大島ママさんチーム慰労会記 -ローカルツーリズムの可能性と自分を見つめ直した大島の二年間-
ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗が、自らの地域創生への思いや考えることを綴るコラムの番外編。今回は現在関わっている福岡県宗像市の大島での「大島ママさん慰労会」を通し、感じたことを綴ります。
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僕は、3年ほど前から構想をはじめ設立した「地域循環経済の拡充」を実現する「エリアリノベーションファンド」という地域創生ファンドを運用し、2年前から福岡県宗像市にある大島という離島で、「MINAWA」という1日1組限定の宿に投資を行い、自社でプロデュースし日々の運営を行っている。
MINAWAのリビング
普段、MINAWAの清掃をお願いしているママさんたちに僕からのささやかな感謝をこめて、「大島ママさん慰労会」を先日MINAWAで開催した。
ママさんたちの相談役で鍼灸のプロである千佳先生を統率役として、なんでも気がきく配慮抜群の西永さんをリーダーに、古城さん、麻美さん、翠佳さん、佐藤さんがMINAWAの精鋭清掃部隊。
ママさん達は、赤ちゃんを背負い、こどもあやしながら清掃任務を曲芸のようにこなしてくれている(自分でいうのもはばかられるけど、こどもと一緒に仕事ができる環境っていいなと思う。)。
「宿泊施設で一番大事なものは何か?」
みなさんは、自分が宿のオーナーだとしてこの質問をされたら何と答えるだろうか?宿のコンセプト、リゾート感、非日常な空気感、地元郷土のおいしい食事と答えるかもしれない。もちろんそれらも重要だ。
ちなみに僕はいつも、「清掃」と答えるようにしている。
清掃業務というのはとかく軽視されがち。でも。まったくそんなことはない。どんなに宿のコンセプトや空間、アメニティにこだわりがあっても、床に少しでも髪やゴミが落ちていたり、シーツに点のようなシミがあったら、なんか嫌だなあと思ってしまうもの。窓ガラスのちょっとした水垢や排水口の匂いも気になってしまう。これでは、宿への印象はひどいものになってしまう。だから、清掃というのは宿にとって心臓であり、とても重要な仕事だ。
そんな大事な清掃でいつもお世話になっているママさんたちに感謝をこめて歓待したいということで、MINAWAにママさん達と、お子さんらもお招きし、慰労会を開催することにした次第。
さて、この会で心配していたことがひとつ。
それは、噂によると大島のママさんたちが全員男まさりの酒豪らしい、ということ。大島の有志でつくった島づくり会社「渡海屋」のメンバーでもある山下くんから「ママさんたちの飲む量ハンパないですから。潰されたんで気をつけてください」というリーク情報を僕は事前に得ていたのだ。沖縄で泡盛を呑みまくっているに違いない酒に強いはずの山下くんが、ママさんたちに捻りつぶされてしまったということらしい。
おいおいマジかよ。それもっと早くいってくれてればアフタヌーンティーのインスタ映えランチ会にしたのに! と思ったが、せっかくなら徹底的に楽しんでもらおうと思い直し、日本在住では1人しかいないマスターオブワイン大橋さんが社長をつとめる山仁セレクトのお客様用の30本以上のワインと、厳選された日本酒、泡盛も用意した(もちろんMINAWAのお客様も楽しんでいただけるもの。いいでしょ?)。
ママさんたちを出迎える料理は、当社に今年ジョインしてくれて、クラブカルチャーで育った白髪ダンディーなもりさんと、大島在住で料理上手な河邉さんが腕を奮ってつくってくれたものだ。
左がもりさん。右が河邉さん
料理とスタイリングのプロであり当社のパートナーでもある干場先生と吉府先生(一般社団法人日本ホームパーティー協会)にプロデュースして作成してもらったMINAWAのスペシャルメニューを2人が見事に再現してくれた。このメニューは、地元の素材を生かしている点が特徴だ。宗像産の旬のフルーツとチーズの盛り合わせや季節野菜のカラフルマリネはフォルムも洗練されていておいしかった。特に宗像牛のローストビーフも手がこんでいて完成度が高かった。
いままでこうした料理やスタイリングは大島にはなかったとみえ、ママさんたちが部屋にはいった瞬間から驚きの声をあげてくれて「なんか緊張するー」というママさんもいた。まあ、僕もどれだけ呑まされるのかと、それ以上に緊張していたわけだが、もりさんと河邉さんが連日準備に時間をさいてくれたことも知っていたので、とても報われた気がした。
想定していた時間よりも早めにママさんたちがそろいはじめた。僕の想定としては、まずはシャンパンでお行儀よく乾杯の予定だったのだが、ママさんたちはビール党が多いということで、渡海屋の田中さんがクーラーボックスパンパンのビールを持ち込んでくれ、食前酒がわりにママさんたちが早速どんどん飲み干していく。僕もその流れに忖度し、グラスにどんどんビールをついでいく。
ママさんたちのお子さん達も6、7人参加してくれた。大島の子たちはみんな素直で元気だ。梁に釣ったハンギングチェアをこども数人で占拠して梁ごと落ちるんじゃないかと思う勢いでブンブン振り回して遊んでいた。こどもは忖度がない。とてもうらやましい。
