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人間よりも安全な「自動運転車」はどこまで安全になったら受け入れられるのか。

近頃ずっと注目されてきた自動運転技術ですが、日本でも実験は進められていますが、やはり先行しているのは中国・アメリカ。
アメリカでは、既にたくさんの無人のタクシーが動いており、実際に誰でも乗れるように事業化されています。

先日、Cruiseという会社のサービスが、2年のサービス実装、100万マイルの走行を経て、「人間の運転よりも事故が減った」という結果を公開しました(※1)。

このような自動運転車が搭乗しているにも関わらず、日本においては、まだ自動運転車は受け入れられる土壌ができていないように思います。そこで、「なぜ受け入れられないのか」、社会受容性というキーワードと共に考えてみたいと思います。

自動運転は、過去も何度か機運の盛り上がりがあったが、2016年頃から、本格的に自動運転の機運が上昇し、政府・民間がそれぞれ様々な技術開発や制度設計を試みてきた。
近年は一時の過度な期待から「自動運転バブルが弾けた」というように表現

1.自動運転の現在地

■日本における自動運転

日本における自動運転は、過去も何度か機運の盛り上がりがあったが、2016年頃から、本格的に自動運転の機運が上昇し、政府・民間がそれぞれ様々な技術開発や制度設計を試みてきました。

近年は一時の過度な期待から「自動運転バブルが弾けた」というように表現もされていますが、実は無人自動運転のための法改正等が進み、一部では限定空間において自動運転が運行する等、着実に自動運転化への道が進められています。(詳しくはまた別の記事で書きたいと思います。)

ただし、まだ米国のように、無人のタクシーや車両が縦横無人に走るような環境ではないのが現状です。しかし、必ず技術的なブレイクスルーは来ますので、問題はそれがいつ来るか、ということだと思います。しかし私はそれも、技術の進歩が加速度的であることを鑑みるとすると、人々が考えているよりかなり近い将来なのではないかと考えています。

■米国 Cruiseによる無人タクシーサービス

米国では、州政府により自動運転への対応や規制が異なります。Cruiseはサンフランシスコにおいてはじめて完全無人運転を行った企業で、2021年~2023年2月までに100万マイルの走行を達成しました。
運転は夜間~昼間にも行われ、他の車両や歩行者がいる市街地環境を普通に走行しています。youtubeには走行の様子の動画が無数に上がっています

2.米国Cruiseのレポート

そのCruise社が、安全性に対して以下のようなレポートを出しています(※1) その結論は以下の通りです。
同等の運転環境では、人間のドライバーに対して、自動運転車は以下の通り事故が減少し、さらにAV が遭遇した衝突の多くは低速であり、AV の運転動作が原因ではないことがわかっています。

  • 全体的に衝突が 54% 減少

  • 主な要因として衝突が 92% 減少

  • 重大な怪我のリスクを伴う衝突が 73% 減少

Cruise社レポートより(※1)

また、走行した場所は、走りやすい場所だったのではないかという疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、実はこの場所は、人口密集地域で、歩行者、サイクリスト、スクーターが多く、無謀な運転も頻発する非常に難しい地域でした。ここをあえて走行した記録だということです。

さらに、AV が遭遇した衝突の多くは低速であり、AV の運転動作が原因ではありませんでした。Cruise社がどのようにこの安全性を獲得したかは「2022年安全報告書」に記載されています。(※2)

3.Cruiseに関する懸念の声

さて、この記録を見ると、今すぐにでも全都市に自動運転車が導入できそうな気がしてきます。しかし、実際には状況はもっと複雑です。
Wiredによれば(※3)、サンフランシスコの各機関では、火災現場で使用中の消化ホースをタイヤで引いてしまう事象や、消化活動中の消防隊員がクルマを停車させようとしたがうまくいかず、フロントガラスをたたき割ってようやく停車させる等、消防活動の阻害等が問題視されています。

また、不測の事態には車両は停車する必要があるが、22年5月~12月末までに、道路上で停車した事例は92件報告されており、その大半が市営バスやライトレール、路面電車が走行する道路上で発生したとされています。こうした停車に対しては、渋滞や他のドライバーの運転操作や、公共機関の遅れにつながる可能性もあります。

事故の懸念は少ないとしても、交通に混乱をきたしている可能性がありますし、事故も0ではなく、以前としてリスクが残っている状態であるということがわかります。

4.社会受容性のとらえ方

■自動運転車と社会受容性

自動運転車の社会導入は、技術的な側面や法制度上の問題とは別に、その技術が人々に受け入れられるかという社会受容性の問題の側面を有しています。

古くは馬車から自動車に代わる際にも、実は社会受容性の問題で人々や産業界との間で摩擦が生じたことがあります。実は自動車は今発明されていれば絶対に受け入れられないといいます。なぜならば、自動車は人をひき殺す可能性がある道具だからです。公園の遊具ですら撤去される時代に、そのようなものを導入できるでしょうか?
実は同じ問題を自動運転車も抱えているのです。

■自動運転車と社会受容性

自動運転と社会受容性に関しては、日本でも研究や実証が進められています。それは、自動運転への導入に対してこの問題が大きな政策課題にもなると認識されているからです。
谷口綾子教授によれば、社会受容性は以下の通り定義されます。(※3)

