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消費増税が始まった日の夜に見た「5ちゃんねる」のあるスレタイが秀逸だった

 8%から10%に消費税が上がった2019年10月1日の夜、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)でこんなタイトルのスレッドを見つけました。

日本新聞協会「新聞がんばってるから!解約やめてね!やめてね!」

 今回の消費増税では、定期購読している新聞は8%のままで増税されませんでした。飲食料品と同じく「軽減税率が適用」されたためです。
 で、増税初日に合わせ、各社でつくる業界団体である「日本新聞協会」が軽減税率について見解を発表し、それを記事にして朝日新聞(電子版)が載せ、それを元に立ったスレッドです。

 この声明は、朝日以外の多くの新聞社も当日の電子版や翌日の朝刊で紹介していました。「軽減税率をめぐる新聞業界のスタンス」については、過去の歩みも含め、日本新聞協会のHPにまとめてありますので、ご関心のある方はぜひ。優秀な「新聞官僚たち」が書いたと思われる、隙はないけど心に響きにくい労作の数々に触れることができます。

 それにしても、5ちゃんねるのこのスレタイは非常に秀逸です。発信者(この場合は日本新聞協会)の「本音」を正確に抽出して簡潔に伝えている上に、ユーモアと茶目っ気も漂わせています。「見出し」はこうでなくっちゃいけません。

 タイトルだけでなく、書き込みも奮っていました。

「魂を売って軽減税率を買った言論機関」「政権のイヌがなんか言ってら」「新聞は軽減税率対象になる代わりに魂売ったよな」

 「軽減税率と新聞」をめぐっては当然、ぼくの周辺(「意識低い系新聞記者」界隈)でも大きな話題になっておりました。ぼくが数人の同僚と雑談した際にまとまった共通見解としては、

 ①軽減税率が適用されても、「消費増税で価格が上がったから購読をやめる」という動機付けを回避できるだけであって、これは、
   ↓
 ②「軽減税率で価格据え置きとなったから購読を続ける」と決してイコールではない。むしろ、
   ↓
 ③「消費増税が始まるし、これを機に生活費全般を見直そうかな」というご家庭では、「おっ、新聞やめりゃいいんじゃね?」となりかねない。さらに、
   ↓
 ④消費増税に腹を立てている、あるいは「増税は仕方ないのかもしれないが、なんか面白くねぇな」という方々が「なんで新聞だけ?」「ズルしてそう」と悪感情を抱くのではないか。

 われわれ「意識低い系」にとって、5ちゃんねるでの反応は想定内でした。

 軽減税率適用を求めてきた新聞各社としては、増税初日のタイミングで新聞協会の見解を記事にすることで、「国民読者の皆さまに業界の立場をご理解いただこう」ということを狙っていたはずです。しかし、こうした反応をみるに、「ご理解」どころか逆に悪感情を引き出してしまったようです。
 「魂売った」「権力のイヌ」との激烈な罵倒に対し、新聞官僚の方々はどう応えるのか、興味深いところです。

 ここまでの文章をお読みになった方の中に新聞業界関係者がおられたら、「お前は身内のくせにその他人事のような言い草はなんだ!」「『便所の落書き』みたいな無責任なネットの書き込みに媚を売りやがって」というご批判やツッコミをぼくにしたくなるかもしれません。
 そのお気持ちは分かります。そうお感じになるあなたと同様、ぼくも新聞が好きでこの業界に入ったのですから。例えば、今回の「声明」にある以下の2点については、ほぼ同じ考えです。引用します(番号と太字は筆者によるものです)。

 ①民主主義の主役である国民が正しい判断を下すには、信頼できる情報を手軽に入手できる環境が必要です。
 ②最近では、不確かでゆがめられたフェイクニュースがインターネットを通じて拡散し、世論に影響するようになっています。そうした中で、しっかりとした取材に基づく新聞の正確な記事と責任ある論評の意義は一段と大きくなっています。

 「新聞の」が部分がなければ100点満点だと思うんです。せっかくいいことも言っているのに、欲張って「新聞の」と入れたことで、台無しにしています。こういうのって、自分で言うんじゃなくて第三者に言ってもらうものでしょう。

 加えて、引用部分の前段にある「…国民に知識・教養を広く伝える公共財としての新聞…」という表記は、もっとマズいです。「低姿勢なポーズでご理解いただこう」という狙いで出した(と思われる)声明文に、こういう「啓蒙主義的な上から目線」をにじませちゃいけません。新聞がここまで衰退した要因の一つに、こうした態度が嫌われたってこともあるのでしょう。

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