地域とアーティストをつなぐ「場づくり」を考える フルタニタカハル×糀屋総一朗対談1
ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗と、地域で活躍する方の対談シリーズ。今回は、大阪を拠点に長く音楽、アートなどのカルチャーを牽引し、今年3月に心斎橋パルコの地下にオープンした「心斎橋ネオン食堂街」の仕掛け人でもあるフルタニタカハルさんと語り合いました。対談の初回は、地域とアーティストの関係性、場づくりについてです。
地域とアーティストの「通訳」として
糀屋:福岡県の宗像市に大島という離島があって、僕はそこで宿の経営をはじめとして町おこしならぬ「島おこし」みたいなことをやっています。一方でアートにも興味があって、今年からアートファンドを始めたんです。毎月、僕のファンドでアーティストの作品を一定額買い上げていくっていうシステムなんです。
もともとアーティスト活動をしているけれど、それだけでは食べていけずに、別の仕事を持って働きながら活動をしている方たちが多いと思うんですよ。本業としてやっていく形が取れれば創作活動にも影響があるんじゃないか? 応援にもなるんじゃないか? という思いで作ったファンドなんです。
フルタニ:ああ、いいですね。
糀屋:そのアートファンドの投資先、第1号が井口真理子さんというアーティストです。彼女は京都で会社員として勤めながら絵を描いていてたんですけど、その彼女が大島のことを気に入ってくれて、今年の夏に引っ越してきたんです。
フルタニ:思い切りましたね!
糀屋:先日、地域アートの評論などをしている藤田直哉さんと、地域で活動するアーティストの立ち位置についてお話をしたんですが「地元の人たちとどういう距離感で関わっていけば良いか」みたいなことが議題に上がったんです。
アーティストがやって来た時、地域の人たちからは「お土産のロゴを書いてほしい」とか、「壁を塗ってほしい」とかって要望が出てくるみたいなんですよ(笑)。大竹伸朗さんが地域に移住した時、同じように「お祭りの手伝いでセーラームーンの看板を描いて欲しい」と言われたという話を藤田さんから伺って……。
フルタニ:ああ(笑)。
糀屋:アーティストとしては、非常に忍び難いものがあると思うんですよ。かといって、そういう地域からの要求を全部断っていくっていうのもなかなか難しい。大竹さんは結局、セーラームーンを描いたらしいんですけど(笑)。地域でアーティストが活動していくときに、そういう葛藤みたいなものが出てくる。そういった時にどう対応していけばいいかっていうのを今悩んでいるんです。フルタニさんにも同じようなことがあったならヒントとしてお話を伺えればと思って……。
フルタニ:すごくある話ですよ(笑)。僕は95 年ぐらいから大阪でずっとギャラリーやってまして、最初の頃は自分らも若かったし、アーティストたちも若くて、だんだん歳をとってステージが上がってきたっていう状況です。けど、今でもやっぱりある話。「お前、絵ぇ描けんやったらただで描いてや」って言うような。
糀屋:ああ。
フルタニ:大阪やったら「まけてや」とかも含めてありますね。アーティストってお金の話が苦手な人が多いんです。で、僕はその間に入ってアーティストの代弁をするような形でコントロールすることをずっとやってるんです。内容も含めてアーティストからは言いづらかったり、断りづらかったり、もうちょっとこうした方がいいんじゃないかな? っていうような話ですね。
糀屋:それは損得勘定というよりは、そのアーティストのためっていうところで?
フルタニ:はい、それは仕事になったり仕事にならなかったりするんですけど、基本は「気持ち」でやっていますね。忍びない要求を断るのは簡単なんですけど、それって「0か?」「 100か?」みたいな話にもなっちゃう。できればいい形にまとまればいいんで、アーティストと地域の双方でコミュニケーションが取りづらい場合は、間に入って通訳をするってことをずっとやっていますからね。ローカルってアーティストに対して理解が低い人も多いと思いますからね。
糀屋:大島って「いわゆるアーティスト」っていう人が多分歴史上初めて来たんじゃないかな。
フルタニ:なるほど(笑)。
糀屋:なので、みんなすごい興味津々。不安と期待が入り混じった感じでこう見つめてるみたいな感じですね。
フルタニ:そこにどう溶け込んでいくか、どうそこの人たちとコミュニケーション取っていくかっていうのは大事なところですよね。まず一緒に話題の中に入りこんで、対話をしながら落とし所を見つけていくしかないなと思いますよ。
糀屋:やっぱり対話って大事ですよね。
フルタニ:一番重要視するのがそこですね。まずこっちもアーティストの思ってることを引き出して理解しないといけない。それはお酒飲みながらでもいいし、お茶飲みながら雑談も含めてやって、彼らの持ってることを翻訳していくのが俺たちの役目やと思ってるんですよ。
その上で「アーティストと何かをしたいと思ってる人達」とも話す。それぞれに思いがあるじゃないですか。何をやって欲しいか、それをまず聞きます。で、アーティストに「こういう話があるんだけど」って。で、こうした方がいいんじゃないか、ああした方がいいんじゃないか? っていう僕の話とアーティストでまとめて、それに対して肉付けしたり、削ったりしてそれを戻す。
双方の共通言語がない中で「お願いしたいこと」「やりたいこと」を間に立って通訳しながらコミュニケーションをしていくんです。アーティスト側だけに立つのではなくて、どっちの通訳でもあるんですね。できる限り、どっちの思いも着地させるって言うのが俺の仕事なのかな。
アートの価値と対価とは
糀屋:フルタニさんはアーティストが苦手なお金の話なんかもしていくんですか?
