ソーシャルメディアで地域の魅力を発信するために考えること 久林紘子×糀屋総一朗対談(上)
ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗とさまざまな業界で活躍されている方の対談、今回は企業の公式インスタグラムのディレクションや撮影のトータルプロデュース・企画・運営など幅広い領域でご活躍されている、久林紘子さんをお迎えしました。前編では実際に久林さんが手がけている事例、現在のトレンドについてお伺いしました。
久林 紘子 (ひさばやし・ひろこ)
ハイファッションブランドのデザイン課、PRを経験し、オートクチュールからプレタポルテまで、デザインの世界を学ぶ。その後、ベルギー、ブリュッセルにてヨーロッパの文化や色使い、パーティー文化を学び、2015年、ベルギーから日本に拠点を移し、パーティースタイリストとしてフリーランスで活動を開始。雑誌撮影や企業イベント、CM等の空間スタイリングを行う傍ら、企業の公式Instagramのディレクションや撮影のトータルプロデュース、パーティースタイリングに関する企業講演、トークイベント等にも登壇。近年ではパーティーグッズ等の商品開発、ディレクションも手がける。著書にparty styling book『フォトジェニックなHAPPY BIRTHDAY』(光文社)。
Instagram : @rohicocco (Official Instagram)
Instagram : @tokyo.flamingo (Archive)
魅力を伝える現代のマーケティング術とは
糀屋:本日はどうぞよろしくお願いします。
久林:よろしくお願いいたします。
糀屋:今回、僕が地域に入り込んで感じた課題から、ぜひ久林さんとお話させてもらえればと思って、この対談が実現しました。
今福岡県宗像市の大島というところで地域創生に取り組んでいます。大島には、豊かな自然、美味しい海産物、美しい景色、魅力が沢山あって、僕らみたいな都市生活者にとっては心動かされる場所。こういった魅力を磨き上げて価値付けすれば、貴重な観光資源になると思っています。
僕が大島で運営している宿泊施設「MINAWA」は一泊で約10万円。地方にしてはかなり高めの料金設定ですが、大島ならではの資源を活かした贅沢な施設なので、相応の価値があると思っています。
けれども、住んでいる方と話すと「それは高すぎる」みたいな反応なんです。魅力的な場所なのに、もったいないですよね。住民の方は、地域の魅力を見過ごしているのではないか……と思っています。
今の時代、SNSでの発信はマーケケティングにおいて非常に重要になっています。地域の方の理解を得ながら魅力を発信するには、どうしたらいいのか。ぜひお伺いしていきたいと思っています。
ソーシャルメディアの現場で感じること
糀屋:久林さんは企業の公式アカウントなどで、インスタグラムのディレクションをされているんですよね。「SNSで発信するメリット」についてどうお考えですか。
久林:はい。メリットはたくさんありますが、幅広い層に認知していただくきっかけとして、SNSは非常に有効だと思います。
例を挙げると、私が担当させていただいている大手企業さんのインスタグラム。若い女性向けにアカウント運用のお手伝いをしています。いつもの週末をより上質に過ごすために、素敵なひとときを過ご゙せるスポットや、おしゃれなレストラン、ホテルなどをご紹介しています。
その企業さんのメインターゲットは年齢的には30代以上の方です。でも、このアカウントのフォロワーの方は若い女性が多いんですね。一見、2つのターゲットには解離があるように思えますが、実はつながっていて。
若い方には企業のブランドを認知していただき、ホテルや施設などを利用していただきます。そこで良いイメージがあれば、歳を重ねても、そのブランドは選択肢の一つになり得るはず、という考え方です。直接的なターゲットでなくとも、幅広い層にアプローチができるのはSNSならではですね。
その時だけでなく、長いスパンでお付き合いできるような関係が構築できるのも良い点です。あとは無料でインサイト(カスタマー情報)が収集できるのも、特に中小企業にとっては大きなメリットです。PDCAを回して、戦略的にアカウント運用ができるのもインスタグラムならではだと感じますね。
撮影も自ら手がける、クリエイティブへのこだわり
糀屋:久林さんのインスタグラムを拝見したのですが、すごく手が込んでいる。写真だけでなく文字や動画などの細かいクリエイティブまで、すべてご自身でディレクションされているんですよね。1投稿を作るのに、どれくらいの時間がかかるんですか?
