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一人の「ヒーロー」が地域を救うという甘い幻想は捨てよ 菊池勇太×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗と、地域を変えるキーパーソンの対談。今回は福岡県北九州市の門司港エリアでゲストハウスの運営、まちづくりに関わる菊池勇太さんです。対談の中編は地域にあるお金の流れ、年齢構造的な問題について突っ込んで語ります。

地域の「お金の流れ」を変えたい

菊池:僕が起業した頃に決めたことは、「門司港が好きで住みたいっていう人はとにかく全て雇う」。会社で囲い込んでいけば、みんな生活していくし、地域に馴染んでいってくれる。実際、僕らを中心にこの3年間で30人ぐらい増えたんですよ。

糀屋:素晴らしい。

菊池:その子たちから、徐々に「独立してお店を始めたい」っていう話も出てきはじめているし、友達を呼んできてくれたりしてくれているし。うちの会社みたいなところがあと10個作れたら、門司港の10人が300人増える。結構インパクトでかいとは思うんですけどね。僕が投資したお金って3〜4000万ぐらいなんですけど、3億円くらい突っ込めばできるんじゃないかなと思ってます。

県とか市で「観光事業」という名目で何かよくわからん建物を建てるのに2億とか3億とかすぐに予算が付いてるんですけど、それを転換させてこっちに回してくれたらいいのに……。よくわからないイベントやプロモーションの予算だって、コンテンツ開発とか、人を育てる教育するお金に回していけば、多分うまくいくと思うんですよ。そういうお金の回り方、投資の順番の優先順位を変えるとかっていうことだけで、地域が変わるんだと思うんですけど。今はそれができてない。僕ら民間で頑張ってるけど、これ本来だったら「官」がしてもいい話なんじゃない?とか思いますね。

糀屋:確かに。

菊池:観光協会とか、商工会議所とか結構なお金が集まる集金装置ってのは、昔からのしがらみで作られているようなもので、そういったものがアップデートされていくとよくなるんじゃないか?という気もしますね。

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菊池さんが運営するゲストハウス「POLTO」の部屋

糀屋:なるほどね。僕も今大島でやってるけど、商工会、観光協会とか、漁協とかありますけどハンドルを切ってもらうって、なかなか大変だなって実感があります。

菊池:あるでしょう(笑)。何かそこら辺は、俺も触ってないんですよ。こういう場で文句言ってもあれですけど、基本、地域の経営者の飲み会とか行ったって、女かゴルフか車か、不動産の話しかしてないですよ。

糀屋:(笑)わかる。

菊池:行っても何の価値もないですよ。自主制作で映画『門司港ららばい』っていうのを作ったっていうのも、そういう人たちに向けた血判状に近い形のものだと思っています。

糀屋:ああ、そうなんですね。

菊池:地域で一番大きなお金の流れを作れるのが、行政とか観光協会とか商工会議所みたいところ。でも、そういう人たちとローカルエリートの人が交わってるケースを見たことないですよ。そこと関わろうという気にもならないぐらいの旧態然とした仕組みとか、そこにお金を回してる方々の思考能力とかモラルとか思想や哲学みたいなものが何かすごい古いんだと思うんですよ。当時は良かったんだろうなと思いますけどね。

糀屋:そうですね。その人たちが生きてきた時代と産業構造が変わっていると思うんですよ。構造が転換されて衰退の方向にいってるのに、価値観ってなかなか変わらないから、年代の断絶っていうのもあるんじゃないかなって思いますね。

菊池:その昔、明治から昭和初期にかけて、出光佐三さんたちとかが頑張って事業を興した。今地域にいるいわゆる「名士」的な人たちって、昔の人たちが作った資産の上に綺麗に乗っかって、高度経済成長期を過ごして、ほっといてもお金が入る時代を過ごしてきた世代。だから商売をやってる人、事業やってる人でも、本当にその事業を興したことがある人って少ないんですよ。

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糀屋:僕はもう自分で突破しちゃおうって思っちゃうタイプで、身銭切ってやってますけど。身につまされる感じとかは、超わかります。

菊池:僕の知り合いでITスタートアップのベンチャー企業を立ち上げた人がいるんですけど、資金調達は基本全部、福岡でやってるんですよね。北九州でもやってみたらしいんですけど集まらないんですって。僕より財界の繋がりを作るのも上手かったり、営業力が高い人なんですけど、その人でさえも結構厳しい。僕は門司港で3年ぐらい誰よりも身銭を削ったし、人口を増やしたっていう実績もあるし、街の人もみんな知ってくれてる。それでも資金を動かすのは難しいって実感しています。

お金の流れの悪循環を断ち切る

菊池:投資モラルがないのは問題なんですけど、人材に対する投資も問題なんですよ。人がお金を産むとか、物を作る、事業を生み出すとかっていう発想がそもそもない。地域を一個の会社だと考えると、上層部がめっちゃいっぱいいて、真ん中にあたるその下の世代には頭脳労働をしない方々だけいる。で、若い人たちがいない。僕らから下の若者って、それこそ本当にヤンキーくらいしか地元に残っていませんよ。行政に関しても真ん中のエリート層がほぼいないから、年寄りの方々が全部仕組みを決めていく。そりゃあ若い子にはお金が落ちてこないわけです。

糀屋:わかります。

菊池:だから、若い子たちは街を出ていってしまう。この負のスパイラルを誰が止めるんだ問題。これはどこの地域も解決できていないんですよ。糀屋さんがローカルエリートって呼んでくれる人が、地域で1人で戦っていたところで、大きくは変わらない感じはあるんです。これは全国的なうねりを作らないと難しいのかな、と。単体の地域だけの活動の限界ってのは感じてますね。

