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無責任者会議で国は滅びゆく…
港湾法等の一部を改正する法律案
■はじめに
本noteではこの度国会で審議されることになった「港湾法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2025年第217通常国会で法案が審議されている法律案(閣法・国土交通省)です。
本法案の舞台は「港湾」です。港湾は一般に貨物(旅客含む)船が利用する港であり、漁業の拠点としての「漁港」とは異なります。そのため港の構造や機能が異なり、行政による管轄も異なるということになります。地方港湾は荷役を行う労働者の力が強かった時代があり、国と港湾労働者組織が権力争いを行ってきた歴史もあります。そして管理者である地方自治体が過去の亡霊と板挟みとなって苦しむという歪んだ構図が続いています。
しかし、時代は待ったなし。グローバル化の進展に伴い港湾の発展は国の存続をも左右する大きな存在です。COVID-19、コンテナ貨物を中心とした世界的な物流。中東、中南米をはじめとした海賊の横行や物流システムを狙ったサイバーテロなどダイナミックに変化する時代を乗り越えるためには港湾はインフラとしては最優先に考えていく課題ではないかと思われてなりません。
しかしながら本法案においては、そのような重要課題の解決などではなく、あくまでも震災を経て必要となった手続き論に過ぎない改正となっており、はっきり言えば「今、改正しなくても良い問題」が取り上げられています。このような法律をもてあそんでいるだけのような改正には反対の立場で記述していきたいと思います。
かつて当noteでは「【税金でレジャーランドだ!】漁港漁場整備法及び水産業協同組合法の一部を改正する法律案」という文章を発表し、日本各地の漁港が衰退の一途をたどっていることをご紹介しました。
また「スポーツ都市宣言でメタボ化した苫小牧市をブッた斬る。」では、苫小牧市の復活のために苫小牧港(国際拠点港湾に指定されている)について老害たちの集合体である管理組合を解散し、民間の敏速な手に任せないとラピダス社を含む北海道バレー構想も自滅すると述べました。あわせてお読みください。
■港湾法について
港湾法は国土交通大臣が定める基本方針に基づき、港湾管理者が適正な整備、運営を行うための法律です(法第一条)。地方港湾の運用は港を擁する自治体となりますので、自治体の担当者の業務が過大なものになる側面もあります。近年、人口減少と経験豊富な職員の退職時期を迎えているために人手不足が問題になっているのは、他の分野とも共通の懸念点と言えるでしょう。
現在の港湾をめぐる論点は下記の論文にもまとめられているので、ご参考までにお読みください。
「歴史的転換点に立つわが国の港湾管理体制 —港湾を巡る新たな時代の到来と職員減少下の人材育成のあり方ー」政策研究大学院大学学術機関リポジトリ(2023年11月)
港湾法は第二条に以下のように記載されてされており、地方自治の理念をもつ法律であるとされています。「この法律で「港湾管理者」とは、 第二章第一節の規定により設立された港務局又は第三十三条の規定による地方公共団体をいう」e-GOV『港湾法』昭和二十五年法律第二百十八号
港湾の管理運営について地方公共団体が主体的に行うこととしている点,及び港湾の管理運営について国の一般的な監督規定を置かずに,個別の事項ごとに規定を置いている点等により,港湾法は他の公共事業分野の法令と比較して,優れて地方分権的で民主的な法律であるといわれる
我が国における「民主的」というのは縁故資本主義的ムラ社会の中での公平性という意味ですから、お上に丸投げの状態だったのでしょう。
一貫して港湾を国や自治体の公共財産として整備し, 港湾施設を良好に保ち公平に利用させること,つまり公物管理の発想と実践が長く続いてきた結果であるといえよう.このため戦後に自治体が一般行政として港湾を管理運営することに対して少しの違和感も生じなかった. 港湾の効率的な利用を重視する,いわゆる港湾を経営する概念が容易に芽生えなかった
