見出し画像

Local Craft Market / Online β - TALK イベントレポートvol.2:「ポストコロナ時代、地域編集者の<これから>を考える」

Local Craft Market 運営事務局の高木です。

2020年5月16日、17日の2日間に渡って「Local Craft Market / Online β」が開催されました。「場所を超えて、作り手の想いにふれる、ローカルがつながる」というコンセプトのもとで企画がスタートしたのは、なんと4月30日。わずか20日間足らずの準備期間ではあったものの、計20社以上に出展いただき、300名以上の来場がありました!

こちらのnoteではオンライン・マーケットと並行して行われた4つのトークイベントの模様をひとつずつお届けしていきます。テーマによって、ローカルクラフトにおける登壇者の立ち位置も異なります。つくり手の方、プロデュースにたずさわる方、これからローカルに関わろうとしている方、それぞれの立場でご自身の状況と重ねられる内容が盛りだくさんです。各イベントはアーカイブされていますので、もっと詳しく知りたいという方は、こちらから動画をチェックしてみてくださいね。

ポストコロナ時代、地域編集者の<これから>を考える

いま私たちは新型コロナウイルスの影響をうけて、価値観や生活様式が変わっていく時代の転換点を迎えているのかもしれません。今回のゲスト4名はそれぞれ、堀内康広さんは兵庫、岩井巽さんは青森、新山直広さんは福井、売豆紀拓さんは島根を拠点としながら、その土地ならではの資源を発掘し、届ける地域編集者として活躍されています。

トークセッションVol.2では、いまの変化をどう感じているか、今後の取り組みについて考えていることをお話しいただきました。地域編集者として、これからどのような役割を担っていくのか。暮らしや風土と密接につながっているからこそ一口にくくることはできない、ローカルクラフトのこれからについて考えていくトークセッションとなりました。本レポートでは印象的だったシーンやコメントを抜粋しながら、その模様をお伝えしていきます。

登壇者プロフィール

画像1

堀内 康広(Yasuhiro Horiuchi) トランクデザイン株式会社 代表取締役 / クリエイティブディレクター
2009年に「トランクデザイン」を、神戸垂水・商大筋にオフィス&ショップをオープン。2018年4月には印刷会社である有限会社グラミックプロセスを事業継承し3代目として就任。地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインを幅広く手がけ、2011年には兵庫県のモノづくりを紹介する「Hyogo craft」を立ち上げ、兵庫県の間伐材や地域材を活かしたオリジナルプロダクト「森の器」、播州織の職人とつくるアパレルブランド「iRoDoRi」・「megulu」、淡路島のお香メーカーともに日常で使えるお香ブランド「Ku」「Daily」も手掛ける。2018年台湾のデザインアワード「Golden Pin Design Award」3プロジェクト入賞、1プロジェクト最優秀賞受賞。2019年 GOOD DESIGN AWARD グッドデザイン・ベスト100 / グッドフォーカス賞(中小企業長官賞)を受賞。Local Craft Marketの発起人の一人。

トランクデザイン:https://trunkdesign-web.com/

画像2

岩井 巽(Tatsumi Iwai) 東北スタンダードマーケット ディレクター
1992年宮城県生まれ。東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科在学時、東北発地域創生プロジェクト派遣員に選出され、イタリアのファッションブランド「BRUNELLO CUCINELLI」の職人育成学校に短期留学。同社の手仕事による地域再建に影響を受け、帰国後、山形県で90歳の菅笠職人と商品企画を行う。卒業後に株式会社良品計画を経て、現在は株式会社金入(カネイリ)のディレクター・デザイナーを務める。カネイリでは東北6県の工芸・クラフト・地域食品を扱う「東北スタンダードマーケット」を展開し、職人との商品企画・デザインを担当。「山形ビエンナーレ2018 / 畏敬と工芸」や「Nozomi Paper Factory / 東北の手仕事と福祉」など、手仕事と他の領域を繋げる企画に携わる。2020年4月より、新型コロナウイルスによる東北のものづくり業界への打撃へ立ち向かうべく、オンラインプロジェクト「#tohokuru(トホクル)」を発足。目下、プロジェクトの進行に努めている。

