【DBS法】ロリコンデータベースで拡大する監視社会と暗躍するNPO
■はじめに
実はこの法案、みなさんにとって身近なものになる可能性があります。身近というとちょっと違うかもしれません。みなさんの許可なく犯罪歴が調べられることになるのです。
本noteではこの度国会で審議されることになった「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案」(日本版DBS法案:以下「本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2024年第213通常国会で法案が審議されている法律案(閣法・こども家庭庁)です。
本noteでは昨年通常国会において「【どうか私を晒さないで】性的姿態撮影罪とは」(2023.4.25)という記事を書きました。「盗撮罪」という罪名になるのですが、こちらの罪は「勝手に恥ずかしい写真を撮影しないで」ということもあるのですが「私の性的な姿を撮影する権利は私にある」という内心の自由(人権)にも関連する罪であるということが調査で分かりました。
例えば近年「LGBT」という活動が盛んになってきていますがこの活動の意義も「自分が性別を自覚する自由」と「性的指向を持つ自由」という考えが基になっています。つまり、好きになる対象の性が「自分が男だから女を好きになる」以外の多様性があり、それも人権(内心の自由)であるという考え方です。
しかし本法案については犯罪者に関する問題ですので自由権とは若干話が違います。本noteではまた「【利権を貪る偽善者たち】LGBT理解増進法案」 (2023.5.10)も書きました。この中で次の引用をご紹介しています。
当noteでは本法案については感情的で捉える問題と頭で理解する理論的、法的な問題点があり非常に難しいと考えています。しかし、法律だけのことを考えた場合、新たな規制法であり、問題の多いこども家庭庁の権益拡大につながるという点から本法案については反対です。
■性犯罪について
実は大きな疑問なのですが「なぜ、子どもへの性犯罪は他の犯罪と違うのか」という感覚があります。みなさんも調べていただくと分かるのですが、本法案の取り扱う教育現場における性犯罪になるとよく次のような言葉が使われます。
上記取り組み事例集の冒頭に「性犯罪は非常に暗数の多い犯罪だが、令和3年度時点でも公立学校教職員による性犯罪・性暴力等に係る懲戒処分等の状況は未だ200件を上回っている」(暗数とは把握できない数ということ)とされています。
「200件という数は多いが実際にはこれ以上の性犯罪が教育現場で起こっている」という意味だと思います。これは教職員に対する蔑視とも捉えられかねない表現ではないでしょうか。確かに教員は新卒後すぐに教員になる人が多く、社会的な訓練を受けずに長期間特異な環境で仕事を続けているため「学校の常識は世間の非常識」などと言われることもあります。
しかし、刑法犯罪に関する取扱い(死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とする)は学校現場だとか会社だとか区別は必要ない従属的なものと考えた方が良いのではないでしょうか(犯罪機会論などの論文上の話は別として)。また、犯罪は犯しても、裁判に基づいて刑罰が終了すれば基本的には一区切りだと思うのです。
日弁連は裁判員裁判における一般の裁判員に向け、刑罰には次のように3つの目的があると説明しています。
法務省においては、特に性犯罪に目を向けて再犯の状況などをみても性犯罪の再犯率はそれほど高いものとは考えられていません。むしろ、刑事施設等で行われる更生プログラムが効果を上げていると考えています。
■本法案の経緯
2021年に成立した法律とは「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(令和三年法律第五十七号)」です。次のような参議院附則で次の検討事項が示されています。それが本法案の提出につながっています。
この附帯決議が出た理由として、法案の作成が進行しているさなかに相次いで学習塾生徒への盗撮事件が起きてしまったのです。
〇読売新聞「9歳女児のスカート内盗撮、元塾講師を逮捕…他の児童が保護者に相談して発覚」(2023.5.11)
〇NHK首都圏ナビ「学習塾で子どもの性被害相次ぐ 現場はどう対策?」(2023.9.12)
教職員性暴力防止法制定と、その後のこれらの事件を基に日本版DBS法の検討が進みます。
