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門司港で直面した「都市部の衰退」にどうアプローチするか 菊池勇太×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗と、地域を変えるキーパーソンの対談。今回は福岡県北九州市の門司港エリアでゲストハウスの運営、まちづくりに関わる菊池勇太さんです。対談の前編は、菊池さんが門司港でのまちづくりに関わるようになった経緯、そして地域の衰退の原因について語ります。

菊池勇太(きくち・ゆうた)
合同会社ポルト 代表
岡野バルブ製造株式会社 社外取締役
大英産業株式会社 街づくり事業本部 テクニカルアドバイザー
北九州市 オンライン移住相談員
合同会社阿蘇人 副代表
門司港ショートフィルム製作委員会 会長

1989年北九州市生まれ。北九州市立大学卒業後、コンサルティング会社、マーケティングリサーチ会社を経て、2018年に合同会社ポルトを設立。ゲストハウス『PORTO』や飲食事業、メディア単体事業を手掛け、合同会社ポルトと同時期に合同会社阿蘇人の共同代表も務めエリアの枠を越えて活動をしている。2021年から岡野バルブ製造株式会社の社外取締役、大英産業株式会社の街づくり事業部アドバイザーも務め、各業界での新規事業開発に従事している。

地域のために何かがしたい

ーーまず、なぜ菊池さんは現在の仕事に就かれているのかをお伺いしたいのですが。

菊池:僕は門司出身で、子供の頃から「世界中の人がみんな幸せになる仕組みをどうやったら作れるんだろう」って考えていたんです。それで、最初は環境関係の会社に入りました。当時、イギリスで「カーボンフットプリント」っていう制度が始まりました。商品にカロリー表示が表記されているように、商品に「これは何キロCO2が排出されます」などの表示を貼るという制度です。それを日本でも導入しようという話になって、僕はその製品のラベルに貼り付けるCO2の排出の計算をしたりする仕事を1年ぐらいやったんですけど、翌年、国のお金がなくなって、企業はラベルを貼っても売り上げが変わらなくなって……。それでやめちゃったんですよ。いいことしてても、知られないと消えるんだなってことはちゃんとわかりました。

糀屋:シビアな世界ですよね。

菊池:それで、生活者の動きを変えたり、仕組みそのものを変えるような力が必要だなと思っていました。その後、マーケティングリサーチ会社に入社して、生活者の調査をやり始めたんです。そうすると大量に生産して大量に消費して、っていうサイクルがわかってきて「僕が関わった商品って誰を幸せにしてるんだろうな?」とか思うようになってきたんです。

そんなさなかに2016年の熊本地震があって、その震災復興ということでサラリーマンをしながら阿蘇に通い始めました。そこで「この地域を100年先どうするか」という話を地域の人としていました。阿蘇山と共にずっと生きていて、野焼きをしながらとか、牛を育てて、農耕して、お米の栽培にもその糞や肥料を使うといった循環の中で生きている人たちの暮らしがわかってくると、今の社会のあり方はどうなんだろうなって考えはじめて。元々「将来は地域に入って創業しよう」と思っていたこともあって、復興支援活動で知り合ったメンバー2人と阿蘇で起業しました。「地方で新しい生活モデルを作れないか」というのがテーマでした。

ーー「人の役に立つような仕事をしていきたい」というのが起業した理由だったんですね。

菊池:はい、元々就職したのも、「働きたい」っていうよりは、活動家のような感じでしたから(笑)。今の動き方はそういう感じに近いと思いますね。革命戦士みたいな生き方。で、阿蘇で会社を立ち上げる準備をしていたころ、今、門司でやっているゲストハウスの物件の相談をされました。それまでもゲストハウスとして使われていた建物が壊されるという話でしたが、「この建物を存続させたい」という人がいて、とりあえず買ったと。でもご自身は違う事業をやっているから「建物をうまく活用して事業をやってくれる人」を探していて、僕に声がかかったんです。阿蘇でも「地元のために」っていうことをやっていたし「自分にパスが来たんやったら、せないけんのかな?」っていう感じで、2拠点でやろうと決心して引き受けたんです。門司港の文化資本、建物的に価値があるものを残そうとも思いました。

