「海と森」をテーマに、瀬戸内の魅力をもっと伝えたい 丸尾誉×糀屋総一朗対談3
これからの地方創生、持続可能な地方とはどうあるべきか。ローカルツーリズム代表の糀屋総一朗がさまざまな方をお迎えして語り合う対談。野外音楽フェスティバル『shima fes SETOUCHI』を主催する shima fes SETOUCHI 実行委員会の代表、丸尾誉さんとの対談最終回は、ひとつのことを続けることで見えてきたこと、そして「これからの島フェス」について丸尾さんの考えることについてです。
続けることで評価され、ついてくるもの
ーーフェスの場合、若い人が動きのメインになっていると思うんですけが、現地の上の世代の人たちとも関わるわけで、そこでの難しさというのはありますか?
丸尾:エピソードは色々ありますね。田舎だし、高齢者の方は特に、「あんな派手なイベント」とか「演歌やれ」って方もいますし(笑)。音楽フェスというものがやはり 主に若者に人気なものだし、ミュージシャンにはユニークな服装や髪型の方や、刺青多めの方もいたりするんで(笑)。
糀屋:(笑)。
丸尾:島フェスは、いわゆる大型ロックフェスと違って、大音量で騒ぐというよりは、ゆったりと、オーガニックな感じなので、高齢者の方も楽しんで頂けるんです が、でもやっぱり出演者さんは普通の人よりはちょっと開けたファッションや髪型なので(笑)。あと、高齢者にとっては、そもそも「フェスってなんや?」みたいな感じですからね。
ーー文脈そのものがわからない世代もあるでしょうし。
丸尾:でも僕、むしろそういう反応好きなんですよ。理解し合えるまでのフェーズが客観的に見て面白かったり、いじりやすい自虐ネタになったり(笑)。チラシにおばあちゃんのアイコンで「フェスって何じゃ?」ってコーナー作って、「フェスとは大人の文化祭で」みたいな説明欄を設けたり(笑)。今や親友のお年寄りの方と、出会った頃の話で先日盛り上がったんですが、微妙に認識がズレてて、10年経っても島フェスのこと意外と理解してもらえてないと分かった時とか、グッときましたね(笑)。こういうのは少しでも笑いに昇華したいです……(笑)。
糀屋:ネタ的な部分も含めて、楽しんで付き合ってもらうという感じなのかな。
丸尾:できるだけ楽しくしたいですしね。あと、高齢者の中にも奇跡的にすごい話がわかる人がいたりするんです。僕らの代弁者のような。で、そういう人ってだいたい地域のキーマンだったりするんですよ。人間関係を大切にしながらまあまあいじってる感じです(笑)。
糀屋:あとは、年配の方から放置されてるっていう形で成立している地域イベントも多いと思うんだけど、それはそれでもいいっていう考え方だったりする?
丸尾:なんだかんだと結構こっちから相談したり、会話は大切にしてるので、うまくいってる方かもしれないですね。あそこが動かないなら、うちも動かん!とかその逆!みたいなケースって田舎でよくあるんで…。例えば町役場とか自治会など、どこにも絶対キーマンのような方はいるので、本能で見極めつつ(笑)、「あの人にまずは相談しよう」みたいに。コミュニケーションは一番大切だと思います。
ーー10年続けていくと、今の40の人が50になり、当時の50の人が60に。続けるってことは、世代を超えていく空気に繋がりますよね。
丸尾:そうですね。僕もそこをものすごく意識してます。僕もそのうち白髪になって高齢者になるんで……。島フェスの開催日って9月の敬老の日に絡めた連休なんですけど、将来、僕らも年を重ねて高齢者になったら、フェス最終日に「明日は敬老の日やから、みんな休もうな」みたいな〆をするってシナリオができていて(笑)。それもあってこの時期に開催してます。
糀屋:続けることの意味って間違いなくありますよ。
丸尾:続けてるだけでいいとは思わんけど、続けないと評価もされないんだと思う。続けているとやっぱりイベント名も浸透していくし、例えばポスター貼りを島のコンビニにお願いに行くと店員さんから「有料のイベントは貼れんのや」って言われたりした時もあったんですが、そしたら店長が「島フェスやけん、いいんちゃうか?」とか言ってくれたり。もちろんいまだに「何してるんやろ?」って人もいると思うし、もちろんご迷惑をおかけすることもあるんだけど。「情」の部分っていうのは頑張って続けているとやっぱり生まれくるのかなと。最初は無関心のように見えた人の中にも「頑張ってな」って会うと声を掛けてくれる人が出てきたりとか。
