いま必要なのは「ただみんなで集まって何かをする」場 谷口竜平×糀屋総一朗対談2
ローカルツーリズム株式会社代表取締役の糀屋総一朗と、地域で活躍する方の対談。今回は、福岡県宗像市にオフィスを構えデザイナーとして働くかたわら、地域のコミュニティづくりなどにも関わっている谷口竜平さんです。対談の2回目は「場づくり」から考えたこと、大島の宿『MINAWA』の誕生秘話についてです。
「みんなで何かをした体験」こそが重要
糀屋:宗像にツリーハウスを作る、みたいに「みんなで一緒のものを作る体験」っていいですよね。先日、地域アートやSF批評をやっている藤田直哉さんと対談した時に「お祭り」の話になったんですよ。それでローカルのお祭りがどんどん廃れてきてる中で、加藤翼さんって現代アーティストが、各地方で「わけのわからでかい物体」をみんなで立ち上げる『引き興し』ってインスタレーションをやってるらしいんですね。
「みんなで何かをやる」って訳がわからないけど、参加した人たちの結束力が高まったり、仲良くなったり、地域の伝説になりうる。みんなで一緒にやるっていうことに意味があるんだって聞きました。ツリーハウスも同じだと思うんですよ。それは地域の活動に置いて、重要な示唆があるんじゃないかって気がするんですよね。
全国に広がった「バー」の輪
谷口:そう思います。今の話と通ずるところがあるんですが、僕は「バー洋子」っていうイベントを、この事務所で3年間ぐらいやっていたんですよ。僕が「ここを人が集まる場所にしたいんですよ」って洋子さんという女性に話したのがきっかけなんです。「クリエイターとか地元の生産者とか、飲食店やってる人たちが、なんとなく飲みに来て喋れるようなBARを作ったら、新しい何かが生まれるんじゃないかな」って。
そしたら「面白いんじゃない?」ってことで乗ってくださって、第3水曜日の夜7時に、この場所を「バー洋子」としてオープンしたんです。参加は無料。その代わり、飲み物も食べ物もみんなで一品ずつ持ち寄っておすそ分けする。片付けもみんなでする。スタート時にはスナック風のロゴを作ったり、名前入りのライターを作ったりしました。
糀屋:盛り上がりますよね!
谷口:初めは10人ぐらいで集まって、なんとなく交流できればと思って、Facebookでイベントページを立ち上げて「今日もみんなが来て楽しかったです」っていう事後報告を載せたんです。そしたら「バー洋子って何?」ってすごい反響があって、福岡や久留米から来る人も出てきて、最高60人ぐらい集まっちゃったこともあったんです。「飲まなくてもいい」みたいな人たちは車で来たりして……夜にそんなに人が集まってるんで「お通夜?」みたいな感じでした。
糀屋:(笑)。田舎で夜に人が集まるのって人が死んだ時くらいだもんね。
谷口:そこから人数を絞って、20人ぐらいで毎月やるようになっていたんですけど、「私もママをやりやりたい」と大牟田の方で「バーさくら」っていうの始める人が出てきたり、宗像の隣の福津市の副市長が「私もやる」って言って「バーみゆき」が始まったり。それで1年目で7つくらいの「バー」が各地にできたんです。
糀屋:すごい(笑)。
谷口:それなら「バーサミット」をやろうっていうことになって、大牟田に7人のママたちが集まりました。それを見た人たちがまた興味を持って、北海道でもやりたいって人が出てきたりして……、最終的に全国に20ぐらいの「バー」ができましたね。
それまで福岡市内で「子ども食堂」をやられていた方が「独居老人の方にもみんなでご飯を食べる場を作りたかった」と、『バーなな』を開催したのは面白かったですね。テレビの取材も来たし、おじいちゃんたちも「たまにみんなでご飯食べるのいいですよね」みたいなコメントをしてて。
糀屋:へぇー!
