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新しくビジネスを生み出すためには、言語化よりまず「体感」が重要 林隆宏×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、地域を変える活躍をされている方の対談シリーズ、今回は株式会社モノサス代表取締役の林隆宏さんです。徳島県神山町で「Food Hub Project」を展開するなど、地方から新しい取り組みを行っていますが、初回はなぜ取り組みに関わるようになったのかについて、じっくりとお伺いしました。

ビジョンやミッションを持たない会社「モノサス」

糀屋:初めて林さんにお会いしたのは、今回と逆で……。

:逆ですね!

糀屋:共通の知人が僕に取材をしたいっていうことがあったんですね。

:1年半ぐらい前だったかな。

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糀屋:それで、鎌倉にある僕の家で取材をしたんですけど……。

:僕はほぼ立会いですね。あの時は対談を聞いてる側なんで本来、僕は喋らないんですけど、あんまり糀屋さんが話すことが面白いから、僕が勝手に質問し始めちゃったんですよ。僕はどうしても組織を抱えちゃっているんで立場がちょっと違っているんですけど……、糀屋さんみたいな生き方って自分の中でもすごい共感するところがあったんです。それで面白いな! って。

糀屋:光栄です(笑)。

ーー『モノサス』という社名には、どういう意味が込められているんでしょうか。

うちは会社としての「ビジョン」とか「ミッション」って言うのがない……むしろ「作りません」と言っています。個人の意見ですけど「働く理由とか、その目的を他人に与えられるって何かおかしくないかな?」「そんなの自分で決めようよ」って思っているんですよ。自分でちゃんと物差しを持ってもらった方がいいんじゃないのっていうことから『モノサス』っていう社名も出来ているんですけれど……。

糀屋:いいですよね。僕もそこから勝手ながらいろいろと林さんのことを調べたりしたら「あ!めちゃめちゃ面白い人や!」って思って、一方的に神山町にも遊びに行かせていただいたりもして、どんどん興味が出てきたんですよ。神山でお伺いした「かま屋」とか、めちゃめちゃセンスよく飲食店のお店を立ち上げて成功させてる。

作った最初のうちはかっこいいお店でも、時間が経ってくるとオペレーションの中でグダグダになったりすることが多いんですけど、そういうのが感じられないのがすごい。そこで働いてる人も気持ちいい感じの人たちで、これだけいろんな事業やってるのに、お店レベルで全部できてるっていうのが……すごく謎だな(笑)って思っていました。

フードハブは「気づいたら代表に」

ーー林さんが『フードハブ』という、地域と食にまつわる仕事を始めたきっかけは何だったんですか?

:まず、厳密に言うと僕は去年の3月末で『フードハブ』の代表を退いてるので、今は共同創業者、筆頭株主の会社の代表という立場になっています。でも、で、そもそも『フードハブ』に関わったのは自分が立ち上げたとかではなく、成り行きというか、流れの中でそうなったんですよ。

糀屋:え? そうだったんですか!

:元々は『モノサス』の社員の真鍋太一(現フードハブ共同代表取締役 支配人でありモノサスのCDO)が神山に移住して自分で「食のプロジェクト」を模索し始めたのがきっかけなんです。彼がもともと東京に住んでいた時に、フードディレクターの野村友里さんや、料理人のジェローム・ワーグたちと一緒に始めたものなんです。

ジェローム・ワーグっていうのは、アメリカ西海岸のバークレーにある『Chez Panisse(シェ・パニース)』っていうアメリカのオーガニックフードの先駆けとなっているレストランがあるんですけど、そこの元料理長ですね。今は日本に来て、神田で『The Blind Donkey Tokyo』って店をやっている人なんですけれど……。

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ーー地域の食材を活かした商品作りや、イベントなどもされていますよね。

:そうそう。真鍋は彼らとの活動で食のイベントを不定期にやったりとか、加工品を開発したりしていました。そんな時期に、政府が各市町村に対して地方創生戦略の提出を求め出したんですよ。

