新聞は60代後半から70代半ばの「おじいちゃん仕様」に最適化されている
日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかります」という発言の余波はいまだ続いています。
当初はJOC、IOCとも「訂正・謝罪したので問題なし」とのスタンスでしたが、世界的な世論の反発が収まらず、両者とも森会長を「切り捨てる」形に追い込まれました。
この件を受けた政権与党の大幹部と経済界トップの発言にも批判が集まりました。
毎日新聞の報道によると、発言が問題となった直後、森会長が辞意を固めていましたが、JOC幹部から強く慰留され、思いとどまったそうです。
個人的には、森会長の発言以上に、強く慰留したJOC幹部の方にこそ、今回の問題の病巣があると感じています。
慰留したことにより、結果として事態の混迷をいっそう深め、トップである森さんにさらに恥をかかせ、傷口を大きくした上に、辞任せざるを得ないところまで追い込んでしまったわけで、事務方は全くの無能と言うしかありません。森さんが気の毒になります。
日本のいろんなものをあぶり出した一連の騒動の中で、注目度は低かったですが、森会長の問題発言から6日後、新聞労連などメディア労組4団体が「メディア各社の役員 女性30%を目指しましょう」と訴える会見を行ったことが興味深かったです。
この件を報じた記事はこちらです。
森会長の発言に関する批判記事が新聞各社に掲載された直後、Twitterでは「じゃあお前らの組織(マスコミ)はどうなんだ?」という批判的なツッコミがいわゆる「保守系」の方々から多くあった上に、マスコミ関係者からも自省的なツイートがみられました。
メディア労組4団体が会見で見解を表明したのはいいことだし、タイミングも適切だったと思います。
この毎日新聞の報道は立派でしたが、この会見についてちゃんと報道した新聞・テレビが他にどれぐらいあったか。
オールドメディアである新聞・テレビ、特に新聞社は「老人天国」です。
仕組みとしてそうなってしまうのは、中にいるとよく分かります。
まず、役員たちが60代後半から70代半ばの「おじいちゃん」たちなんです。
この人たちが毎朝、会社に集まって雑談し、その内容が、管理職である「50歳手間から60歳」のオッサンたちに伝えられることから、新聞社の本社の1日は始まります。
そして、管理職たちは役員の舌足らずな呟きの意図を汲み、忖度を加え、現場の記者たちに指示を出します。
「他紙に出ているこの記事はなぜ載っていないのか」
「この記事にはこういう視点が足りない」
「あの記事の扱いは大き(小さ)すぎる」
などなど。
現場には、こんな感じに御託宣が「下りて」きます。
新し物好きに見えるマスコミ業界の企業だからといって、組織・機構が先進的ということはありません。
立派な主張をし立派な文章を書く記者が必ずしも立派な人間ではないというのも、内部にいるとよく分かります。
しかしこれ、斜陽の新聞産業的には案外、理にかなった仕組みなんです。いや、自虐でも、「意識低い系」ならではの非生産的な冷笑でもなくて。
いま、新聞の主購読者層は70代だと言われています。新聞は「老人向け商品」なのです。各面の下に収容されている広告をご覧になると分かります。
70代といえば、新聞社のおじいちゃん役員と「同じ年齢層」あるいは、彼らの「少し先輩」に当たる世代です。
自分と同じぐらいか、入社以来ずっと仕えて忖度し続けてきた「少し上の先輩」の年齢ですので、そうした主購読者層の心理、求めている情報は熟知しているわけです。なんと頼りがいがあって有能なことか。
そして、おじいちゃん役員の「一次下請け」である管理職、「二次以下の下請け」である現場の記者は常に、今やっている仕事が「60代後半から70代半ばのおじいちゃん役員からケチが付けられないかどうか」に細心の注意を払うようになります。
組織に長くいると「分かってくる」ようになります。会社組織の中で主購読者層に一番トシが近い「おじいちゃん役員たち」の嗜好が。こうした修練を繰り返すことで管理職・役員候補となる「新聞官僚の卵」が育っていきます。
現在の主要なお客様を大切にするのは、大事なことだとは思います。ビジネスの基本中の基本なのでしょう。
ただ、そのお客様たちは年々減っていき、発行部数も売り上げもジリ貧になることは目に見えています。
数年後には、「新聞の主購読者層は80代」と言われるようになるはずです。
性別や国籍、思想信条を超えた多様性を尊重することが、組織が生き残り発展していく上で重要なのだとしたら、オールドメディアの代表である新聞にそういう部分は決定的に欠けています。
業界全体で危機意識を共有しなきゃいけないと思います。自省なく他人事のように森会長とJOCをただ叩くだけで終わったとしたら、オールドメディアはますます国民に見放されることになるでしょう。
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