頃合いをみて僕から挨拶を、ということになり、話始めようとすると、
「慰労会と別に忘年会もやってくださいよー」とスタッフの佐藤さんに先制をきって煽られ、僕がどきまぎして場が笑いに包まれた。挨拶が苦手なので、こういうちゃちゃはとても助かる。
挨拶もほどほどに、菅原硝子の綺麗な気泡のはいったシャンパングラスに僕がシャンパンをついでいく。「わあ、きれいー」と少女のような言葉とともにビール同様シャンパンも瞬く間に蒸発していった。
シャンパンの次は、日本人も醸造にかかわる「グラッドストーン・アーラー・ピノ・ロゼ 2020」をあける。ロゼワインをあけますねーと言ったところ、「混ぜワイン?」と聞き間違いをした人がいて、みんな酔いもまわっていて一同爆笑。この程度でハイテンションになっているところみると、みんなだいぶ酒がまわりはじめてきているようだ。当然のごとくロゼも瞬間で蒸発した。
次は沖縄の宮里酒造の「春雨」という東京ではあまりみかけない泡盛をみんなでロックで飲み始める。飲んだことがある人は少ないのではないだろうか?生産量よりも酒質にこだわるため、年間小売量を抑えているためだ。社長を含め、たったの四人で酒造りをおこなっており、出来上がった泡盛は1年以上寝かせ、浮き出た油分を手作業ですくい出す。春雨は上品でふくよかな古酒様の香りとまろやかで濃厚な味わいがしてとてもおいしい。氷はもりさんがきれいにつくってくれた。
ママさんたちのお口にもあったようで、これまた恐ろしい速さで飲み干される。このあたりから、ワインといっしょに私の記憶も蒸発しはじめ、まどろみはじめてきた。
泡盛のあとは、ワインセラーから徐に「ピュリニー・モンラシェ 2019 ドメーヌ・ルフレーヴ」が誰かの手により取り出され開栓された。「ああ、それ高いんだよなあ。」と横目でみつつ心の中で思ったが、お構いなくワインはどんどんつがれていく。みんなの楽しそうな笑顔と笑い声が微睡の中で夢のように聞こえる。
ぼんやりとした頭でも、みんな楽しそうなのはわかる。マスターオブワインが丁寧にセレクトしてくれたワインを、想定された飲み方ではなかったかもしれないが、それはそれでよいのではないかと思った(山仁さんすいません)。
自分でもあまり意識していなかったが結構な量のお酒を飲んだようだ。気がついたら定宿としている大島老舗民宿の三國屋のふとんで寝ていた。頭が痛い。楽しい記憶だけが残るよい会だった。大島にいままでにないもてなしができて、大島がもっている価値を新しいスタイルで提供できたと思った。
翌朝、リーダースタッフの西永さんから慰労会の写真が送られてきた。その写真には、MINAWAで無邪気に遊ぶこども達の写真がたくさん含まれていた。
僕を含めおとな達は飲んではしゃいでいたから、こどもそっちのけになっていたが、こども達もMINAWAを存分に楽しんでくれていたようだ。そのこども達の写真を眺めながら、なんとなしにふいに胸にこみ上げるものがあった。
僕がファンドでやろうとしていることは、地域の循環経済を拡充させることだ。それは地域の生き残りのためなのだが、その根本には地域のこどもたちが戻ってきたいと思う場所にすることが考えられていないといけないのではないだろうか? こども達が将来大島にもどってこなければ、大島という魅力的な共同体は将来的に消滅してしまうのではないだろうか?
そうした思いと同時に、二重写しとなって去来する思いは、かつて離婚した女性との間にいる来年中学生になる娘のことだった。ここで詳しく書くことは場違いなのでやめておくが、自分には、仕事にのめり込みすぎて家庭をほったらかしにし、まともに家庭生活を維持できず、親として満足に娘に接することができなかったというずっと消えない負い目がある。MINAWAで無邪気に遊んでいるこども達の写真は、地域創生の根本を思い出させてくれると同時に、プライベートな自分の負い目がだぶり、こみ上げるものがあったのだと思う。
自分がつくったMINAWAという空間で、地元のこども達の笑顔をみることができたのは僕にとっては大きな慰めとなった。
話が湿っぽくなってしまった。
今回の慰労会で思ったことをまとめよう。大島のママさんたちは噂通りとんでもない酒飲みだったということと、子どもたちは無邪気で元気だということ。
あと、事業というものはいろんな人に支えられてできているものであり、いつも感謝をもって生きていかないといけないということだ。この立ちもどるべき「初心」はこれから地域事業に投資をしていく人間にとって忘れてはならない。かつて、自分のことだけを考え生きてきた自分のような人間に、このような思いをもたせてくれることになった大島に本当に感謝している。
大島での次のステップは、このMINAWAを地域ファンドに譲渡することで、地域の人達が地域資産を自分達で保有するスキームをつくることだ。これによって島全体の1人あたり所得が1.5%程度上昇する計算だ。さらに新しい産業もつくりだし大島のローカルツーリズムの発展に貢献したいと思う。
許可をいただけたので、当日のこどもたちの無邪気な様子の写真を貼っておく。あらためて、ありがとうございました。
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