「官報射撃」役所が国民に迷惑をかけ続けていたこと
こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。
本日は、この度国会で審議されることになった「官報の発行に関する法律案」と「官報の発行に関する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案」について考えてみたいと思います(本稿で対象とするものは2023年第212臨時国会で法案が提出されたものです)。この記事では、今まで慣習とされていた『官報』発行の根拠法ができるという大きな法的事件と、それと同時に官報の正本がデジタル化されるという2つの点から私見を述べていきたいと思います。
はじめに
官報と言えば、五箇条の御誓文とすぐ思い浮かぶほど、私たちにとって身近なものです。五箇条の御誓文が出されたのは、大政奉還の行われた(慶応三年)翌年、明治元年(1868年)三月のことでした。
御誓文はのちの自由民権運動の大義ともなる「広く会議を興し万機公論に決すべし」で始まる、天皇・公卿・全国の諸大名が神明に誓う形式で表明した新しい「国是」とされており、明治天皇が日本神話の天神地祇に誓約する形式で、公卿や諸侯などに示した明治政府の基本方針と言われています。
まあすべてWikiからの孫引きですが(笑)
この『御誓文』が全国に広められたのは『太政官日誌』という官報の前身の発行物でした。政府の広報はこのように印刷物として発行され、全国に広められるようになっています。現在わが国では、官報に掲載されて初めて法的な効力が発生することになっています。ちなみに「日本国憲法」は昭和21年11月3日の「官報号外」として公布されています。
この度審議されることになった法律の主体である『官報』は国の機関誌としての位置づけをもっており、さまざまな手続きでも利用される大変重要なものです。大抵の市の中央図書館では購入をしているはずですので、お近くの図書館で実物をご覧いただけるでしょう。
「官報ってなに?」という方はまず国立印刷局のページで一通りお読みいただくことをお勧めいたします。その下のNHKの記事は今回の法案についても触れられていますのでぜひご一読ください。
このNHKの記事でも官報の正本デジタル化について、
と言っている通り、官報の印刷発行配布業務は以前から高コスト体質でした。こちらは一昨年前の国立印刷局のポストです。
この史上最大のページ数に対し、官報に関わる業種の人々から悲鳴が上がりました。1セット125冊の『官報』に ”艦砲射撃ならぬ官報射撃” と。
これは『地域的な包括的経済連携協定』と言うたった一つの条約が膨大な文書量でこうなったようです。誤字や落丁をチェックするだけでも大変、運ぶのも大変、保管するのも大変。役所が国民に多大な負担を強いていることがうかがい知れます。(当ブログの読者なら「またかよ」という感じでしょうが…)
しかもこの官報、とても読みにくい。(インターネット版官報HPはこちら
→★)
1ページ内に縦書きと横書きが混在していて(数行おきに縦横縦横となっているものも…)私など、パッと見ただけで読む気が失せます。
お題目の「国民と政府をつなぐ官報」とは言い難い…(^_^;)
せっかく立法までするならこれも改善した方が良くないですか?
法律の主旨
さてここからは、この度審議されることになった「官報の発行に関する法律案(官報法)」と「官報の発行に関する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案(官報整備法)」の制定に至った主旨について見ていきましょう。
官報法の「理由」書によりますと、本法案を作成する理由は「官報の発行主体、官報に掲載すべき事項、官報の発行の方法その他官報の発行に関し必要な事項を定める必要がある」からと書かれています。そして官報整備法においては「官報の発行に関する法律の施行に伴い、独立行政法人国立印刷局法について独立行政法人国立印刷局の目的及び業務の範囲の見直しを行う等関係法律の規定の整備を行う必要がある」とされています。
五箇条の御誓文は、国の進むべき道を文字にして国民に知らしめた点に意義がありますね。同じように法律は文字にして様々なルールを定めて公開されます。法律として作った以上、みんなが知ることができる状態になっていないといけないのですね。それとともに罰則なども決められており、それ以上の罰を受けない、ということも保証されるということになります。
しかし、国の仕事がすべて法律で決められているわけでもありません。中にはこの『官報』のように、明確に法律として決められていなくても慣習(法律がなくなったが、そのまま継続する場合もある)として行政のなかに組み込まれていることもあります。しかし行政のDX化を進めるに際し出版物とデジタルデータと両方が存在することになる場合、手続き上の問題として法文化しなくてはならなくなってきたということで、今回の法整備となったのです。これは次の章でも述べます。
日本国憲法が制定された際、官報の根拠法が無くなってしまい現在の官報の発行は「慣行」として印刷局が行っているとのこと。そのため、最高裁の判例に従い法令の発布方法と時期の認定が「官報の発行日」と解釈できるということになっているそうです。また、紙によって発行されたものが「原本(正本)」であるというのも、参議院での法務省局長答弁によっているということです。これらに後付けとして「内閣府設置法(平成11年)」「国立印刷局法(平成14年)」内に内閣の所掌事務であることなどが記載されることとなりました。
〇第1回官報電子化検討会議 資料より
これには実は裏話がありまして、「昭和30(あ)871覚せい剤取締法違反事件(昭和33年10月15日最高裁判所大法廷)」というものです。広島市で起きた覚醒剤取締法違反事件で官報の発行(改正法律の公布日)が争われた事件です。興味がある方は次のニュース記事などをお読みください。この事件の判決をもとに官報の発行日が法令の交付時期との解釈がされることになりました。
官報の電子化により規制緩和が進む・・・かも
本法律で定められている具体的な内容について確認していきましょう。