これまで水産庁や国土交通省の検討会の様子を見てきて感じる事、それは「他人事」という感覚です。責任がうやむやにされ、ムラ社会を維持することが重視されると言ったらよいでしょうか。今回も検討会での発言から「これだ」と思う発言がありました。それは通常の港湾分科会とは別立で開催された、能登半島地震を踏まえた港湾の防災減災対策の答申を出す有識者会議の最終回の委員からのコメントです。
モデル港湾みたいなところを使ってデジタルツイン化を試みてみるみたいな、そんなようなことも将来的にはやっていったらどうかなというふうな気がしました。この答申に書くとかいう問題ではなくてですね。
デジタルツインというのは現場にいなくても状況が分かるように開発される技術の名称です。時代を切り開くかもしれない新技術の導入について「誰かがやってくれる」精神がありありと見られます。検討会では常に忖度をしないといけないのでしょう。しかし、こんなことをしていたらいつまで経っても新しい事業は進められません。無責任の極みとしか言いようがありません。有識者会議どころか無責任者会議です。
デジタルツインの試みは国内でも取組が始まっているのですが、これから全国に導入と言うことになると本当にいつのことになるか絶望的です。世界と日本の取組をご紹介します。
■法改正と有識者会議について
なぜこのような忖度が働くのか、有識者会議の中で発見してしまいました。
『交通政策審議会第94回港湾分科会議事録』を見てみましょう。港湾分科会長の選考から始まります。その選任において互選で選ばれた京都大学防災研究所 多々納裕一教授が連綿と続く既得権の事情をばらしてしまっています。
【分科会長】 港湾分科会ということで、実は私の恩師は吉川和弘先生で、もともと運輸省の御出身で、 京都大学で教鞭をずっと 執ってこられた先生でした。その先生が、この港湾の行政の話、あるいはその政策の話、計画の話で、学生の頃から教えてもらってはいたんですが、昨今の話に比べると随分違っています。小林先生(前任の小林潔司分科会長・京都大学経営管理大学院特任教授)も私と同じ研究室の先輩でありまして、 小林先生は非常に勉強家で、いろいろなところに顔を出されて、新しいことを取り入れられてそれを推進されておられます。
私になって、何をしていたんだと 言われないように、一生懸命勉強してこの重責を務めたいと思います。」
前任の小林氏は2014年から10年間分科会長をしてきました。その前は黒田 勝彦氏(神戸大学)がやはり10年間。かつて行政改革に取り組んでいる大物政治家がこんなことを言っていたと記憶しています。「私はこの問題に30年間も取り組んでいるんだ」と大きな顔をしていた、とある本に書いてありっました。この分科会長も自分が同じことをしていると気が付いていないのでしょうか。港湾委員会を何十年も開催してどれだけの意義があったのでしょうか。はなはだ疑問です。有識者会議を開いても税金の無駄遣い先を考えるばかりで誰も責任をとっていません。
なお、浜田聡参議院議員はホームページ上でマニフェストを公開しており、有識者会議についても「(1)有識者会議(公金チューチュー会議)をぶっ壊す!」ことを政策として掲げています。
■能登の復興の状況
令和4年1月に発生した能登半島地震は大きな災害をもたらした。実はその17年前(平成19年)にも能登半島では地震が起きています。港湾関係の被害としては次のようなものでした。
被災状況の緊急調査の結果、直轄施設では七尾港の係留施設・保管施設・埠頭用地各1箇所、石川県管理施設では外郭施設15箇所・係留施設22箇所・港湾環境整備施設1箇所・港湾管理施設1箇所・船舶役務用施設1箇所・荷捌き施設4箇所・保管施設6箇所・臨港交通施設14箇所の被災を確認した。
災害復旧業務の技術支援として4月5日、石川県土木部港湾課及び七尾市からの要請により、新潟港湾空港技術調査事務所の職員を七尾市に派遣し、復旧方法等に関して技術的助言を行った。
また、令和4年の能登半島地震の被害状況は次のようになっています。