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みずからを「革命戦士みたい」という菊池さん

ーー門司港の街って本当に素敵ですよね。駅舎をメインにレトロな建物が残っていて。

菊池:門司港って産業がなくなったので、観光を興すために官と公が連携して実は1000億ぐらい投じてるんですよね。でも、観光地開発した時期には経済的なGDPは若干上がるかもしれないけど、結局経済は弱るし、地域外の資本が入ってきてそこが吸い上げていく仕組みになってしまって、だいたい衰退する。

糀屋:それは、日本各地で起こってることだよね。

「都市部の衰退」を目の当たりにして

菊池:わかりやすくそうなっているんですよ。僕はゲストハウス『PORTO(ポルト)』を開業しようとしているときに、そういう門司港の現状をはじめて知ったんです。最初は「地元で頑張ってる人が何人かいる」って知ってましたし、経済的に弱ってるけど、なんかそこまでひどくはないかなと思ってたんですけど、戻ってみて、蓋を開けたらとんでもなくひどい状況で……。

糀屋:そんなにヤバいって実感したんだ。

菊池:「都市部が衰退するとこの状態になる」っていうのを痛感しました。それで、門司港の方でも事業に力を入れ始めたっていう感じでしたね。

糀屋:なるほどね。このままいったら構造的にやばいんじゃないかっていうことがわかって、という。

菊池:日本全体もそうなっていると思うんですけれど、門司って「都心部が高齢化して、経済的にも弱っている衰退した状態」がすごいリアルに想像できる街なんですよ。以前は北九州が経済の中心だったんですけど、今では周辺の人口を福岡市が吸い上げていくわけですよね。都市の移り変わり、産業の移り変わりで、街が変わっていく。それが自分の地元で起こっているんですよ。これは街の社会構造や仕組みを何か変えないと、都市の寿命が尽きる! って感じて。都市の衰退って厄介なんです。

糀屋:農村部だったら、まだ物が作れるし、豊かな自然もあるし、暮らそうと思えばなんとでも暮らせるんだけどね。

菊池:そうなんですよ。でも、都市って別に資源もないし、衰退すると本当にどうにもならない。若者が減っている地域で「雇用を産んで」とか「高齢者の人たちがどうやったら長く健康に生きられるか」とか「どうやって町を維持するのか」とかを考えないといけないんです。それで危機感がだんだん加速したって感じですかね。

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シャッター街がつづく門司港の商店街

糀屋:今、僕は福岡県宗像市の大島で事業をしてるんですけど、高齢化のスピードがめちゃめちゃ速くて、所得も割と低め。だけど、不幸感を持って暮らしてる人って意外と少なくて、みんなそこそこ幸せに生きてるっていう状況なんです。細々かもしれないけどみんな幸せに生きていく未来っていうのはなんか想像がつくんですよ。でも、都市の場合は確かに産業が衰退したらもう何も残らないですよね。門司にはまだ歴史的な地層とかナレッジはあるかもしれないけど、東京の新興地域とか、空洞化して何もないから一旦衰退しだしたらシュリンクしていくしかないと思います。

菊池:そうですよね。

糀屋:でも、門司ですらそういう衰退の傾向があるのは問題ですね。魅力的な場所でも、放っておいたら歴史的な建物だってデベロッパーが買って潰しちゃったりとか。何かうまくアセット(資産)を使っていかないと、あと産業を呼び込まないと都市って生きていけないんだなっていう、なんかそういう話だなあって思えますね。

菊池:本当そこなんですよ。都市の新しいあり方を追求するって、アセットの使い方っていう話になるんです。例えば地域にある資源って外の人は評価できるんだと思うんですけど、中の人から見たら評価ができない。一つには中の人たちの教養がないっていう問題もあるんですけど、それですべて片付けるのはちょっと問題もあります。人間ってそもそも近いものに対しては、あんまり価値を感じないでしょう? すごいイケメンな人と結婚しても、夫にしてしまったらもう1年ぐらいであんまりかっこよく見えなくなってく。どんなに立派な方の妻でも、夫のことを立派だと評価している人があんまりいない(笑)。それと一緒だと思うんですけど。

