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「日本で一番行きにくいセレクトショップ」を作って島を楽しくしたい やまざきたかゆき×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社代表取締役の糀屋総一朗と、各分野で活躍される方々の対談。今回はカーデザインを軸とした工業デザインのほか、デザイン教育、企業コンサルタントなどにも関わる「ハイパーデザイナー」のやまざきたかゆきさんです。対談の2回目は、地域にあるものを変える時の考え方、そしてやまざきさんが考える「日本で一番行きにくいセレクトショップ」を通して島を楽しくするアイディアを語ってくれました。

すべて変えるのではなく、何を残すか決める

ーー現在はお二人でどんなことをやりたいというイメージはありますか?

糀屋総一朗(以下、糀屋):今、大島に『umiba』というスペースを作ったんですが、その発展型を考えているんです。大島は現在宗像市の一部ですが、もともとは大島村という独立した自治体でした。宗像市との合併にともなって10 年以上放置されていた村役場をリノベーションして作ったのが『umiba』なんです。誰も使うあてがなかったけど、建物の雰囲気はいいし、古いけどしっかりしていたから上手く利用したいと思ってた。

やまざき:ほんと、ベタに「役場」だよねって。

糀屋:で、うちの会社は「地域循環経済」の拡充ってビジョンを掲げているんですよ。要するに「外から来る人たちが島にお金を落としてくれて、それが島の中で循環する」っていう仕組みなんですけど、それをまず作りたい。その接点になるような場所として最初に『MINAWA』という宿を作りました。でももう少し幅広い人たちが集まれる場所を作りたいということで、旧村役場を利用させてもらうことになったんです。

一階にシェアキッチンを作ったんで、今はMINAWAのオペレーションを現地で担ってくれているもり(星野守孝)さんが月1回、バーを開いてくれています。島に移住してきたアーティストの井口真理子さん主催の絵画教室も始まりました。

それから、大島には「草木に詳しい」とか「野草でバッグ作っちゃう」とか「ジャムを作れるお母さん」とか、地域ならではの特殊能力を持ってる人たちがいるんです。そういうプロ級じゃなくていいんですけど、島の人たちが何かを教えてくれる、大島ならではのワークショップもやっていきたいなと。継続的に何かそこでやろうとするとコストとして合わないんですけど、いろんなことをできる、交流の場として『umiba』が活用されればいいなと考えています。

その場所ならではの体験ができるようにもしたい

やまざき:へぇー!

糀屋:釣り好きのお父さんに連れられて、家族連れで島に来る人たちがいるんですけど、お父さんが釣りに行っている間、お母さんと子供が遊べるところがない。そういう人たちが楽しめる場所、遊べる場所になれば、そこでお金が落ちて、先生役の島のママさんたちのちょっとしたお小遣いになる。逆に言えば、面白い場所があればこれまで1人で釣りに来ていたお父さんが家族連れで来るようになるかもしれない。そういう仕組みを『umiba』で実現させたいなと思って作ったんですね。そしたら予想外にやまざきさんも絡んでくれて……。

やまざき:あそこは昔の建物だからしっかりしてるし……あとちょいちょいダサい(笑)。ダサいというか昭和なんですよね。逆にそこが面白くて、今の若い人たちにはもっと面白く見えるんだろうと思いますね。ダサかっこいい、みたいな。2階はまだ手つかずなんだけど、そこを使って何かやれたら……。

糀屋:そうですね。

やまざき:あそこをリノベーションするなら全部きれいにしない。ダサいところはちゃんと残す。全て「ちゃんとしちゃう」と「大島じゃなくていいじゃん」ってことになるんですよ。コントラストとメリハリ。ここは大島だよね、っていうところは残しつつメリハリをつけていくと、作ったところもよりよく見えるし、残ってる景色も良く見えるんじゃないかな。そういう意味ですごくいい場所だと思う。

糀屋:確かに全部変えちゃうっていうのは引っかかる。現代アーティストで李禹煥(リ・ウーハン)という人がいるんですよ。彼は、石とかガラスとかを配置して見せるアーティスト。「石は時間だ」って言うんですよね。「そこに時間が詰まってるんだ」と。そういう「時間が詰まった何か」を取り替えちゃう、上書きしちゃうと取り返しがつかないじゃないか、ということだと思うんですよ。

やまざき:なるほどー!

糀屋:だから、僕も昔からあるものをガラリと変えちゃう、上書きしちゃうことにすごく抵抗がある。でも変えた方がいいこともあるんですよね。その「変えるところ」と「変えないところ」をどうしていくか、責任があると思っているんです。だから、やまざきさんがそういう感覚持ってくれてるなら、ますます一緒にやりたいなと思いますね。前にお話していた「日本で一番行きにくいセレクトショップ」のお話はすごく興味ありますよ。

やまさきさんデザインのミニ四駆

「日本で一番行きにくいセレクトショップ」とは?