1 月 2 日より輪島港、飯田港、小木港、宇出津港、穴水港、七尾港(いずれも石川県)において、港湾法第 55 条の 3 の 3 に基づき管理の一部の実施を開始。岸壁の利用 可否情報及び入港実績を国交省 HP にて公表(※)。2 月 2 日より管理の対象施設を拡大 (外郭施設及び臨港交通施設の応急措置。荷さばき地、野積場及び緑地の利用に関する 調整を追加)。3 月 2 日より管理の内容を一部変更(係留施設、水域施設、外郭施設及 び臨港交通施設の応急措置のみに変更。それに伴い、上記※の HP での公表は終了)。5 月 2 日より管理の対象港を輪島港、飯田港の 2 港に変更。7 月 2 日より輪島港 1 港に変 更。8 月 1 日に終了。
(とあり次に七尾、輪島、飯田、小木の各港の詳細を記載)
令和7年2月現在でも利用可能な水深4.5m以上の岸壁は4港、10岸壁となっています(同上)。
港湾法において港湾の種類を4種類定めている。そのうち、能登地震の被害のあった港は「地方港湾」となり、七尾が重要港湾、輪島が避難港と指定されています(法第二条の二、施行令別表第一)。ただし、震災を受けて七尾、輪島、飯田、小木、宇出津、穴水の各港は国土交通大臣が管理代行することとし上記資料のような記載による対応となっていた。航行管理は海上保安庁などが行っていました。
前回の能登半島地震では「被災を確認」「技術支援、技術的助言」程度の対応状況だったことが分かります。一方、昨年の地震では港湾管理含め、土木工事も国が積極的に参画している様子が分かります。
港湾は土木工事の規模も多く、小さな自治体が管理するには財政上大きな負担ともなり、その運営において複雑な手続きが必要となってきます。緊急事態のさなか、あちこちに書類を回して決済を仰いでいたら復興もまったく進みません。ましてや、人口減少や熟練技術者の退職などに伴い、地元の運営だけでは手が回らないというのが現実です。それが昨年の震災でより深く国が関与することになった理由でしょう。
■本法案の改正点
では、具体的に本法案の改正点を見ていきましょう。
港湾法第三条の三 国際戦略港湾、国際拠点港湾又は重要港湾の港湾管理者は、港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全
に関する政令で定める事項に関する計画(以下「港湾計画」という。)を定めなければならない。
この部分でその「3 国際戦略港湾、国際拠点港湾⼜は重要港湾の港湾管理者は、港湾計画を定め、 又は変更しようとするときは、地方港湾審議会の意見を聴かなければならない。」
とされている部分を
「5 港湾管理者は、港湾計画を定め、又は変更しようとするときは、地方港湾審議会の意見を聴かなければならない。」
と変更し、そのまえに
「2 地方港湾の港湾管理者は、港湾計画を定めることができる。
3 港湾計画には、港湾の保全に関する事項として、地球温暖化その他の気候の変動に起因する港湾区域の水面の上昇その他の港湾区域の水象に係る高さの変化に対応するため、臨港地区内にある港湾施設であって(略、「特定港湾施設」という)」の高さ及び機能の最適化に関する事項を記載することができる。一 防潮堤、護岸(略) 二(略)荷さばき地その他の港湾施設であって(以下略)
を入れ、順次送る。
(項11(地方港湾準用規定)を削除したうえで2,3として追加)
軽微な追加としては再生可能エネルギー源利用施設等である公募占有計画に「設置及び維持管理に必要な人員及び物資の輸送に利用する港湾に関する事項を記載しなければならない」として、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成 30 年法律第 89 号、2024年3月改正。)に基づく事項などが追記されています。
第九章 に「保全」の文言を追加
「保全」は港湾管理計画において定められることと追加されたもの。
第五節として
「協働防護計画」を新規追加。
第五十一条に港湾管理者が協働防護協議会の設置できることを追加。
第五十二条に港湾管理者に代わって港湾工事の権限を行うことができることを追加。これは能登半島地震においてすでに特例的に実施済みのもの(前章を参照してください)。
第十章
五十五条の二の二を新設。海洋再生エネルギー発電設備等取扱埠頭を構成する行政財産の貸し付けを受けている許可事業者が異なる港湾に存在する財産を利用する場合の協議会(利用調整協議会)を設置し、利用調整協議会が定める事項について協議する体制の構築を求めている。
