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【事実上の官民ファンド】国際協力銀行の闇

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。
私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。

本日は、この度国会で審議されることになった「株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律案」いわゆるJBIC法改正案について考えてみたいと思います。
(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)

国家予算【財政投融資】とは

今回は、国家予算の中の、一般会計でもなく特別会計でもない、国民の多くがその使途が良く分からないまま支出されている「財政投融資」資金に関わる話です。
皆さんは、現在の国家予算の規模はご存知ですか? 令和5年度一般会計予算の概算要求102.6兆円(国債費24.3兆円)に対して114.4兆円(国債費25.3兆円)が成立しています。
実は、これだけで国の財政が成り立ってはいないことをご存知でしょうか?
「えっ、予算ってこれだけじゃないの?」と思っている方、実は国の予算はもっとあるんですよ。特別会計というものがあり、その額441.9兆円! 一般会計の4倍もあるんですね。国債の借り換え等を除いた実際の執行規模は197.3兆円ですが、一般会計114.4兆円と合わせると311.6兆円になります。この他さらに財政投融資資金という存在があります。こちらの計画額というものが毎年設定されますが、令和5年度は16.3兆円となり、先の311.6兆円と合わせて合計328兆円の予算規模で我が国は運営されていると考えてよいのでしょう。

さて、今回の法改正は「国際協力銀行法」です。国際協力銀行については後ほど説明しますが、法律に基づいて作られた銀行で、令和5年度は財政投融資資金から約2兆円の原資を得て業務を行うことになります。また、財政制度審議会令により「財政投融資分科会」の設置が定められており「財政投融資制度、財政投融資計画及び財政融資資金に関する重要事項を調査審議する」とあります。このため、財政投融資資金を原資とする国際協力銀行はその事業について財政投融資分科会の審議を経ることになるのですね。

財政投融資分科会のメンバーは財務副大臣、財務官僚のほか、翁百合氏(日本総合研究所理事長)ほか主に財政学者、経済評論家、新聞社の部長が臨時委員として出席しています。令和4年10月14日の財政投融資分科会において令和5年度の計画について国際協力銀行の資料に基づいて説明がありました。
その資料にこれまでの支援の例と、今後新たな支援策が掲載されています。

株式会社国際協力銀行 説明資料 財政制度等審議会財政投融資分科会

新たな支援の例
1.慶応大学発のバイオベンチャーSpiber社による、米国での人口構造タンパク質製造事業への支援。
2.エジプトを中心としてアフリカ、中東地域における洗浄、消毒剤等の製造、販売事業を行うサラヤ株式会社の事業を支援
3.京都大学発核融合研究開発事業を実施する英国子会社KF社の英国での事業を支援。KF社は英国での公的核融合エネルギー事業へのサプライヤとしての位置づけ。
4.第一稀元素化学工業のベトナムでのジルコニウム化合物製造、販売事業を支援。
工業用触媒、電子材料、燃料電池用固体電解質などの原料となる化合物の安定供給を促進する。

このような事業を行っていくとして、国際協力銀行は予算の拡充を求めています。そして

●⽇本の対外直接投資残⾼は、増加傾向にあり、⽇本企業は積極的に海外展開を推進。またクロスボーダーM&Aについても⾜元コロナ禍で伸び悩んでいるが、⽇本企業は積極的に取り組んでいる。このような⽇本企業のM&Aを含む海外展開に対してJBICの適切な⽀援が必要。

●また、公的⾦融機関のプロジェクトファイナンス取扱額を⾒ると、欧⽶や中国の公的機関が積極的に⽀援を展開している中、他国との競合の観点からも、JBICによる積極的な海外展開⽀援が必要な状況。

として、計画の拡大の必要性について財政投融資分科会へ自己の存在を強くアピールしています。
なお、同資料で記載されていることから、令和5年度の財政投融資への要求額をここで掲載しておきます。この数値がほぼ予算書に盛り込まれています。

株式会社国際協力銀行とは何か

さて、ここで改めて国際協力銀行について説明しますが、Japan Bank for International Cooperation の略で「JBIC」(ジェイビック)とも言われます。
日本政府(財務省)100%出資の政府系金融機関の一つで、株式会社国際協力銀行法という法律に基づき、民間の金融機関が行う金融のサポートを旨とし、日本の対外経済政策・エネルギー安全保障政策を担うため、海外資源の開発促進や、日本企業の海外における競争力向上に必要な融資等をしています。