糀屋:ああ、行政からの要請がきっかけに。

:よくあるのは外部からコンサルを呼んで、有識者会議を開いて通り一辺倒なものを作ってしまうケースも多いようなんですが、神山はちゃんと頑張って作ったんですよ。西村佳哲さん(プランニング・ディレクター。働き方研究家。リビングワールド代表)っていう方がファシリテーションしながら、住民と町外町民(神山出身で外に出ている人たち)、町役場の職員と集めてワーキンググループをやっていたところに真鍋も参加していました。その参加者の中に当時町役場の職員だった白桃薫が「農業をどうする?」とか「食はどうする?」ってところで真鍋と同じグループになって「食べる」っていうことについて検討して、最終的にこれをちゃんとプロジェクト化しようかっていうことになっていくんです。

糀屋:なるほど、なるほど。

:そこで白桃は「僕は役場を辞めてもこれをやりたい」って言っちゃうし、みんなもその場で「やろう!」ってなって……。それで真鍋から「自分としてもやりたいけど、モノサスのメンバーという立場でどうやって関わったらいいだろうか」って相談が来たんです。

糀屋:なるほど。

:でも、彼は当時うちの会社のクリエイティブ部門の責任者ですからね。だから、そういうプロジェクトに専念すると言われても「会社」としては難しいわけです。で、色々考えて、うちがその会社に出資するのはどうだろうって思ったんですよ。それで彼が動けるっていう環境を作った。それが……気がついたら、僕が代表みたいなことになっちゃったんです。

言語化よりまず「体感」する

糀屋:(笑)。最初はそんな感じでノリで始まる仕事ってよくあると思うんですけど、大概は途中で息切れしたりとか、何か話と違うなとか、壁にぶち当たったりとか……それで終わるっていうケースが多いと思うんですけど、そうはならなかった?

:やっぱり、意識合わせがきちんとできていたことが大きいんだと思います。僕らがやっているのは「地産地消」じゃなくて「地産地食」。英語でいえば「ファーム・ローカル」「イート・ローカル」です。地域で作って地域で食べようっていうことなんですけど、この考え方自体はアメリカの農務省が言ってることなんですよ。(真鍋)太一が「こういう考え方っていいよね」みたいな話はしていたので、サンフランシスコ界隈にイートローカル的な考え方があることは知っていました。

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それで『フードハブ』を始める時にも「ちゃんと見に行こう!」という話になって、役場の人たちと僕らで1週間ぐらいスタディツアーに行ったんです。『かま屋』ってお店の名前もその旅の中で生まれたりとか、その意識合わせっていうのは、町役場も含めてしているんですよ。

糀屋:実際にあるところにみんなで行って、それを見て、皆んなの中で「こういうことか」っていう腹落ちがあって、結束したという……。

言語化してるようじゃ遅いんですよね。「あそこで見たあんな感じのものがいいよね」っていうのが共有できてないと、そもそも方向性とか一緒に考えられないなと思ってるんですよ。言語化するのは、方針が固まって、メンバーやお客さんに伝えなきゃいけないタイミングで必要なのであって、方向性ってのはその非言語のときに決まると思っています。だからそこが共有できてるってことはすごく大事なんです。

僕自身、最初はそこらへんのカルチャーってよくわかんなかったんですけど、シリコンバレーとかに勉強で視察に行ったりしたときに時間を取って、自分でも回ったことがあって「なるほど、こういうことがやりたいのか」というのがイメージできる状態になっていましたから。それでズレなかった。飲食店、農家、ファーマーズマーケット、食育の部分もエディブルスクールヤードを見に行って……自分たちがやろうとしたことのヒントになる取り組みを全部見てきてるんですよ。それを「神山に置き換えたらどうか?」と、みんなで考えられたのは大きかったと思います。

糀屋:僕は最初に言語化に突っ走っちゃうみたいな悪い癖があるんですよ。自分自身が体感している事を、みんなも知ってるものだと勘違いしちゃう。だから、それを言語化したところで「全然伝わらない!」ってこともあります。そういう意味で身体性って重要だと感じていますね。みんなで一緒に体感した空気を感じてるっていうことの重要さというのは、もっと重要視されてもいいのかなって。今は「オンラインで全部いけるでしょ」みたいな話になってますけど、そこは抗いたいところですね。