谷口:そんなつもりでやったわけじゃないけど、社会的なことに繋がってる! と思いました。みんなで何か一緒にやる、ご飯を食べるだけでも「いいことしてる」って言われるんですよ。これもツリーハウスで得た経験から発展した動きなんですよね。『バー洋子』はすごく盛り上がって、結局コロナの直前まで3年ぐらいやりましたね。
糀屋:それだけやりたい人がいたということは、ニーズがあったということなんですね。
谷口:当時、SNSが流行って、リアルに合わなくても人と繋がっていく時代だったと思うんです。でも「リアルで会って一瞬ご飯食べる」みたいなことも求めだしたタイミングでもあったので、そこにマッチしたのかな。セミナーとかのイベントもあったんですけど、そういう「何か目的があって人の話を聞きに行く」のと違って、「何の目的もなく一緒にご飯食べるだけ」っていうところもよかったんだと思います。
何も考えず上下関係なく、話せる場所って意外となかったんだなって。常に「頑張っていかなきゃいけない」「成長しなきゃいけない」みたいな雰囲気に疲れた人が、気軽な感じを求めてた、ってことだとも思うんですよ。まだ『バー洋子』は復活していないんですが……他のところはぼつぼつ始めてるところがあるみたいです。
地元密着「宗像経済新聞」から得る気づき
糀屋:いいですね。ちなみに谷口さんは『宗像経済新聞』の副編集長も務めていると思うんですが、始めてみて何か発見はありましたか?
谷口:まだ半年なんですけど、いろいろあるんですよ! 今、ライターは僕を含めて全部で6人。半数が地元の既婚女性、いわゆるママさんと呼ばれる人たちがメインなんです。このママさんたちの情報網がすごい!「ここに新しいお店できるみたいですよ」とかの情報が早いんです。情報元はInstagramだったりするんですけど、ママさんがどこから情報を引っ張ってきてるかリアルでわかったりして「なるほどね」って思いますね。
ローカルの9万7000人の街で、みんなは何を見てるのか? 何がバズるのか? ということもわかる。やっぱり飲食店の新店舗情報とかがめちゃめちゃ伸びるんですよ。土曜日前後になると以前あげた記事のビューがグンと上がる。『宗像経済新聞』を見てるのって、全体の4割くらいが福岡市。地元、宗像の人たちが見てるのはその半分ぐらいで、次いで北九州だったかな……。
糀屋:へぇー! 福岡の人が読んでるんだ。
谷口:多分「週末どこかドライブにでも行こうか」って思ったときに、飲食店情報を見て「じゃあここに行ってみよう」みたいな流れがあるんじゃないかと思います。ローカルなメディアで、まだ初めて1年も経ってないけど、毎月10万PV以上いってるんですよ。お店の人から話を聞くと「宗像経済新聞見てきました」っていうお客さんも結構いるらしい。だから「よかったら取材してもらえませんか」っていう問い合わせも増えてます。
糀屋:じゃあ、大島もちょっとずつ変わってきてるので、どこかのタイミングで(笑)。今、いろんなワークショップも始まったし、話題も多いですよ。うちのスタッフが『バー・ライトハウス』っていうのを隔週で始めて「大島ってこんなんだっけ?」って不安になるぐらい盛り上がっています。夜飲めるところがこれまでなかったということもあるんだと思いますが。大島のママさんたちとか、とんでもなく飲むんですよ。僕も1回潰されたこと
があります。
谷口:酒豪が多いですからね(笑)。次の日、糀屋さん青白くなってるんで(笑)、昨夜飲んだんだなっていうのがわかります。
『MINAWA』に込めた意味
ーーお二人が直近でお仕事をされた大島の宿、『MINAWA』のお話も聞きたいんですが。
糀屋:『MINAWA』に関しては谷口さん、恩人なんです。そもそもあの物件の情報を谷口さんが教えてくれなかったら『MINAWA』はないし、僕が地域事業にこれだけコミットすることもなかった。ローカルツーリズムという会社を作ることもなかったし……生みの親です。
谷口:きっかけですよ(笑)。元々、糀屋さんがFacebookで「エリアリノベーションファンドっていうのをやる」ってことを書かれてて、それが頭の片隅にずっとあったんです。で、同じ頃に「大島をどうにかしたいんですよ」っていう地元の田中さんっていう方から相談を受けた。実をいえば、僕もそれまで大島に行ったことがなかったんですよ。近いんですけど、近すぎて行かないっていうパターン。それで一度行ってみよう! ということになりました。
島をめぐって、「面白い物件があったら、そこから何かできるかも?」と思って物件を見に行ったりしてたら、現『MINAWA』の建物があったんです。それで「めっちゃ良いいですね! ロケーションいいのに、全然使われてなさそうだし、これ借りないですかね?」という話から不動産管理会社を突き止めて。それでオーナーさんに連絡したら「地域貢献的なことをやるんだったらちょっと考えてもいいよ」と言われたんですよ。で、糀屋さんに話したら……確か、その時もノールックで「いいですね、やりましょう!」って言われたんですよ。そこからですよね。
糀屋:『MINAWA』の名付け親でもあるし、ロゴやサイトも全部谷口さんに作ってもらったんですよ。名前とロゴが評判が良くて、僕もすごい気に入ってます。谷口さんにお願いしてよかったなと。
谷口:嬉しいな!そこが僕の本業なんで(笑)。
ーー『MINAWA』という名前はどういう発想で付けられたんですか?