例えば、フローレンスという団体があり、性犯罪者を働かせないような提案をしているようですが、この提案は国の制度としては誤っていると思います。
世論がすぐになびきそうな感情論に訴えるフローレンスはこども家庭庁の政策論議のまさに中心に位置する団体です。このような団体に牛耳られているような法案は絶対に通すべきではないと思います。
では、今回提出された本法案はどのようなものになっているのでしょうか。次の段落で見ていきたいと思います。
■本法案について
実はこの法案はみなさんにとっても身近なものになるのです。身近というとちょっと違うかもしれません。みなさんの許可なく犯罪歴が調べられることになるのです。大学生も含め塾や家庭教師などでバイトする方々はご自分の犯罪歴を調査されます。大手塾、家庭教師の会社なら事前に全従業員に対し連絡はすると思いますが、ほぼ認定事業者を目指すはずですので、在職者の性犯罪歴を調査すると思われます。
本法案の俗称で使われる日本版DBS法の「DBS」とはDisclosure and Barring Service(=前歴開示および前歴者就業制限制度)という意味です。そして、前歴開示対象が児童生徒(認定を受ける塾や教室なども含まれる)を対象に働く人という広い範囲に及びます。そのため犯罪歴調査の対象者数がかなり大規模になることが予想されます。
なお、本法案は個別法の新規制定ですが「学校教育法第12条の2」「児童福祉法第12条丸7」「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第6条」が新設追加されますので、学校教育法他も併せて改正されます。(他「厚生労働省設置法第18条」の所掌事務の一部の異動、こども家庭庁の所掌事務(第4条12に本法案の所掌が追加)で若干の異動がある)
では、本法案『要綱』によって法の概略を見ていきましょう。
本法案の一番大切な事は「特定性犯罪事実該当者」を雇ってはいけないという法律ではないということです。まずは全従業員(子供と関わる職)に対して「犯罪事実確認」を行う義務があります。学校は施行後3年以内、認定事業者は1年以内に調査を終えなければなりません。
本法案では犯罪歴が確認されたとしても、雇用してはならないということは書かれていません。あくまでも内閣府令で定められた措置を実施する義務が事業者等に求められています。内閣府令の詳細はまだ公表されていませんが「こどもの安全を確保するための責務を果たす」べき事柄と言われています。
一概に性犯罪の前歴があったからと言って、完全に職場から排除する法令は認められないはずですので、フローレンスの提案する「性犯罪者たちを立ち入らせない」という方針は過激すぎます。世論の感情に訴えて市民からの指示を得ようとするポピュリズムの典型でしょう。
さて、本法案は子供関連の事業を行う企業からすると大きな問題となります。本法案の中心的な課題となるでしょう。
もし、性犯罪歴がある人が職場にいるとしても、その後犯罪を犯していなければ問題はありません。ですから、企業としては職場を変更する対応が重要になってくるのではないでしょうか。
実は、四谷大塚事件の公判ではむしろ、犯人自身も犯罪を犯す可能性を自覚しており、犯罪を起こしにくい職場への異動を考えていたと言います。
学校教職員に関する犯罪歴のデータ登録期間は40年とされているそうです。
しかし、一方で犯罪歴を保存する期間は最長で10年とされているそうです。
法的な側面では 更生者の権利は保護されるべきであり、刑罰の終了は過去の犯罪歴をもって差別的待遇をされない法的に守られる義務を全うしたということになります。
確かに感情的な面では刑事事件等に関する個人情報保護というのはその対象から除外されることが多いかもしれません。今後の就職活動やアルバイト募集などであっても犯罪歴の証明となる「無犯罪証明書」の提出が求められることがあるかもしれません。犯罪歴の「悪用」ではありませんが「右へ倣え」の日本では企業が個人の機微情報であっても、認定事業者の許可を得るために提出させるようになるのは間違いありません。
しかし、罪を償った人に就労制限を設けるのは問題があるのではないでしょうか。ましてや過去の犯罪が現在の処遇に影響するという「遡及」に関する問題は日本の法制度で問われていくとも思われます。
また、犯罪歴の開示に関する法律である本法案ですが、事業者の判断で「性加害の恐れがある」という判断も許容されることになっており、今後の動向には注意が必要です。