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:それは超絶、大事じゃないですかね。

糀屋:やっぱり、そのほうがズレないってことですよね。

:だからフードハブのメンバーは僕らの後も、サンフランシスコに研修に行ってます。めちゃくちゃお金がなかったので「全部会社経費」みたいなのは無理でしたが(笑)。メンバーも自分でもお金を出して。向こうの『Chez Panisse(シェ・パニース)』ってレストランとか、ベーカリーショップに放り込んで、働かせてもらったりしてるんですよ。その地域に受け入れられて、経営がうまくいっているお店で働いたことがあると言うのは全然違うと思うんです。現場のメンバーにとってはそこで学んだことってすごい大きいんですよ。経験が生きていると思います。

経営者だけど会社を「手放す」

ーー多くのスタッフと一緒に仕事をしてきて、変わってきたことってありますか?

:『モノサス』でも『フードハブ』でも、月に1回、会社の全員が集まる全体会議っていうのがあるんですけど、基本社長が喋らないっていうことになったのは結構大きかったですね。先に変わったのはフードハブなんですけど……。最初は僕とか役員が喋るばっかりの会議だったんですけれど、それに反発というか……「方針を埋め込まれる」みたいな感じに受け止めたメンバーもいて。

僕、そんな言い方してないんですよ! かなり柔らかく言ってますけどね(笑)。それで、有志が全体会議委員という委員会を作って「自分たちでやります」ってことになったんです。彼らが運営して、大事なことをもそこで結構決めることにしちゃった。例えば「年末年始の休業営業をどうする」とか、「4月の繁忙期の営業はどうする」とか。営業ルールとかも決めちゃう。「本当に経営者しか触れないこと」以外の課題は、全体会議委員会で扱うことにしちゃった。今は『モノサス』も全体会議は委員会制度になりました。。「社長の訓話」みたいなのは一切なし(笑)。つまり僕がやったことは何か? というと「手放した」ってことですね。

糀屋:手放した!! でも……みんな決めた事に対して「おいおい!」って時もあるんじゃないですか?。

:(笑)。悩ましいとこですね。

糀屋:手放したところで気になるじゃないですか。それを放っておくのか、何か言うのか、もしくはもっと違う何かがあるのか? 僕はすぐに口を出しちゃうんですけど(笑)。「細かいんだけど、ここだけは大事なんだよ」とかって言い始めるときりがないんですよね。

:うちも相当発展途上ですけど、一番大事なのはやはりそのベースのルールをちゃんと作るってことですね。『モノサス』で言うと「目標と給与の設定」っていうのは、ある年次を超えると自分でやることになっているんです。「僕、年にこれだけ稼いでくるんで、給料いくらにします」って宣言する。一応、損益分岐点を決めているのでそれさえ超えてればいいよという形にしてるんです。それがベースのルール。

プロジェクトって複数人でやるので、その稼ぎの数字をどういうふうに配分をするのかみたいなこともガイドラインをちゃんと決めてます。そういうベースをちゃんと固めて渡しておくと、口出しすることが減ります

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糀屋:ベースのルールってお金に関するところだけですか?お金のところだけで、割と楽になってるのか、少し違う要素があって楽になってるのか?。

:うーん……一番大きなのってお金のとこですよ。結局、みんな感情的になったり、対立するのって、それぞれ「自分の都合」のことなんですよ。経営者にとって都合が悪いことって会社が潰れることですよね。だから潰れないような数字さえ作っておけば、意外に手放せるんだなって気づいたんですよ。

糀屋:ああ、確かに。

:他の会社で言えば……例えば接客業なら「会社にとって都合の悪いところ」に「お金」だけじゃなく「顧客の満足度」とかもあると思うんです。その本当に都合が悪いところだけ、をきちんとルールで守っておけば、かなり手放せる領域があるんで、気になったとしても「気になるな〜」ぐらいで見守っていけるんですよ。あまりにも問題がありそうだったらヒアリングしたりはしますけど、今のところそこに介入して采配するって事はあまりないですね。要するに「自分の都合」を明確にすると結構いいってことですね。

糀屋:本当にそうですね。

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