リレー小説その②「rousoku」
どうも、さんぴん倶楽部の美並です。
今回、われわれが「夏の匂い」をテーマに書き物をリレーするということで、
僕も書かせていただきました〜。
たくさんの人のインスピレーションの種になれば〜なんて、です!笑
僕自身もメンバーの作品を読むのがたのしみです。
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テーマ【夏の匂い】
リレー小説その②「rousoku」
『 蝋燭の火が燃えている。
世界を燃やすかもしれない。
だらだらと汗をかいている。
したたり落ちたその液体は、冷えて固まり使い物にならない。
やがて火が消えて、煙が何か言いたそうにして去っていく。 』
お仏壇というモニュメントが生活に染みついていた幼少時代のこと。
ラジオ体操を終えた僕は、冷やされたお味噌汁を飲む。
そして日課にしていた婆ちゃんの猿真似をはじめる。
手を合わせ、足をしびれさせながら、意味も解っていない漢字を朗読していた。
ツクツクボウシのテンポに合わせて、口を動かしながらじっと蝋燭を見つめる。
その時、何故か例の漢字郡を見つめることはできなかった。
グロテスクな畏怖の念に拐われそうになり、落ち着かない。
仏というコトに対峙した僕は子供ながらに得体の知れない何か、抗うことのできない何者かの 視線 を確実に感じていた。
僭越にも、死とかいう訳の分からない様なもののドアノブに手をかけていたのかもしれない。
そしてあの個体か、液体か、気体かわからないものの燃える匂いが鼻についた。
老いたいまでもそれは脳裏に焼き付いて消えないでいる。
《匂いは記憶と繋がっている》
誰かが提案した言葉。
この言葉をちゃんと実感した出来事がいくつかある。
ある暑い夜更け、僕は年下の手頃な女の子を連れて自然豊かな公園をお散歩していた。
パピコを半分ずつにした二人は、若者らしく正義っぽい話に夢中になっている。
彼女は日記帳を読ませるように悩みっぽい話を打ち明けてくれる。
残念なことに、それらの訴えが僕にとって既に通過したものごとばかりだったので僕の目はひからない。
僕はラッキーストライクの煙を飲みながら、にこにこして女の子の話を聞き、ほんの少しお話ししてあげた。
彼女は度々、泣いた。
すると不意に女の子、「ラッキーストライク好きなんですか?」と質問する。
「いつもは赤のマルボロなんだけど、ラッキーは味が荒んでて今のおれに合ってるのよ」
「じゃあラッキーストライクの匂いで思い出しちゃうなぁ。わたし。
これから… 、一生… かも…。」
「へぇ。何を思い出すの?」と律儀に訊き返す。
一瞬間、呼吸を置いて彼女は
「今夜のあなたのこと。」と、応えた。
生温い空気が、ちょっとだけひかった気がした。
すてきな会話を聞いた気がした。
僕は、他人を通して理解した。
《匂いは記憶と繋がっている》
夏という季節は往々にして人間を生き急がせている。ヒトをアブラ蝉みたいにぎゃあぎゃあと喚かせる何かが潜んでいる。
その何か異様な様は、まるで幼き日に感じたあの 視線 を思い起こさせる。
そして、人間という存在は燃える蝋燭に似ていると感じる。
ここに脈絡なんか、無いよ。
赤く灯る火は“魂”で、
ロウは“肉体”、
最期に漂う煙は“思念” とでも言うべきなのかもしれない。
僕という蝋燭の火が正常に燃えているのかを不安にさせる記憶。
夏の匂いはいつだって、僕の内側から現れ、
悪い目をして、掻き回してくる。
『 蝋燭の火が燃えている。
世界を燃やすかもしれない。
だらだらと汗をかいている。
したたり落ちたその液体は、冷えて固まり使い物にならない。
やがて火が消えて、煙が何か言いたそうにして去っていく。 』
さんぴん倶楽部 美並
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