#tohokuru (トホクル):https://tohoku.theshop.jp

画像3

新山 直広(Naohiro Niiyama) TSUGI 代表 / デザインディレクター
1985年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。応用芸術研究所を経て、鯖江市役所在職中の2013年にTSUGIを結成。以降、未来の産地を醸成する様々なプロジェクトを展開し、2015年に法人化。デザイン・ものづくり・地域といった領域を横断しながら、地域や地場産業のブランディングを手がける。RENEWディレクター(2015年〜 / 京都精華大学伝統産業イノベーションセンター特別研究員(2018年〜)

TSUGI :https://tsugilab.com/

画像4

売豆紀 拓(Taku Mezuki) YUTTE ディレクター
1984年島根県松江市生まれ。2009年D&DEPARTMENT入社、webサイト・オンラインストアの運営に携わる。その後都内のweb制作会社にてディレクターとして勤務。2014年に島根へ帰郷し、山陰の工芸と食を組み合わせたギフトサービス「YUTTE」をスタート。ストア運営と並行して地元の作り手や企業のデザインディレクション・ブランド構築も手がける。2015年より出雲民藝協会理事に就任。出雲民藝館の事業運営に携わっている。

YUTTE:https://yutte.com/

画像5

澤田 哲也(Tetsuya Sawada) ミテモ株式会社 代表取締役
採用コンサルティング会社を経て、2007年社会人教育・研修を手がける株式会社インソースに入社。5年間で述べ300社の民間企業に対して、次期経営人材育成や組織変革をテーマに人材育成プログラムの企画・設計に携わる。また、新規事業開発にも取り組み、2012年にミテモ株式会社の事業開発を担当、同年 代表取締役に就任。オンライン教育サービスやデザイン思考をベースとした新規事業・商品開発プログラムをはじめとした多種多様な育成支援事業を立ち上げる。また、2016年から全国各地の地方自治体との連携による事業創出・商品開発・販路開拓・デザインイノベーションのための教育事業に取り組む。2018年にはJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL設立。日本の地場産業や伝統工芸にデザイン・クリエイティブを取り入れ、商品開発・販路開拓を手がけるプロデューサー育成に取り組む。

ミテモ株式会社:https://www.mitemo.co.jp/

ポストコロナ時代、これから地域・産地はどうなる? 

まず、ファシリテーターの澤田哲也さんから一つのテーマを提示いただき、トークセッションがスタートしました。Vol.1のトークセッションでも登壇いただいた、トランクデザイン株式会社の堀内さんからは、編集者として向き合うべき一つの問いとして、「オンラインとリアルの中間点をどう探っていくか」という言葉が投げかけられました。

移動が制限されるようになり、市場や展示会といったリアルの場・コミュニケーションを前提においた届ける手段、環境は窮地に立たされています。また、準備や移動の観点でコストがかさみ、多くの廃棄物が出るような従来のやり方は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指している現代において根本的な見直しが求められているといえます。

かといって、ECサイトのようなオンラインのチャネルを設けるだけでは想いや熱量も届けきれず、届けたいひとに理想の形で伝わるかというと、まだまだ不十分です。リアルでやっていたことを、単にデジタルに置き換えるという以上の、つくり手と買い手の新しい出会いの場、出会い方をつくっていく必要があるでしょう。Local Craft Marketの発起人でもあり、5月にHyogo craftのメディアECを立ち上げるなど、常に届け方を模索している堀内さんの想いが感じられる一言でした。

画像6

いまはチャレンジを。これからに備えてできることとは?

福井県を拠点にしながら「創造的な産地づくり」をキーワードに、地域のものづくりに向き合っている新山さん。ここ数ヶ月で仕事のやり方についても考えるようになったとはなします。

失敗してもいいから時間をかけずに形にする、というスタンスに軸足を置こうとしていたり、いままでは依頼されてその会社のデザインをするっていう感じだったんだけど、ぼくらが企画をしてその会社にお願いするような逆のやり方が増えていくかもしれなくて、そのために、メディアとして情報も自分たちで発信できて、販売のチャネルにもなるような場の準備をしていく必要があるなと感じてます」

クライアントワークではなく、自分たち発信のオリジナルワークの比率を増やしてみる。だれかのつくった場に依存するのではなく、届けるための場を自分たちでつくってみる。不確実な未来に向けて、自らの手でコントロールできるもの、できないものの見極めをする。その上で、コントロールできるものを増やしていくための取り組みを進める。この機会に今の状況を俯瞰的にとらえて見直し、歩みを進めていけるかどうかが大きな分かれ道となりそうです。