久林:写真や動画を撮って、加工して、文章を作ってなど自分だけのクリエイティブの時間だけで丸一日。その後に確認に回すので、かなりの時間がかかりますね。
糀屋:撮影もご自身でされているとはすごい。クリエイティブのバランスは、どうやって考えているのでしょうか。
久林:企業のブランドイメージを大切にしつつ、きちんと情報が届けられる。その上で女性がワクワクするような気持ちになる、という点を大切にしています。
比較的若い方がフォロワーに多いので、文字が小さくてもじっくり読んでいただけるので、充実した情報を入れた投稿が人気です。先日すごくインプレッションが高かった投稿も、夜景・動画・文字の入れ方など女性の好きな要素が上手く絡み合って、結果につながりました。
糀屋:また、投稿には文字入れした写真や動画が多く見受けられるのですが……これも戦略でしょうか。
久林:今は文字入れの投稿が強いと言われていて、一般の方でも文字を入れた投稿をするようになってきているんですよね。
でも、ブランド価値を作るという意味では、今のトレンドに流されすぎているとも思います。本当はじっくり、写真で場所の魅力を発信したいというのが、企業さんの想い。
そこで、1枚目は文字入れの投稿をして、2枚目3枚目でじっくり、お写真を見ていただくというような手法をとっています。投稿にもよりますけど、カルーセルは10枚まで入るので、できる限り入れることが多いです。
糀屋:動画に関してはどうでしょうか?
久林:動画のメリットは「擬似体験できる」「空気感を伝えられる」というところだと思います。だから、公式ホームページで見られるような、無駄のない美しい動画は不要なんです。「生(なま)っぽい」動画の方がずっといい。
例えば、フェリー乗り場に到着してから乗船するまでの動きを、早送りで10秒くらいにしたりとか。インスタグラムでしか見れないという、価値づけは大切ですね。
世の中の動きを敏感に読んで発信
糀屋:なるほど。大切ですよね。先日、大島の宿のインスタグラムをリニューアルしたんですが、少しの改善で思った以上に数字が伸びました。もっと工夫したらすごく成果が出るんじゃないかと、マーケティングの可能性を感じましたね。
とはいえ、私たちも手探りで、どんな投稿をしたらいいかわからなくて。どういった投稿が伸びたなど、傾向はありますか?
久林:私も試行錯誤の毎日ですが、投稿を分析して、だんだん傾向が見えてきました。
アカウントと投稿の相性によって、インプレッションが取れるものとそうでないものがあるんですよね。私が運用している企業アカウントは、お出かけ好きなフォロワーの方がメインです。今、コロナで自由に旅行ができない中、いわゆる「映える」だけのフードよりも、「行ってみたい」と思えるような投稿が人気なのではないでしょうか。自分が行ったかのような、擬似体験ができることが肝ですね。
手土産の投稿も、意外と数字が良いです。これは、コロナ禍でお家で過ごすことが多くなったからでしょうか。世の中の状況と投稿に求められるものも、微妙にリンクしていると思います。
糀屋:上手く行かなかった、みたいなこともあるのでしょうか?
久林:ブランディングという側面を大事にしたかったので、世界観を守るためにどこまで文字情報を画像に入れてもいいのか、試行錯誤していいた時期がありました。
例えば、ホテルの部屋の投稿。スイートルームは絵的に映えるので、インプレッションは伸びて当たり前。でも、実際はスタンダードなツインのお部屋の方が、使っていただく可能性が高いですよね。
ツインルームの写真をそのまま投稿しても、思うように数字は伸びません。魅力的に発信するには、どうしたらいいのか悩みました。そこで、画像に文字を入れて情報をリッチにしたり、部屋の中を紹介する動画を組み合わせたりしてみたんですね。そうすると、絵として弱い場合も数字が伸びるようになりました。
糀屋:PDCAサイクルを回していく…さすがですね。投稿を分析するとき、具体的にはどの数値を見ていくのが良いのでしょうか。
久林:基本的には、保存数・いいね!数・コメントを足した数字でインプレッションを計測します。あとは併せてハッシュタグ流入数の確認をしたり。「新規の人に、どのくらい発見してもらえたか」という観点で大事にしていますね。
糀屋:なるほど。インスタグラムの指標として、保存数は大切なのでしょうか。
久林:いいね!はその場限りのフロー情報になってしまいますが、保存すると後で見返すことができるんです。すなわち、来訪や購買にもつながりやすい。そのため、インスタグラムにおいては保存を増やすことが大事にされている傾向にあります。
(取材・構成 西川真友)