糀屋:いいですね。
丸尾:「続けるだけの気持ちがあるんかな」という目で見る人も多いと思う。2021年はコロナ禍で会場を変えての開催でしたが、自治会の方にとても親身に応援してもらえました。「音楽イベントだし迷惑をかけることもあると思うんやけど、これこれこういう思いでやってて、協力してもらえると助かります」みたいに腹を割って話をしたら、自治会の方々もざっくばらんに「うん、まあ確かに迷惑もあるし、別にしてもらわんでもいいことかもしれんけど」と言いつつも「でもこの土地を『いい』って言われるのは嬉しいし、田舎には賑わいも必要やから受け入れていかなあかんやろな」って。そこまで話ができたら大人同士、うまくやれると思います。
糀屋:大事だと思う。やっぱり田舎で何か形を作るときには、こっちのことを理解してもらうのに、腹を割って話さなきゃいけないときもある。それはやっぱり大事。
丸尾:それに毎年続けるって、文化祭とか運動会みたいなことになってきて、毎年理由ができてくるみたいな感覚あるんです。「また来年ここで会おうな!」みたいなことになれば、集まる場を作るだけでもすごい意味がある。どんどんどんどん理由が出来てくる。やってる人たちにちゃんと実感があって「またやろうな」っていうのは、絶対続ける理由になるなって思うんですよ。
糀屋:なんでやってるんですか? って言われたときにも、答えは決して一つじゃなくて、やってる意味は、どんどん変わってきていいんじゃないかと思ってる。今年の島フェスの意味はこういう意味があったかもしれないけど、来年は何かまた違う人が関わって来るから違う価値が生まれる。それは自然だと思ってて、丸尾くんの話聞いて今日、改めて強く感じました。
丸尾:理由はいろいろ。いくつもあるんですよ。でも、自分が衝撃を受けた「瀬戸内海の島々への島旅は、楽しい」って感動を、たくさんの人に知ってほしいってのが一番強いかなあ。自分が生まれた地への思い入れもあるし、情というか。そこに関わり続ける人生にしたい、という熱意や覚悟がまず一番。
とはいえ、あまり考え過ぎず、例えば美味しいうどん屋さんやラーメン屋さんを「あそこ美味しいよ」って伝えるような、結構ライトな感じで伝えるのが良いかなとも思ってて(笑)。今回みたいに親しい人と話す場合は特に。新聞や雑誌の取材だと多分こういうこと聞きたいんやろな、あまりフランクに言うとまとめにくいかな、とか慎重になるけどね。
糀屋:うん(笑)。
地域のコミュニケーションの難しさ
丸尾:島フェスは、音楽だけでなく、瀬戸内の食やカルチャーにもすごく力を入れていて、「SUPER SETOUCHI MARKET」という出店エリアを展開しています。讃岐うどん、カレー、コーヒー、お酒など瀬戸内地域を主とした出店者の皆さんに毎年集まって頂いてて。そこでの出店者さん同士の人間関係もすごく発展性があって、屈強なうどん屋さんと破天荒なみかん農家さんがいつのまにか仲良くなってメニュー開発してたり、気鋭の料理家さんとポップな有名カレー屋さんが何か知らんけど修行みたいなツアーしてたり、みんないつのまにか繋がって何かを生み出したり仲良くなってるのを見ると、とても嬉しく、誇らしかったりします。
糀屋:丸尾くんがいなかったら、そういうことになってない。
丸尾:関係者やスタッフ、そして俺自身も含めて、島フェスを通じた出会いがたくさんあります。仕事だけでなく、親友になったり恋人になったり家族になったり。もちろん出会いもあれば別れもあったり。そういう個々の繋がりや時間がお互い少しずつ重なり合って、チームとしての強さというか、迷うことがないような強いつながり、絆のようなものになってきているように感じています。
糀屋:いやあ、すごい。ちなみに島の人たちとトラブった事だってあったとは思うんだけど、そういうのってどういうふうにクリアしてきたのかな。
丸尾:香川県の文化で「へらこい」っていう方言があって。
糀屋:へらこい?