株式会社国際協力銀行の始まりは、前身である日本輸出銀行です。1950年に当時の大蔵大臣・池田勇人により設立されました。その後、日本輸出入銀行と改称され、1999年に日本輸出入銀行と海外経済協力基金とが統合し、国際協力銀行が発足します。
その後小泉内閣による「官から民へ」の特殊法人改革、政策金融改革により2008年には、国際協力銀行の国際金融部門が株式会社日本政策金融公庫、海外経済協力部門は独立行政法人国際協力機構、にそれぞれ統合されました。一旦は大胆な業務の見直しにより事業規模の縮減を余儀なくされました。しかしその後に起きたリーマン・ショックによる国際金融市場の混乱に対処し日本企業の輸出及び海外事業を支援するという財務省のお題目のもと、再び2012年に日本政策金融公庫より分離・独立し、株式会社国際協力銀行となりました。

その後「官から民へ」もすっかり「民から官へ」戻ったようで、それまで国際協力銀行の総裁は生え抜きの前田氏だったのが、昨年の6月には元財務官僚の林氏が就任しています。
こちらが国際協力銀行(以下、JBIC)のホームページです。

国際協力銀行法(JBIC法)改正案とは

それでは今回の法改正案の目的を見ていきましょう。以下、引用です。

法律案の概要
【1】日本の産業の国際競争力の維持・向上に資するサプライチェーンの強靱じん化 ・ 日本企業のサプライチェーンや産業基盤を支える外国企業を融資対象に追加。
  ・ 日本企業が物資を海外で引き取る場合も輸入金融の対象に追加。
  ・ 日本企業のサプライチェーン強靱じん化に係る海外事業資金を国内大企業経由の融資対象に追加。
【2】デジタル・グリーンなどの成長分野を見据えた、スタートアップ企業を含む日本企業の更なるリスクテイクの後押し
  ・ 海外事業を行う国内のスタートアップ企業や中堅・中小企業への出資
  ・社債取得等を業務に追加。
  ・ 特別業務勘定の対象分野を拡大し、資源開発、新技術・ビジネスモデルの事業化、スタートアップ企業への出資等を対象に追加。
【3】国際協調によるウクライナ復興支援への参画
  ・ 国際金融機関によるウクライナ向け融資をJBICが保証できるよう、保証の対象に国際金融機関を追加。

財務省 「株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律案」について

要約すると、
【1】日本企業のサプライチェーン(供給網)や産業基盤の強じん化を図るため同銀行の機能拡張をする。
【2】スタートアップや中小企業の海外進出を後押しする。
【3】世銀によるウクライナ融資の実質保証。
の3点に集約されます。

このブログを書いている時点ですでに衆議院での採決が終わっているため、【3】ウクライナ復興支援については詳細は述べませんが、特別業務勘定とされていることから「償還確実性の原則を免除」されているため、かつて同銀行がミャンマーに対して行った事業と同様、この融資は紙切れに終わる可能性が高いように思います。

【1】【2】については、その前の段落で紹介したような、国際協力銀行の新たな支援事業ができるよう条文が改正されています。特に、スタートアップに対する事業は「先進国事業」、中小企業の海外進出を後押しする事業を「開発途上地域事業」として位置付けているようです。従来の分野別融資実績と今後の分野別想定の円グラフを確認してみると、かなり昨年までと比べて変化があるのが分かりますね。

上記の改正に伴い、どれくらいの資金規模かということを確認してみました。財政投融資計画要求の国際協力銀行分予算として令和4年度は1兆6060億円だったものが、令和5年度として2兆220億円と4160億円もの大きな増額となっています。

令和5年度財政投融資計画要求の概要 資料1

国際協力銀行、名前はあまり知られていないと思うのですが、結構その予算規模は大きいと思いませんか?しかし事業内容については国際協力銀行(=財務省)に一任されている印象を受けます。株式会社だからでしょうか?ですがなんとなく腑に落ちないのが、100%株主は財務省だということです。

