大人が本気を出して、「子供の原体験」を作っていきたい やまざきたかゆき×糀屋総一朗対談3
ローカルツーリズム株式会社代表取締役の糀屋総一朗と、各分野で活躍される方々の対談。今回はカーデザインを軸とした工業デザインのほか、デザイン教育、企業コンサルタントなどにも関わる「ハイパーデザイナー」のやまざきたかゆきさんです。対談の最終回は、「原体験」を作ることの重要さについてです。
前回はこちら
フリマで島全体をおしゃれに!?
やまざきたかゆき(以下、やまざき):「日本で一番行きにくいセレクトショップ」を作って島外の人を呼び込むと言いましたけど、島内の人向けには「0円フリマ」とかもいいですよね。アーティスト個人もおしゃれな古着を放出するのもいいかも。「洋服はあそこに行けばもらえるよ」みたいな感じにしておく。一応、値札は付けておいて島の外から来た人は値段払ってお金を落として、島民は無料。大島のおじいちゃんおばあちゃん、子供たちがスタイリストが選んだイケてる古着で暮らすって面白いよ。みんなおしゃれな島になるかもしれない。
糀屋総一朗(以下、糀屋):だいぶやばい。衣食住の「衣」のアプローチっていうのは、これまで島で見たことないから面白いと思いますね。SNSで拡散したりしたら「あの島、みんなオシャレなんだよね」って興味を持ってもらえそうだし。まず、大島を知らない人がほとんどだと思うんで、そういうところからでも興味持ってもらって、島に来てほしいなあ。
やまざき:来てみて、興味持ってくれて、話を聞いてくれる人ができるといい。そういう人がスタッフとかインフルエンサーみたいな人になるといいからね。
糀屋:やまざきさんが島で何か始めるとしたら、どんな人と一緒にやってみたいと思います?
やまざき:たとえば「ショップの床を木にしたいよね」「壁を木にしたいよね」って思った時になった時に、島で一緒に施工してくれる人。木を使うんだったら、その辺に落ちていいて放っておいたら捨てちゃうような木材を切って鉋かけて、っていうことをやってみたいんですよ。それを教えてくれるような大工さんとか工務店の人とかが近場にいればいいなあ。
子供たちの「原体験」をつくりたい
糀屋:やまざきさんの考えていることって、島の子供たちへも良い影響があると思うんですよ。離島って子供が生まれても、仕事を求めて外へ出ていって戻ってこなかったら、いつかは人がいなくなるんですよ。人口問題でもあるし、歴史文化を継承した人たちが外に出ていってこないってのも大問題。
なんで戻ってこないかというと、島に魅力がないと思ってるからです。いろんな要素がありますが、「働きたい場所がない」ということは大きい。新しいお店も増えないし、仕事の選択肢も増えないんですよ。もし、やまざきさんのセレクトショップみたいな面白いお店ができたら「こういうお店もできるんだ」とか「自分もやってみたい」って思う子供も増えるはず。ちょっと変な場所、可能性を感じられる場所ができてくると、変わると思うんです。
やまざき:そういう場所があるといいよね。
糀屋:「子どもたちにとって可能性を感じられるようなモノを作れるか?」それって大事な事業なんです。そこにはいろんなバリエーションがあると思うし『MINAWA』はもしかしたらそういう場になっているかもしれない。『umiba』でも「教える仕事もあるんだ」ということを知ってもらえるはず。それに加えて「1年で爆破しちゃうセレクトショップ」なんて訳のわからないものができてくると変わると思うんですよ(笑)。他と違う、特別な魅力がある島。「何か」があるんだっていう意識が作られていけば、子供たちも、島も変わるんじゃないかなって思って。
やまざき:子供の頃の原体験って、人の構築に影響があるんだと思う。僕は『TAMIYA』があったから、今の仕事をしているわけ。そういう部分でいえばセレクトショップにはミニ四駆屋さん、ラジコン屋さんも併設したいくらい。ラジコン走らせる場所なんていっぱいあるじゃないですか。立ち寄ったらレースをやってるようなお店。プロがチョイスした品揃えということでプレミアム性をちゃんと持たせる。本気でいいものがちゃんと並んでるお店。そういうお店が近所にあれば、ある意味サラブレッドが育てられますよ。
糀屋:そこが一番キモで、田舎で田舎っぽいことをやっちゃ駄目なんです。それじゃあ島の人の原体験にならないんです。やるなら本物をやらないと!ミニ四駆のデザイナーとも会えて、限定の大島モデルミニ四駆が手に入るなんてことになればいいですよね。
やまざき:そういう体験って大人になって気付くんですよ。「あれ? そういえばミニ四駆のデザイナーが島で店やってたな」って。「僕たち結構レアな体験してたんだな」って。そういうのでいいんですよね。そのためには本気のお店じゃないと。大概、田舎には「とりあえず売ってます」みたいなお店もあるんだけど、パーツが全部が揃わないんですよね。
僕がやるなら、きっちり仕入れるし、お小遣いに合わせて買い物の指南してあげる。広いコースも作る。ミニ四駆、ラジコンファンは九州エリアにもたくさんいるから、その人たちに運営やってもらったり。世話焼きの人も多いから、みんなでワーッと来てやってくれそう。そうするとお父さんも子供も喜ぶし「釣りに付き合ってくる家族」の逆パターンになるかもしれない。お母さんは楽になる(笑)。「子供とラジコンやってるから、お母さんちょっとどっか行っておいでよ」って。
糀屋:いいですね!すごくいい。
やまざき:そうやって人を動かす。ミニ四駆買った人には「そこに行けばコースあるよ」って。「途中のお店でジュースでも買って行ってよ!」って。
外からの目線で新しい魅力を再発見してほしい
糀屋:それは全部イメージ湧きますよね。話はちょっとそれますが、北海道で野草をテーマにお茶とか入浴剤とかを作ってる民泊があるんです。それで、この前北海道の野草と大島の野草を比べてもらってそれぞれお茶にしてもらったり、北海道と大島の野草をブレンドしたお茶とかを作ってもらったんです。それもエグみが消えててめちゃめちゃ美味しい。
やまざき:そんなことってあるんだ?
糀屋:暖竹って大島のそこら中に無限に生えてる竹みたいな野草なんですけど、生命力が強くて、虫が食べない。枯れない、腐らないという最強の植物。それだけ聞くとなんか微妙なんだけど、お茶にしたらめちゃめちゃ美味しいんですよ。
今まで「なんか邪魔だな」と思っていたものが、見え方が変わると全然違うものになってくるんですよ。そういう「僕らに見えない」けど「外からなら見える」ということがある。だから外からの人の目線にすごく期待してるんです。だから外から人に来てもらって、新しい魅力を形にして欲しいって思っているんですよ。
やまざき:僕もブランド立ち上げて15年で、デザイナーとして独立して15年。歳もちょうど50なんで「節目」だなって思っているんです。前からどんな手法でもいいから「お店を持ちたいな」と思ったんで、いいタイミングかもしれないですよね。オープンしたら来てね! っていう感じです。売るものがコロコロ変わるお店。それは僕の性格だし、面白いんじゃないかと思うんです。だから店の名前も「OMISEYA-SUN(おみせやさん)」でいいかなって思ってます(笑)。
聞き手・高橋ひでつう 撮影・KINU 構成・齋藤貴義
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