スクリーンショット 2020-06-15 15.13.26

地域に根ざしたものづくりの価値や可能性

セッションの後半では、長いスパンで考えたときにどんな変化が起きていくと思うか、その変化にこめた期待や願いについてお話しいただきました。
大局的な流れへの見解については皆さんに共通点はありながらも、民藝的な流れを強く汲む島根と、時代に合わせて変化しつづける福井の違いなど、地域によって捉え方が変わってくる点は非常に興味深いです。

<これから起きるであろう変化、感じている変化の気配>

売豆紀さん:近場や地元で手に入る質感のいいものを探すひとが増えてくる」

新山さん:「日常生活で必要なものに産地の技術が入り込んでいけるのでは、という期待を感じる」

堀内さん:民藝や手しごとの商品はつくり手発信といえる。お客さんが求めているからというよりも、つくり手の想いに共感して使い手が集まってくる。逆に工業は使い手発信のマーケットイン型。この2つのものづくりが近づいていくのかもしれない

岩井さん:「自宅のものにお金をかけて、居心地を良くしていこうという流れも生まれると考えると、長期的に見ればものづくり業界にとってはプラスにはたらくのかもしれない」

<地域ごとのものづくりのあり方、これからの願い>

堀内さん:「ものづくりのイノベーションというよりは、昔ながらのやり方は続けて、売り方・伝え方に関しては、最新のものを取り入れるという意味で意識を変えていってほしい。地元のものを地元のひとが知る、使う。それが日本中に広がり、世界へ伝わるというステップを踏めたら。社会的に意味があり、地域の素材を使って、地域のひとがつくり、地域のひとが使う、という身近な範囲で成立する経済圏も素敵だと思う

売豆紀さん:「島根のひとたちは地元のものを買ってつかい、継いでいくという意識は元々ある。取り扱うものの特性によってもデジタルに合う、合わないがあるはず。均質的なものは相性がいい。どういった方法で届けるかということ自体にも産地の特色が表れると思う。その方法自体を意志をもって選択できるようになったらいい

新山さん:「産地集約型の鯖江でいうと農閑期に現金収入をいかにつくるか、ということがものづくりに取り組んだ原点としてある。時代に合わせたものづくりを続けてきた鯖江は、カメレオンのようにどう変化していくかがキーワードになる

岩井さん:「東北には民藝的な思想がある一方で、逆に震災以降に生まれた近代の産業的な部分もあり、ベンチャー的な精神とむかしながらの精神が共存する地域だといえる。その中で、昔ながらの手仕事にフォーカスを当てて考えると、伝統工芸はもとを正すとリメイクするための家庭での裁縫の延長だったりするので、伝統工芸のやり方を発信する、ノウハウの共有自体も価値が出てくるかもしれない

画像8

まとめ「これからの100年のスタンダードを考えることから始める」

プロダクトと生活様式の均質化が進んだこの100年間。効率性を求めた末の暮らしは最大公約数的なものに過ぎず、生き方の個性を捨てることになったのかもしれません。

画像9

今回の自粛期間では多くの人々が日々の過ごし方、ソフト面を見直すきっかけになったはず。考え、立ち止まっている今こそ、この100年間で当たり前になった、ハードとソフトの間に生じている違和感を解消していくチャンスです。

これから地域編集者として期待される役割は、地域の資源を見つめ直しながら次の100年をどう編集していくのか、これからの100年のスタンダードを考え、つくっていくことなのかもしれません。

スクリーンショット 2020-06-02 12.38.45

*****
4つのトークイベントについては、順次レポートを更新していきます。残りの2つのセッションもお楽しみに!

現在、6月27日、28日に開催される第2回Local Craft Marketに出展いただける方も絶賛募集中です。

想いを込めたものづくりに取り組む皆さまが全国の生活者へと物語を伝える場として。地域やジャンルを超えて皆さま同士がつながる場として。この場をご活用いただければ嬉しいです。

地域を超えて、全国のものづくりがともに盛り上がることを願って。
皆さまのご参加をお待ちしています。


文章:高木 孝太郎
編集:柳瀨 武彦
写真提供:TRUNK DESIGN東北スタンダードマーケットTSUGIYUTTE

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?