財政投融資分科会における議論を読むと、クールジャパン機構等の失敗した官民ファンドと同様になるのではと危惧する発言が委員たちの間で何度も出てくるのです。しかし財務官僚にうまく議論をかわされている印象です。委員の一人は「ストレートにお答えいただけないようなので、財投当局にしっかりと見ていただこうと思います。」と言って質問を終えるしかありませんでした。この議事録は結構面白いのでおすすめです。笑

財務省は国民の代表ではないけれど国民のために働く人たちです。官僚も国民に対して、国民の前に姿を現し、国民の代表である国会議員に対し説明と質疑が必要なのではないか?そんなことを思ってしまうほど、巨額の血税の運用が責任の所在がないまま水面下で決められてしまっています。

おせっかいな国際協力銀行

国際協力銀行は海外において日本企業が行う事業をサポートすることがメインの仕事となります。言ってみれば、日本政府の出先機関としての銀行業務。ここでふと疑問が生じます。日本のメガバンクはどうしたんでしょう?なぜ国際協力銀行が合成タンパク質の向上を造るのに出資するのか?民間の銀行にはもうそれだけの体力が残っていないのでしょうか?

また、国際協力銀行は中小企業の海外進出への支援が主たる事業でもあるのですが、その際、直接投資するということではなく、地方銀行からの融資を保証する立ち位置となります。つまり、地方銀行が国庫をバックにして、海外進出企業への資金供給ができるという構造で、中小企業が海外進出できるということになっているのですね。

こちらは地銀とJBICの協調融資のスキーム図です。

海外における資金調達サポート

この構図もよくある政府の無駄遣いパターンを想起させます。当初は地方銀行に海外融資のノウハウや人材が少ないため、中小企業が海外進出をする際に国としての保証が必要だったかもしれません。しかし、それが落ち着いてしまうと「制度があるから使ってください」というように形骸化してしまうことです。

近年、地方銀行の経営が危うくなり、多くの地銀、第2地銀と言われる小型銀行が倒産の危機にあるとされています。これらがなぜ倒産しないのか?
まさにこう言った政府による支援構造があるからではないでしょうか。低金利、バラマキ融資でぬるま湯体質の地方銀行は、自らリスクを取ってスタートアップ、ベンチャー企業などに融資せず、国からの支援に頼る体質になっている。それに対して財務省も、先日起きたアメリカの地銀破綻のように、取り付け騒ぎなど起きては困ると思い、地銀に対して過剰な保護を行っているように思えるのです。

地方の再生は実は、地方銀行の再生でもあると常に考えています。地方毎に特色のある経済があり、生活様式があるのだから、そこに金融という立場で地域を支援するのが地場の銀行ではないかと思います。それが政府に依存するぬるま湯体質であっては、地域経済全体が腐った溜池のようになってしまうのではないかと悲しい気持ちになります。

これまで官民ファンドで失敗した事例はいくつもあります。半導体、ジェット機…国として支援しながら、新規産業が育たないのはなぜでしょう?わたしは事業者のコントロールに国が介入しすぎるからではないのかと思います。今回のように国際協力銀行が特定の事業者に対して行っている支援だけではなく、クールジャパン機構などの官民ファンドに財政投融資資金がいまだに使われているのです。国の産業育成の支援が果たしてどんな結果をもたらしているのか、今後私たちは監視していかないといけません。

振り返ってみると、国営鉄道が必要な時代は国が鉄道を作ることは必要であったかもしれない。でも、今ではその国鉄も解体され民間企業となりました。その時代に、国際協力銀行が、民間銀行の入るべき市場に融資を行うとすれば、メガバンクをはじめ、地方銀行までもが成長産業を育成する機会を失うことになるのではないでしょうか。

番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)

【1】財政投融資の中に、同様の海外事業投資であるクールジャパン機構がありますが既に赤字で身動きが取れない状態かと思われます。JBICの融資先の事業も同様の結果になった場合の対策についてどのように講じているかお聞かせください。
【2】サラヤ(株)のエジプトでの事業支援を検討中とのことですが、どのような経緯で支援に至ることになったのかをお聞かせください。このような事業が失敗した場合の対処方法についてをお聞かせください。
【3】地銀が融資をするにあたって、JBICの保証の審査基準はどのようなものであるのかをお聞かせください。
【4】地銀の融資が失敗したときに、JBICはどのように対処することになっているのかをお聞かせください。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。