まず第二条において「官報の発行は、この法律の定めるところにより、内閣総理大臣が行う。」とされ、内閣総理大臣が行う事項として記載されています(内閣設置法を継承)。憲法では法律の制定は国会が、その交付は天皇陛下が行うこととなっていますね。その交付の手段として、内閣総理大臣が官報を発行することで国民に広めるということになるのでしょうか。
また、詳細は略しますが、憲法改正、法令、条約など、官報の掲載事項を「電磁的記録を~(略)~ファイルに記録しなければならない」としてそれを「電気通信回線に接続して行う自動公衆送信を利用して公衆が閲覧することができる状態に置く」とされ、インターネットに公表することを定めています。このことは、官報法が制定当初からインターネットによる公開を前提として規定する法律として大変珍しい法律であるとも見ることができます。
〇『官報電子化検討会議第一回議事要旨』(令和5年3月14日)p.4
現行法のうち300に上る法令において何らかの公告を官報によって行うとされているそうです。今後はその公告が紙媒体の官報ではなく、デジタル情報としての公告ということになります。「デジタル臨時行政調査会」がアナログ規制の一括見直しをしている中にすでに官報のデジタル化は組み込まれていました。これらは特に経済界から要望があった事項を中心に検討されてきた模様です。そして、商業登記などにおいて、紙製の官報を購入して書類添付する必要があるなどアナログ規制の一つでもありましたが、これもデジタル化されることになります。
〇デジタル庁『デジタル臨時行政調査会作業部会(第8回)資料1』(令和4年4月20日)
このようなインターネットによる公開を前提とした行政改革は、今後さまざまな分野で進んで行くでしょう。例えば、すでに行われていますが、特許公報などはインターネットにより検索可能であり、非常に便利な仕組みであると思います。官報の情報は公文書としての裏付けともなる効力を持っています。官報が電子化され、それが情報として公的な性格を持つとなると、より効果的に利用できる分野が広がると思われます。
最終的なとりまとめである『官報電子化の基本的考え方(案)~官報電子化検討会議取りまとめ~』によると、官報電子化について次のように「デジタルをいかした業務効率化・利便性向上」につながる取組としています。
デジタル化による行政費用の削減は数値目標とすべき
デジタル化が進んで利便性が高まることは想像できますが、本当にそのようにうまくいくのでしょうか? 特に、インフラ整備など考えると、費用対効果という点で手放しで喜ぶことができるのでしょうか。結局は従来のお役所仕事をそのままデジタル化するだけで、無駄がはびこったり、天下り先を確保しただけ、という結果にならないことを監視しなくてはなりません。
官報の現状については、次のニュース記事によると、1日当たりの予算が3,178万円かかっていると計算されています。人件費部分を計算すると1,150万円かかるとのこと。デジタル化により、この予算をどれだけ削減できるかということも今後の行政評価のポイントとなってくると思われます。
また、神田氏の別の記事ではデジタル官報から新たな事業を作り上げられる可能性も記述されており、非常に参考になることを付言しておきます。
このようなことが実現できるためには、やはり規制緩和が重要であることは間違いないでしょう。デジタル化を進めることも良いですが、このような新しい時代に向けた施策を行うならば、より発展できるようになるべく規制を排除していくことも必要であると思います。例えば印刷局だけが囲い込むようなことなく、民間にも開放し、国と民間が競争できるような規制改革が必要ではないでしょうか。
私達はやはり、ここでもこう叫びたい。
「税金下げろ、規制をなくせ!」
浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)
【質問1】民間の運営する官報検索サイトについて
この度、官報法とその整備に関する法律が上程されたことは国民としても非常に喜ばしいことであると考えております。つまり、官報の情報というものは、官公庁や法曹界だけでなく、民間においても貴重な情報源となっているからです。その際、非常に使い勝手が悪かったのが、官報の検索性です。すでに各種法学部を要する大学、あるいは民間出版社において、紙媒体の官報を含めた検索サービスが提供されています。これらは有償、無償とさまざまな形態でサービスを行っています。そのような中で国として官報のデジタルデータ化が行われることはデータの正確性として大変貴重なものであると考えます。しかし、あまりにも開始することに時間がかかったという点が残念な事であります。とはいえ、その間、個人が運営する「官報検索!(https://kanpoo.jp/)」というインターネット検索サービスを提供している方なども登場しました。このような方の努力に対する敬意を表したいと思っております。
さて、質問ですが、すでにあるこのような官報検索サイトについて今後、なんらかの規制がかかることが無いよう希望いたしますが、国としての見解を伺います。
【質問2】 さて官報の書式についてご確認させていただきます。官報をみてみますと、基本的には縦書きとなっております。そして、その縦書きの中に90度回転した形で横書きの文章が掲載されるということもよく見うけられます。現在の行政文書の多くは基本的に横書きを主としているわけですから、現在の官報の縦書きの書式自体の改正が必要ではないかと考えます。
文化庁文化審議会国語分科会などにおいて「公用文作成の考え方」(令和3年12月22日)についての建議がなされているところです。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/kokugo/kokugo_79/pdf/93639901_01.pdf
これによりますと、「Ⅰ 表記の原則 「現代仮名遣い」(昭和 61 年内閣告示第1号)による漢字平仮名交じり文を基本とし、特別な場合を除いて左横書きする。」とされています。今後、官報の情報を記載するにあたって、このような左横書きにするお考えはございませんか。
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