リレー小説③「無音」
はじめまして、さんぴん倶楽部のノエルです。初めての投稿となります。
「夏の匂い」というテーマでのリレー小説ですが、僕の作品には匂いが出てこないのですが、僕にとっての「夏の匂い」を閉じ込められたんじゃないかなと…。
いつまで経っても鮮明に残り続ける記憶についての作品です。
楽しんでいただけたら幸いです。
「無音」
何故、今思い出したのだろう。
灰皿に横たわる吸殻の事を。
さっきまでのめり込んでいたみんなとの談笑から引き離されて、僕はそれと向き合う。
きっと、今の自分に似ているから。
そして…
次に彼らの声が耳に届いた時には考えていたことは消え失せていて、雑音で満たされた空間に一人ぼっちになる。
それに耐えきれなくなった僕の目に止まったのは、もう誰も手をつけなくなったグラスを伝う水滴。
その水滴がテーブルに触れるまでの間だけ、もう一度"あっち"に行ってくる。
…
水滴はグラスの底の形をなぞって光った。
今度は戻ってきても消えることなく、考えていた事をみんなに話すタイミングを伺いながら、会話にすっと潜り込む。
来た。話が途切れて、波が止まる瞬間が。
少しだけ無音の余韻を吸い込んでから、僕は口を開いて頭の中の塊を吐き出す。
みんなで"あっち"を見つめて、会話をする。
文字通り、のめり込んでいく。
カーテンのついていない窓から、光が差し込むようになっていた。
感覚的な、だけどスッキリした結論に辿り着いて、誰からともなくタバコに火をつける。
ライターの音、煙を吐き出す音が止んだ時、
換気扇の音が一層大きくなった気がする。
今度は誰も口を開かった。
吸っているタバコが、吸殻に変わるまで。