やまざき:基本的にはセレクトショップって形態で、僕が知ってる人、糀屋さんが知ってる面白いアーティストとかをベースに、ひと棚ずつ並べて売る、っていうのをやってみたいんですよ。東京では買えないものをあえて作ってもらって、全部一品ものにする。「大勢の人が欲しがるものじゃなくていい」っていうのが前提。ただ響く人には「ここで買えるなんてラッキー」と思わせるようなもの。

糀屋:そのお店ならではの価値付けをするってことですね。

やまざき:そう。それだけじゃなくて「その時」も大きな価値にしたい。ずっと売ってるわけじゃなくて期間限定。「じゃあ、いつか行こう」って、ついつい5年になったりするんでよくないんですよ。毎年毎年閉店する。1年経ったら爆破しちゃう! みたいなノリで(笑)。そうすると、気になる人は「行かなきゃ」って気持ちになるでしょ? 季節によって景色が変わるから年2回閉店でもいいかもしれないね。季節ごとに来たくなるお店。

糀屋:爆破(笑)! それはインパクトありますね。

やまざき:例えば、僕は模型メーカーのTAMIYAでもミニ四駆の仕事をしているんだけど、限定商品なんかだと都内ではまず普通には買えないんですよ。争奪戦になってメルカリで高値で売られちゃうから。でも、ミニ四駆のオフィシャルショップの権利を貰っちゃって、そういう「限定商品」がしれっと定価で売ってる、みたいなのも楽しいよね。「大島だと買えちゃうんだ!」って(笑)。例えば、そのセレクトショップはハコ(建物)以外、置いてあるもの全部買えるっていうのもいいと思うんだ。棚にも、机にも全部に値札がついてる。

糀屋:そのくらい、店内全てがセレクトされているということですよね。

やまざき:そういう遊び心は楽しいよね。みんなが欲しがりそうなものに関しては「レンタサイクルで島内のスタンプラリーを回ったら買う権利がある」なんて遊びにしても面白い。ひと通り島を巡って、ちゃんとインスタに上げてもらうとかね。

糀屋:それは話題になりそう(笑)。今、島のモビリティ問題って言うのがあって……まずタクシーは 1台しかない。

やまざき: しびれるね(笑)。

糀屋:あとはバスがあるんだけど、1時間に1本で、観光名所に2、3 分しか止まらないので観光客にとっては使い道がないんですよ。島の人たちは自分の車があるからなおのこと使わないし。それからおばちゃんがやってるレンタカーがあって、それが2、3台ですね。あとは海上タクシーがあるんですよ。フェリーに乗り遅れたとか、夜中どうしても行かなきゃいけないときに頼めば 3,500円とか。だから、島に遊びに来ても不便だなと感じているんですよ。

どんどんアイディアが出てきます

やまざき:だったら、僕がデザインしたズーマーというスクーターがあるんだけど、それを2台ぐらい買ってもらって、レンタルバイクやるのはどう? ヘルメットもちゃんとコーディネートして乗ってもらう。そのバイクにもちゃんと値札がついてる。

糀屋:買えちゃうんですね(笑)。GPSと紐付けたアプリを作って管理もできるかもしれないし、そうすれば遊びの幅も広がるかも。

やまざき:車とかでもできるよね。僕がデザインしてもいいんだけど、Renoca(リノベーションした中古車)なんかを社用車にして『umiba』のメンバーにはそれを使ってもらう。見たことない車が走ることによって街の新しい風になる。そこにも値札が付いてて気に入った人は買えるようにするとか。売れたらまた新しいのを作ればいい。そこもショップの延長だよね。

糀屋:新しいモノを持ち込むのに、セレクトショップというのはいいかもしれないですね。

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やまさきたかゆき
pdc_designworks代表 ハイパーデザイナー​
1972年長野県上田市生まれ。元Honda技術研究所デザイナー。Ape・zoomer・GROMなどヒット商品を手がけた経験を活かし2012年、pdc_designworksを設立。幅広い視野と、多様な趣味を活用し、カーデザインを軸とした工業デザインだけでなくファッション、モデル、DJ、コンサルタント、雑誌連載、企業、学生へのデザイン教育活動など「人々を笑顔に」をテーマに活動を行う。​近年はカスタマイズプロデュース、アンバサダー活動や企業コンサルティングなど活動の幅を更に拡大中。

聞き手・高橋ひでつう 撮影・KINU 構成・齋藤貴義

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