罪を犯していない人にまで範囲を広げる方向にあるということには反対です。プラットフォーマーの個人情報開示請求などの事件を見ても、個人情報開示を望む感情と制度改変には際限がありません。当noteでは今国会で審議されている「プロバイダ責任制限法改正案」についてご紹介しました。
法規制において、これだけ整備すればすべて安心という万能の制度なんかありえません。感情論、内面については法規制は難しいこともあります。私たち国民が「国に任せれば安心」という安易で怠惰な国民精神のままでいると、思わぬところで自由を奪われているということが増えてくるでしょう。
■提言
学校や保育施設等においては「先生」と「子供」という上下の関係性が前提となるため、たとえ子どもが被害に遭ってもその事件は表面化しにくい上、仮に判明したとしても学校が隠蔽してしまいます。
それだけではありません。大人は子供に干渉し過ぎていないでしょうか? 教師に権威があり過ぎ教師が生徒を思い通りに支配したいと感じ、親もそれを許容してしまう。フランスの歴史学者アリエスは現代の教育の特徴を喝破しました。「学校によって社会から子供の居場所を隔離する中で、子供は可愛がられるようになり、親は教育に熱を出すようになります」と。
〇リアルテ「教育思想史⑦アリエス『<子供>の誕生』(1960、邦訳1980)」(2022.5.31)
特に我が国では子供を過度に弱者としてとらえすぎる側面があります。大人が子供の性被害を問題視し過ぎることで逆に子供の側からのアクションが少なくなってしまい、表面化しなくなっているのではないでしょうか? こどもを弱者としてとらえることがかえって子供への過干渉という「規制」となり子供が自由を失い自立の芽を摘んでしまう危険性はないでしょうか?
教育の現場は文部科学省に任せましょう。そして犯罪者は法務省に任せましょう。特に現在のこども家庭庁長官の国会における迷走ぶりは素人集団をほうふつとさせ、省益拡大のために躍起になって無意味で的を得ていない答弁を繰り返しています。
こども家庭庁に権益を集めようと躍起になっている現在の状態ではこども家庭庁予算を大きくしないためにも本法案に対して反対します。
浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる参議院議員NHK党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)
【質問1】
文部科学省『「生命(いのち)の安全教育」指導の手引き』冒頭には次のような記載があります。
「その心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼす」という根拠がどこから得たものであるかご教示ください。
【質問2】
本法案において民間の学習塾を運営する会社や各種習い事の教室を事業として行っている企業、はたまま個人で営んでいる事業者の方々は「認定事業者」となるためには、その従業員の「犯罪事実確認」を行わなければなりません。その数は膨大なものとなり、事業者を越えた重複も存在します。このような規制を行うことで事務事業の肥大化や民間の業務を圧迫するものとなり、結果として民間企業が官公庁の顔色を窺い天下りや献金などが増えることとなります。『規制の事前評価書』を確認しましたが、民間事業者の事務負担などが評価されていないようです。これは行わなかったのか、あるいは行ったが記載しなかったのか、経緯をご説明ください。
【質問3】
こども家庭庁長官に対して回答を求めます。本法案の第12条目的外利用の例外規定に関する質問です。
「1項 第九条第二項又は第十条第二項の規定により提供する場合」は目的外の利用になる例外とされており、第9条は県費負担教職員の場合、第10条も同様の規定と思われますが、施設等運営者がある場合の特例として定めているものであり、特段第12条に入れ込む必要が無いものと考えます。
また、第26条7項の規定は12条1項を温存する場合、対象となる規定と考えますので、第12条1項の規定に追加する必要があるのではないでしょうか?
また全体を通してですが、内閣総理大臣が行う過去の性犯罪歴の提供において相当前の情報の開示がなされることが考えられますが、当該特定性犯罪事実該当者が刑を終え、更生している点などの配慮等についての取扱い規定が存在しないようですが、この点はどのように各教育委員会で判断していくものでしょうか。また民間事業者はどの程度配慮するべきものなのか、指針のようなものを作成することは検討されていますでしょうか。ご教示お願いいたします。
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