谷口:世界遺産のある場所だし「日本らしさ」を大事にしよう、ということがまずありました。まだコロナ前だったのでインバウンドということも狙って、海外の人にも伝わる語感も含めてです。色々島のことを調べていくと、大島も、その先にある沖ノ島も、弥生時代ぐらいまで遡れるぐらい歴史が深いんですよ。その頃から神への信仰っていうのをずっと貫いていたところ。
そういう雰囲気が伝わる言葉ってなんだろう……と海を見ながらぼんやり考えていたときに思いついたのが「泡」のイメージ。泡のように、出来てはすぐに消えてしまうような情緒的なところ。脈々と受け継がれてきた長い年月のこの一瞬を「泡」に見立てて……、今、この瞬間も泡のようなものかもしれないなと。それで『水泡(みなわ)』っていう言葉が出てきたんです。調べると「水の泡が水になって消えていくっていうようなこと」って意味なんですよ。これは合うな! と思いました。ちょっと聞き慣れない言葉ですけど日本語的だ、ということはわかる。誰しもが知ってる言葉ではないところも面白いなと思って。
糀屋:『MINAWA』って聞いた時に「もう完璧、これだな」と。
谷口:3文字ぐらいがキャッチーだし、思いは詰め込んでいるんですけど、あまり重くなりすぎない、フワッとしたような感じにもしたかった。漢字にするとちょっと狙いすぎてる感じもあるし、軽やかさが落ちちゃうので、アルファベットにしよう!と。海外の人にも見た時に「MI・NA・WA」ってわかりやすいし、音としては「これ日本語だな」とわかる。
糀屋:ちょうどいいですよね。とにかく、僕は『MINAWA』が始まってから人生変わってますからね。当時周りの投資家の友達からも反対されたり、現地の人からも「うまくいくわけない」とか言われ、内からも外からもバッシングを受けましたけど、直感で「これやった方がいい」と思ったんですよね。結果、僕の中では確信に変わってます。「やって良かった」って。
実際に、エリアリノベーションファンドはまだ成長途中ですが、規模としては現時点で1億ぐらい集めてるし、5年後には30億ぐらいまで大きなものにしたいと考えているんです。これで大島はもちろん「地域を何とかしたい」と思っている人たちに投資をしていきたいんですよ。こんなことを考えるようになったのも『MINAWA』の経験があったからなんです。だから僕の人生は谷口さんにちょっと狂わされたところはあるんです(笑)。
谷口:物件を見つけて糀屋さんに相談したときは、そこまでは考えてなかったんですよ。
糀屋:僕も考えてなかった!
谷口:『F GARAGE』の時のイメージで「あんな感じでなんか再生できたら面白いっすよね」みたいな感じだったんですよ。「まずはそれのエリアリノベーションファンドの一つの事例にできたら面白くないですか?」って。そしたら糀屋さんがどんどんコミットしていって、ペットフード作ったりとかし始めて。田舎の難しさみたいなところもガッツリと経験してもらったりして、引きずり込んじゃったなっていう思いはあります! 何かちょっとすいませんみたいな思いはありますね。
糀屋:(笑)。でもすごい楽しいですよ!
構成・齋藤貴義 写真提供・谷口竜平
続きはこちら!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?