フルタニ:そうですね。仕事になるのがベストなのでちょっと角を取りつつ、話を続けていくような感じですね。あと、アーティストにとっては「今は忙しい時期だから出来ないけど、2カ月経ったらできるよ」っていうようなこともある。それも直接やりとりをしちゃうと多分「今忙しいから出来ません」ってことで終わっちゃうこともあるんですよ。
でも間に入ることによって「じゃあ2カ月後だったらどうですか?」みたいな折衝も可能になるんです。仕事になるんだったらアーティストのためになるかなと思いますからね、うまくスケジュールを調整するのも通訳みたいなものだと思うんですよ。
糀屋:アーティストとしては自分が作った作品を「色んな人に観てもらいたい」「自分を知ってもらいたい」みたいなものはあると思うんですけど、一方で「お金」のことに無頓着な人も多いですよね? でも、自分の作品が多くの人に観てもらえる、自分を知ってもらうというのは、実はお金と密接な話だと思うんです。僕はアーティストってお金の話をもっと勉強……というか、もっとセンスあった方がいいんではないかと思ってはいるんですけどね。
フルタニ:もちろんそういうセンスはあった方がいいと思いますね。クライアントワークから離れて、自分の作品を販売するって、アートをやってく人達には絶対つきまとっている話ですからね。ただ、お金に執心しすぎると「自分の作品はもっと価値があるはずだ」という思いから、高い値段をつけちゃって売れる機会を逃してしまう作家もいたりするんです。
適切な金額って、自分では分からない部分があるんですよ。だから俺は「まぁ、これだったらこれぐらいじゃないか?」「これぐらいの方が売れるんちゃうか?」って話もしますよ。
糀屋:ああ、それはあるでしょうね。
フルタニ:それがリアルでも、NFT でもそう。自分で値段を付けていかなあかん。それは単純に「何時間使ったからなんぼ」って話でもないし、「これはめっちゃ気に入ってるから高いねん」って話でもない。マーケットの中にどうやって落としていくか、ですよね。
それで「サイズに合わせて」とか、「キャリアに合わせて上がっていく」とかって話しをして理解してもらわないといけないんですよ。「ファンを作ってかなあかんような時期」と、そっから先の「ファンの数を増やして自分の価値をあげていく時期」でも違う。そこを見極めて行かんと、最初から高い値段つけてもファンはつかへんっていう感じがしますね。そう言うことをアーティストにはよく話しますよ。
糀屋:「ファンを作っていく時期」……確かにそういうところの変化はあるでしょうね。
アーティストを支える場所作り
糀屋:NFTではコミュニティが凄い活発ですよね。例えば、最近だとNFTですごい高額になっている猿の絵の『BAYC(Bored Ape Yacht Club)』(世界的に有名な著名人やセレブも多数保有している人気の高いNFTコレクションの一つ)とか……。
フルタニ:ありますね。
糀屋:あれは買った人だけが参加できる謎のコミュニティみたいなものがあった上で、ああいう作品がすごい高い値段で売れているんですよね。アートとコミュニティの関係みたいなところが、今はすごく重要なのかなと思うんですよ。例えば先ほども話した井口真理子さんがファンを増やすには、どうやっていったらいいのか? と。もしコミュニティみたいなのが必要だとしたら、どう作っていけば良いのか? とか。その辺が結構難しい問題だなと個人的には思っているんですよ。
フルタニ:僕らはNFTとかでなく、リアルでやってきたわけです。それは「場所」があって、そこで展示があって、そこに興味のありそうな人たちが集まって、横のつながりができてコミュニティができてくる。そういうことをずっとやってきてるんです。
糀屋:場所を作るってことですね。
フルタニ:近年はSNSを使ってアーティスト個人が発信して、個を中心にしたコミュニティが作れるようになっています。でもそれができるってことと、作品が売れるかっていうことは別の話になってきていて、コミュニティのでかさとマネタイズはバランスが取れてるわけではないんですよ。SNSで作品を見て満足してる層の方が多いので、購入までいかない人たちの方が多いんですよ。
糀屋:まあそうですね。
フルタニ:だから、それを適切に変えていくようなこともやっていかなくちゃならない。それには、ギャラリーなのかカフェなのか、リアルな場での展示があって、そこで「買えますよ」っていうところまで持っていくことが大事かなと思っています。だから俺はコミュニティが生まれる場所を作る。逆に大島の例で言えばマーケットとしてはもちろん小さいけれども、個を中心としたSNSで作るコミュニティ上手く活用するっていうところが重要になるのかな? とは思いますけどね。
(聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・アサボラケ 杉本昂太 撮影協力・TANK酒場)
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