糀屋:なるほど。

菊池:事業を起こす人って都心部に集中してますからねえ。

糀屋:人材が都市部に流出してますからね。

菊池:創業して、事業を大きくしているような人たちは、他の事業に投資ができる人でもあるわけです。そういう50代、60代は都市部にはいるけど、地方でそういうマインドの地元企業さんって今ほとんどいないんですよね。余力、資金力はあるのに、それが人に回らないから、新しいものが生まれないっていう負のループをずっと繰り返す。今、僕が仕事もらっているところは、「考え方を変えたい」っていう40歳から下の経営者の人たちです。上場企業で「優秀な人を雇ってみたいから、先に僕みたいな人と仕事してみて、感覚をつかんで中途を入れたい」っていう人が僕に依頼してくれる。でもそういうことを考えている人は、100人と会って2人ぐらいですね(笑)。

糀屋:なるほどね。

菊池:とりあえず、僕は今、上場企業2社に仕事をもらっていて、一つはアドバイザー、一つは取締役。その立場を利用して、地場産業の改革をしようと思っているんです。そこで大きな影響力を自分が持った上で、またお金を集め始めるっていう……。それってかなりのパワープレーですけどね(笑)。そうやって、実績や権力を握った後に、仕組みそのものを変えていくって手法をとるのが一番早そうなんですよ。でも、これって本当に糀屋さんがいうように再現性が全くないのと、モデルとしてはまず破綻してて、超絶頭おかしいやつしか多分やれないと思うんですよね。僕も「どうやったら成功できると思いますか」と聞かれても「超絶パワープレイで、とにかく頑張ってます」みたいなことしか言えないんですから。

糀屋:(笑)。即効性のある回答って多分ないですよね。この通りにやればうまくいきますよ、と言うような再現性って、地域や人によって差もあるし……、安易な回答ってないでしょうね。僕も今、試行錯誤しながら、地域でのファイナンスの仕組みを考えているんです。僕は今、離島にお金を出してますけど、周りの投資家とかには最初「何やってるの?」みたいな目で見られていましたからね。でも「目に見えないけど、投資する価値があるところにちゃんとお金を出す」ファイナンスの仕組みって大事だと思っています。それが地域で新しいことに挑戦しやすい土壌を作るっていうことだと思うんです。開発も外資に任せないで自分たちでやるべきだと思いますからね。そこでお金の話はすごく重要。

菊池:ファイナンスの仕組みって言うのは、突破口になるかもしれませんね。例えば今、起業するって地方も都会も一律の基準じゃないですか。そこを地方で起業することに対しては下駄がはかされるとか、何か上増しされます、とか、国や行政が投資するお金の矛先を変えていくのはあると思うんですよ。

糀屋:それができると違いますよね。

「ヒーロー」に依存しすぎるな

菊池:あと、僕が最近思ってることで言うと、民間プレイヤーに依存しすぎないってことが大事だなと思っていて。

糀屋:面白い。

菊池:ヒーローを待ち望んで感じはするんですよね。僕も「門司港を変えてくれるのは菊地くんしかいない」っていろんな人に言われるわけです。それはありがたいんですけど、1人のヒーローが、街を変え、世の中を変えていくみたいなサクセスストーリー、歴史上、その後に続いたことがないじゃないですか。下関が目の前だからよく思うんですけど、長州の吉田松陰とか、山口では特に英雄扱いされていて。明治維新何周年とかでお祝いがあると税金がたくさん投下されていて(笑)、かわいそうだなと思ってました。彼はそんなことをしてほしいわけじゃないと思うんですけどね。革命を起こした人って、英雄扱いされますけど、地域や会社に根づかないんですよ。ヒーロー依存じゃないモデルや仕組みを上手に作らない限りはまずいんです。僕もあと30年ぐらいは自分の力で何とかできるかなって感じはするんすけど……。

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糀屋:そうですね。熱海なら市来(広一郎)くんとか、門司は菊地くんとか、やっぱりローカルエリート的な人って、希少種でレアだから、やっぱりどうしても目立っちゃうんですよ。そうなると、彼らが何とかしてくれることになり、メシア待望論じゃないですけど、そういう形になっちゃうっていうのは今言われてそうかと思って。でもそれって決して健全ではないよね。

菊池:健全じゃないのと、多分その下はもう出てこないと思うんです。現実、八女でも株式会社『うなぎの寝床』をやってる白水(高広)さんが出てき他のはすごいけど、下の世代で活躍できるああいう人、1人も出てないでしょう? 今、北九州でも僕より年下の企業家って全然いないんですよ。それ、あまりにも再現性がなさすぎるからだと思いますよ。話を聞いて心が折れる。

糀屋:確かにね(笑)。

菊池:糀屋さんの話聞いても、誰もやらないと思います。大島では。

糀屋:やらないやらない(笑)。

菊池:自分がもう1回やりたいか?って言われたらやりたくないですもんね。

糀屋:経験が先取りで見えたらかなり躊躇するかも。

菊池:そうですよね。でも、聞かれるじゃないですか。「うまく事業が回っていて幸せですか?」とか。実際、ローカルエリートの人たちの戦いって過激できついですよ。しんどいけど、タフな人間だから何とかやれてるみたいな状況。

糀屋:そうっすね。

(構成・齋藤貴義)

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