糀屋:なるほどな例え(笑)。

菊池:地域の人だって門司港のことは好きなんです。ただ、街並みが好きかとか、古い建物に高い価値を感じてるかっていわれると、ちょっと疑問なんですよ。行政も含めてですけど、開発が行われることの方が嬉しいみたいで……大きい建物が建ったら街が良くなった感じがするっていう。おそらくカジノが来てくれたら一番喜ぶんだと思うんすけど(笑)。誰かが何か大きなものを作ってくれたら、街が良くなるんじゃないかっていう幻想は、日本の中どこにでもあると思うんですけど、かなり厳しい問題ですよ。そういう価値観を根底から変えないと、多分、街の構造も変わらないなって思いますよね。

地域を衰退させているのは誰か?

糀屋:今の話は、僕が最近考えていることと重なっていて、地域を衰退させているのは誰かっていうことを考えたとき、大きな原因の一つは「地域住民にあるんじゃないか」っていうのが僕の仮説でして。

菊池:だと思いますよ(笑)。

糀屋:でもね、僕も最初は大島に対して「綺麗な海」「魚がとれて素晴らしい」「人も素晴らしい」とか感動がいろいろあったんですけど、2年過ぎたら、そういうのがだいぶ薄れてきてるわけですよ。感動って持続しない。新鮮な気づきもなくなってくる。昔から住んでいる人はなおさらで、常識化されてしまったものなんですよ。だから地域住民が悪いって言い方もちょっとおかしい気がしてもしていて……。だからこそ第三者、菊池さんみたいに、外の目も持ってる人が入ってきて、中の人たちとの交流の中で価値を掘り出して、新しいサービスや物をを作っていくっていう、そういうことが必要なんだろうなと思ってるんです。

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菊池さんが運営するゲストハウス「POLTO」の内観

菊池:なるほど。

糀屋外の目を持って地域にちゃんとコミットして、熱意もあるけどちゃんとお金の計算もできて、サービスとかものを形にできる人。めちゃくちゃ高度人材なんですけど、そういう人を僕は「ローカルエリート」って呼んでます。菊池さんって僕の考えるローカルエリートに一番近い。そういう人がいるってことが、もっと伝わってほしいと思っているんです。

菊池:そういうローカルエリートみたいな考え方を持ってる人って一定数いると思うんですよ。でもカルチャーを作るっていうのって時間がすごいかかるじゃないですか。それで、そういう人たちはみんな心が折れていく。なぜかというと、地域に入ってみると思ったほど賛同してくれる人がいないんです。僕も門司港に入るって選択肢を褒められたことは、そもそもありません。「大学に行ったんだったら都会に出なさい」って周りは思っていたし、高校の先生も「都会の大学に行くことの方が素晴らしい」っていう考え方です。

僕はイタリアの農村部とかで起きている「アグリトゥーリズモ」みたいな発想は、地域住民からは生まれないと思ってます。すごい美しい話として語られていても、日本であれを実現した地域って実際に見たことがないし、僕らみたいに頑張って1件か2件は挑戦している人はいますけど、そういう人が地域でなんて言われてるかっていったら「変人」ですからね。

糀屋:そうなんだろうな(笑)

菊池:しかもその事業についてはキャッシュも産んでない。僕が知ってる人で言うと、富山で『ベッドアンドクラフト』っていうゲストハウスをやってる建築家の山川智嗣さんとか、基本的に役員報酬ゼロだって言ってました。自分の建築の仕事でお金を回してるって言ってたんで。マーケで稼いだお金を地域に投下してるような感じになってるんですよ。実際、僕も生活のために他のことで稼いでいます。そういう感覚のある人の絶対数が増えないといけないと思いますけど、そこにお金がついて回る仕組みっていうのも必要だと思うんですよ。

糀屋:そうですね。人は増やさないとね。

(構成・齋藤貴義)

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