五十五の二の三~四の四まで追加
これらは主に非常災害による被害が発生した場合に応急の復旧を緊急に行う必要があって他に手段がない場合の対象方法が追加されました。
五十五条の三の2
港湾管理者は、その管理する荷さばき地その他の国土交通省令で定める港湾施設について非常災害による被害が発生した場合において、当該港湾施設を災害応急対策必要物資(災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第八十六条の十八第一項に規定する災害応急対策必要物資をいう。)の荷さばきその他の流通に係る業務に使用するためその応急の復旧を緊急に行う必要があり、他に手段がないと認めるときは、当該業務の現場において、他人の土地若しくは建物その他の工作物を一時使用し、又は土石、竹木その他の物件を使用し、若しくは収用することができる。
その他の法律の一部の改正は次のようなものになっていますが、省略。
本法案での改正部分の多くは昨年の能登半島地震での港湾管理において国が代行した部分などを踏まえ、近隣の港湾で協力体制が行えることの整備に関する項目が中心となっています。(本法案『要綱』)
2.北海道開発のための港湾工事法2条関連
3.沖縄振興特別措置法第3、4条関連
4.特定外貿埠頭の管理運営法附則5条関連
5.景観法附則第5条関連
6.港湾のサイバーセキュリティーについて
■終わりに
本法案をとりまく状況は急激なスピードで変化を遂げています。旧来の枠組みにとらわれていては世界から取り残されます。そのためには国や地方の行政組織が関与する割合はごくわずかな部分でのみにするべきです。思い切ってすべての条文を削除してしまってもいいくらいです。
定例の有識者会議を何十年続けても世界をリードできる港湾国家になっていないのです。思い切って港湾事業者の税金を取ることをやめて、その分自分たちで港湾の運営をしてもらったほうが良いのではないかと思います。
自分たちの港は自分たちで守る、その意識が世界一の港づくりの意気となるはずです。そのためにはやはり
減税さげろ
規制をなくせ!
だと思います。
浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる参議院議員NHK党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)
【質問1】
管理代行について伺います。
昨年の能登半島地震において、石川県内の複数の港湾が被災しました。その際、通常、県の管理している港湾の管理について国が代行を行ったと聞いております。通常時における石川県の港湾管理の人員数と、国が代行を行った際の代行業務に携わった人員数を教えてください。
【質問2】
代行を行った際、地方、国とそれぞれから港湾管理業務に関する意見徴取などもしているのではないかと思いますが、どのような意見が挙げられたのでしょうか。
【質問3】
今後、南海トラフ地震などの災害が発生した場合、複数の場所で同様の対処は出来ないと考えられますので管理業務を恒常的に簡素なものにし、かつ複数の港湾が自律的に協働できるような管理形態のありかたが必要ではないかと思います。第五十一条に定められている協働防護協議会という制度もその一つであるかと思います。
その点で協働防護計画に関する本法案での追加は評価すべきものであると考えます。なお、協働防護協議会は運営管理者一つに対して一つの協議会しか設置できないのでしょうか。
【質問4】
もし法的に一つの運営管理者に対し一つの協働防護協議会という規定となる場合、新たな規制の枠組みができることになります。協働防護協議会に従いたくない場合、別の協議会が結成できないからです。一度作られた協働防護協議会は既得権益を形成し、利益誘導が始まります。これは自由な経済発展を阻害するものであり、昨今よく言われる中抜き、天下り構造ができあがるなどの弊害が考えられます。協働防護協議会というのは固定的なものではなく、柔軟に運営できる協議体となることを求めます。
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