られているわけではありません。でも彼は思いました。
「ごちゃごちゃ言わないで欲しいなぁ。そういうの、嫌なんだ」
 ひとし君はとうとうお母さんに言い返しました。そして怒って一人だけで門の中へと入って行ってしまいました。
 その夜、彼が家に帰るとお母さんが黙って座っていました。ニコニコしていません。彼も黙って座り込んでしまいました。
 ある時、大学生のひとし君は流感に罹りました。身体が寒くてたまりません。どんどん衰弱していきます。お母さんが心配そうに見ています。彼は思いました。
「もう死ぬのかなぁ・・・。お母さんに何も出来なかった。何もしてあげれなかった。これじゃぁ、生きてきた意味がなかったよ。何にも成しえなかったよ」
 お母さんが励ましてくれます。
「ひとし、がんばりなさい」
 先生はひとし君の魂に尋ねました。
「死ぬ場面を通り越しましたか?」
「はい」
「下では何が起こっていますか?」
「お母さんが泣いています」
「それを見てどう思いますか?」
「お母さんに何もしてあげられませんでした」
「お母さんの涙を見た時に、何か決心したことはありますか?」
「入学式の時に母に怒ったことと何もしてあげられなかったことが悔やまれます。母に何かしたかった・・・」
「あなたが死んだ時に、何か決心したことはありますか?」
「今度は自分が面倒を見てあげるんだ」
 先生は彼の魂を高みへと導きました。そして、ひとし君の人生を高みから振り返りました。
「苦労してきた母親に対して何もしてあげられなかった後悔がとても大きいです」
 先生はもっと高みへと導きました。そしてひとし君の人生と、今、生きている人生を比べて見ました。
「人生をそのまま返しています。前の人生を返しています」
 先生はさらに高みへと導きます。彼の魂はそこに柔らかい光を見ました。そして光の中へと入りました。光の中には静かな人がいました。先生はその静な人に尋ねました。
「今回の人生での妻との関係は何ですか?」
「お返しをしたい、という気持が強いのです」
「今回の人生の目的は何ですか?」
「妻の病気を通じて自分が向上することです。前の人生で出来なかったことです」
「今回の人生で私は何を学ぶのですか?」
「人に尽くすことです」
「妻の病気の原因は何ですか?」
「私が自分で決めました。人に尽くすことを私に気づかせるために、自分で決めてきたのです」
「妻の病気を私が決められるのですか?」
「私の強い意志が伝わったからです。その意志がすごく強かったのです」
「私が妻を病気にしてるのですか?」
「でも大丈夫です。妻も納得しています」
「妻は恨んでませんか?」
「恨んでいません」
「妻の病気はどうしたら治りますか?」
「すでに治っていますよ」
「妻は自分の病気から何を学んでいるのですか?」
「病気が治った意味を二人で勉強して同じように気づくことです」
「人間は何のために生きているのですか?」
「人生の目的に気づくことためです」
「なぜ私は何回も生まれ変わっているのでしょうか?」
「勉強のためです」
「今、私は人生の転機に立っていますが、この意味は何ですか?」
「人に尽くすことを思い出すためです」
「どうしたらいいのですか?」
「自分の思うままに・・・。それでいいですよ」
「今回の私の人生はここまで順調ですか?」
「ものすごく順調です」
「こんなに大変な状況なのに、ですか?」
「順調だ、って言われています」
「妻が病気になって、仕事が大変になるのは、私たちが計画してきたのですか?」
「はい」
「妻も私もこの転機を乗り越えるだけの力がありますか?」
「あなたがたなら出来ますよ」
 先生は今回の人生の目的をクリアーすることができた、未来の姿を見せてくれるように頼みました。
「ニコニコしてます。二十歳くらいの男の人です。茶色がかった髪に黒い目です。事務所にいます。会社をやっています」
「その未来のあなたから今のあなたへ何かアドバイスをもらってください」
「ニコニコしていれば大丈夫だよ、って言っています。自信を持ちなさい、って」
「未来の彼としっかり握手してください。どんな感じがしますか?」
「自信が湧いてきました」
「その事務所には他に誰かいますか?」
「いるような気がします」
「その人たちの中に今のあなたが知っている人はいませんか?」
「金髪の女の人が今の妻です。ちょっと年上かなぁ」
「その金髪の女性に聞いてください。今の私に一言アドバイスをください」
「がんばってね、って言っています」
「今の妻にも一言お願いします」
「何も心配することなどないですよ」
「みなさんも私と妻を応援してくれますか?」
「もちろん応援するけど大丈夫だよ、って言っています」
「もとの光の中に戻りましょう。そして最後にもう一言何かメッセージをもらいましょう」
「あなたの思うままに生きなさい」
「辛い時はあなたの所に来てもいいですか?」
「いつでも来なさい」


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