「環境・経済面の費用対効果、 人々の賛否意識、期待や不安など様々な要素から浮かび 上がる、時々刻々と変化し得る集団意識」

また、様々な実証実験が進められており、実証実験により自動運転車を体験することで、自動運転車の理解や認知が進み、社会受容性が向上する可能性等が示されています。(一方で、現状とのギャップが大きいため、一定数受容性が減少するリスクもあると考えられますが、それは正しい認知であるため、やがて技術が進展すれば解消されると考えられます。)

また、受容性には、利用者としての受容性(事故が生じないか心配、がたがた揺れる、急に停車する等の不安、懸念)や、市民としての受容性(周囲に自動運転車がいることでの不安、懸念)、そして事業者としての受容性(タクシー事業者やバス事業者、特に運転手として、自らの雇用や職を代替されることへの懸念)等も存在し、それぞれ感じている受容性が異なると考えられます。また、自動運転への正しい認知度によっても受容性は異なります。(このあたりは先ほどの論文※3を参照)
自動運転車の受容性を考える上では、「①各ステークホルダーの受容性を確認する」、「②各ステークホルダーの受容性がどの程度であれば導入が可能かの意思決定」、「③受容性の判断に必要なデータの準備」が必要になると考えられます。

5.どの程度安全性が高まればよいのか?

ではこの社会受容性という切り口が重要であるということがわかった所で、実際に、人々はどの程度の受容性を持っているのでしょうか?第一生命経済研究所のレポートでは、「無人バスの安全な走行のために、運転手のいるバスよりスピードが遅かったりセンサーによってしばしば停止して安全確認をするのは仕方ない」と答えたのは7割程度です。逆に言えば、3割はそう思っていないということがわかります。

第一生命経済研究所より(※4)



そもそも自動運転車の受容性を考える上での一つの尺度として、「手動の車両と比べてどうか」という基準と、「そもそも事故が発生するか(事故やリスク=0か)」という2つの尺度があると思います。当然人々は事故・リスク0であることを自動運転車に望むわけですが、当然どんなものにもリスクが0になるということはないと思います。また、「手動よりも安全だが0ではない」という自動運転車の、安全性の基準を別途定めることは非常に難しい問題です。

そのため、「ある試験環境下では少なくとも事故は起きない」「事故が発生しそうになったらリスク回避を行う(減速・停止する等)」といったことを前提条件に、少なくとも「手動よりもどの場面においても安全である」ということを説明していくことが当面の目標となると思います。もちろん事故は事故、で、手動よりも安全だからといって受け入れられない層も必ず存在すると思います。そのために、Cruise社のように、徹底的に実証実験のデータ等から状況を明らかにするとともに、安全対策に関するレポートを公開し、その姿勢を示していくことが最も重要だと思います。また、手動運転との適切な比較を行って、導入する地域で市民や行政・関係機関と丁寧な対話を続けていくことが重要ではないでしょうか。

■社会受容性に関する戦略

社会受容性に関する戦略としては、一つ非常にわかりやすい図があったのでご紹介します。こちらはSIP-Cafeに掲載されていた図です。自動運転の認知度と受容のマトリックスにしたもので、まずは自動運転に関して正しい認知をしてもらう。その上で、非受容の層に対して、適切に受容を高める施策を打っていくことが重要だと考えられています。

ここでより重要なのは、やはり「どこまでいったら受容されたといえるのか。」「正しい認知をした上で非受容だとしたら、どの点で非受容であり、どうしたら受容されるのか。」といったことだと考えられます。この点についてはまた別の機会に記事にしたいと思います。

https://sip-cafe.media/column/456/  より

参考文献(※で記載)

  1. https://getcruise.com/news/blog/2023/cruises-safety-record-over-one-million-driverless-miles/

  2. https://drive.google.com/file/d/1HkIpEScc9n1wtEEDCONe14pdPvKxYfzn/view

  3. 谷口綾子ら(2017)「自動運転システムの社会的受容性ー賛否意識とリスク認知に着目してー」https://www.sk.tsukuba.ac.jp/~tj330/Labo/ayakolab/pdf/research_theme/3-4-(2)-142.pdf

  4. 第一生命経済研究所「自動運転の社会受容性醸成に向けて ― 地方のモビリティ創出に向けた課題と考察 ―」https://www.dlri.co.jp/pdf/ld/2019/rp1910.pdf

予定:
興味深い論文もありましたので後ほどこちらもご紹介できればと思っています。

https://www.nikkoken.or.jp/pdf/project/2021/A-850.pdf

キックボード関連は事故が多くてフランスではダメになりましたね。この辺も洞察を得られるはず。いずれ記事を書きたいです。

https://www.jiji.com/jc/v8?id=20230430world

https://www.gov.uk/government/statistics/reported-road-casualties-great-britain-e-scooter-factsheet-year-ending-june-2022/reported-road-casualties-great-britain-e-scooter-factsheet-year-ending-june-2022

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ちいきリサーチ@今川
読んでくださりありがえとうございました!現在、仕事と育児の間に活動を行っており、執筆は夜間にカフェ等で行っています。ご支援いただいた内容は、note執筆のためのカフェ代に使わせていただきます。