丸尾:そうそう。ある統計データだと香川県って国会議員の輩出率が国内上位だったりして政治家気質な側面が強いと評されたこともあったり、そもそも瀬戸内海というのは村上水軍よろしく貿易、商い人としての歴史があったりして。言い方が難しいけど、愛想は良いけどその一方でちゃっかり腹を探るところもあると言うか……。
糀屋:あんまりいい意味じゃないんだ(笑)。
丸尾:そう、江戸で言うところの「いけず」に近い……それよりちょっと湿った感じ(笑)。県民性というか気質的に、最初は愛想良いんだけど実は腹では違うことも考えてたり、ちゃっかり、ずるい、みたいなニュアンスで使われる方言で。「へらこい」とか「へらい」とかって言う。まあ、田舎は全国どこでもそうかもだけど、ニコニコしてても実際良く思ってるかどうかは別、という危険性が(笑)。
俺自身がとても単純な性格なので、田舎育ちのくせに当初なかなかそういうことにピンとこなくて、周りの人に色々教えてもらいながら乗り越えてきました(笑)。でもやっぱり、なんでも腹を割って話して、人間関係ありきだと思ってるので。行き違いがあっても、あきらめず、誠実にコミュニケーションを積み重ねていくしかないなと。配慮は忘れずに。そう考えてやってきました。
糀屋:(笑)。
丸尾:トラブったわけじゃないけど、今でも忘れられないのは、ある地域で、その隣りの地域と協同企画みたいな提案をした時に、まあまあ親しい人から「本気か?!」って怖い顔で言われて……。僕の知らない、歴史的な溝があったらしく。静かに企画書をすっと取り下げました…。
糀屋:そういうのあるだろうね。
丸尾:何でも無邪気にやれば良いわけじゃないという、大切なことを学びました(笑)!
島フェスのセカンドディケイドは「海と森」
糀屋:来年以降の島フェスで何か新しいことは考えてる?
丸尾:2020年が10th Anniversaryだったので色々仕込んでたんやけど、コロナ禍で島での開催は難しく、急遽オンライン開催にして何とか乗り越えて……「今年こそ」と思った2021年も感染状況がさらに悪化して……この二年間、全く思うようにできてないんだけど。
糀屋:あ、そうかあ。
丸尾:10年間って英語で「ディケイド」って言うでしょ。10周年を迎えた頃、次の10年間のフェーズを「セカンドディケイド」って定義して、コロナ禍での継続を見据えて色々計画を練っていて。11年目の去年、その「セカンドディケイド」計画の一年目だったんですが、コロナ禍で島に観光客を招くわけにもいかず、結局、島ではなく香川県の本土に会場を移しての小規模開催に変更しました。森と海を巡る二日間と題し、一日目は海編、二日目は森編として二会場開催に。海編は背景が海と瀬戸大橋という壮観な青々しい景色で、森編はリトルフジロックのような緑に溢れた景色で。
「海」と「森」、自分たちにとっても身近な自然の中で、「密をさけて、海と森をめぐる二日間」というコンセプトで感染防止を徹底しての開催。とても大変でしたが、とても評判良くて。セカンドディケイドは地に足つけて、瀬戸内海ならではの野外音楽フェスティバルとして「海と森」をテーマに挑戦したいと思ってます。
糀屋:なるほどね。
丸尾:「森は海の恋人」っていう東日本大震災の時に出会った本があって、豊かな海が雨を降らして、山から土が流れて、川が豊かになって海に流れて海を豊かにするみたいな。瀬戸内の魅力を伝える中で、そういう森と海の関わりというテーマを軸に、新しい挑戦をしたい。瀬戸内海には小豆島や直島の他にも、豊島や、鬼ヶ島のモデルでもある女木島など、色々な島が浮かぶ多島美が特徴で。色々な島を楽しめる企画を検討中です。直島には、糀屋君も泊まりに来てくれた島フェスofficial古民家もあるし。
糀屋:雑巾がけもしましたよ。
丸尾:その節はありがとうございました(笑)。あとは島を会場にしつつも「島を巡る島フェス」として、フェリーそのものをステージに見立てて海上の移動型フェスにしたりと、もっと海の上、船の上も含めて楽しみ方を広げていくような取り組みを、次の10年間では挑戦したいと思っているところです。
糀屋:魅力の点を繋げてるわけですね。いいですね。そうするとやっぱ参加した人も小豆島だけじゃなくて、違う場所の魅力とかも見れると。
丸尾:瀬戸内海の色々な島に訪れる企画が実現すれば、ますますロマンに溢れるし、島にも恩返しができるかなと。イベントって結局「点」なんだけど、お店など人が集まれる場を作れば、それは「線」になる。点と線が連動すると人と人が繋がりやすいと思って、直島にofficial古民家をオープンしました。拠点があるといいなって。直島や小豆島以外にもチャーター船でしか行けない無人島とかもあって、そういう瀬戸内海ならではの多島美を楽しめる「島フェス」を、森と海をテーマに続けていきたい。
糀屋:超前向きな話で楽しみだな。
丸尾:多島美豊かな瀬戸内海の色々な島を巡ったり、海を移動中のひとときも楽しめる、そんな企画を今準備してます。下見したり、地元の人と話しながら、次の開催に向けて準備中、そういう感じですね。
糀屋:確かにこれまでは小豆島のイメージが強かったけど、それはそれですごいなんか魅力的です。いやあ、今日は前向きな話が聞けて楽しかったな!ありがとう!
丸尾:こちらこそ、ありがとうございました!
(構成・斎藤貴義)