君たちはどう生きるか、をみて
宮﨑駿監督作品、君たちはどう生きるか、をみたのでその感想を。
ジブリ作品は千と千尋の神隠ししか観たことがなく、皆さんが考察しているような過去とのリンクみたいなものは全くわからなかったので今回の作品中での表現のみで純粋に観たまんまを。
まず、序盤純粋に感動したのが、眞人がナツコと実家に帰る際の階段を上がっていくシーン。普通に歩いて登っていく途中、スキップというか段飛ばしで登っていくみたいなシーンがあって上手いなというか間の埋め方が美しかった。階段上がるシーン描いてきてって言われて初めからあれできる人いないだろうなって思う。同じ色のブロック縛りで歩くような感じでその遊びににやついちゃった。同じようなのでいうと、家について眞人が部屋で疲れて寝ちゃったところにナツコさんがお茶持ってきて、顔を見て部屋から出ていくシーン、あれもベットからドアまでのナツコさんの身体の向きとか歪みや表情まですごく丁寧だったと思う。細部に神は宿るなんていうけれど、そもそもの細部の解像度が異次元というかこれがプロなんだって感動した。
ここからはメインというか作品から僕が受け取ったメッセージみたいなことを。僕にはジブリや宮﨑駿さんの世界観というか文脈がほぼないので、題名である、君たちはどう生きるか、をベースに話を追ってた。結論から言うと、君たちはなにをつくるか、君たちはどんな作品を作るのか、みたいなことをモノづくりの世界に入ってからの現実をもとに書いたのかなと思った。順番に見ていく。
前提として、眞人はモノづくりをはじめてこれからの未来を作る若者。彼が学校に行った帰り道いじめられて傷を負った。そのあとさらに自ら石(意志)で頭に大怪我をつくる。このシーン、この段階では表現として少し違和感があったんだけど、最後の方大叔父との会話で、この傷が悪意の印だと言ってた。悪意とは、世の中に受けるために、より注目を集めるために、事実を捻じ曲げることであり、それは作品として美しくないという比喩だと思った。実際大怪我を負った眞人が帰ると両親や使用人は大きな心配と関心を寄せてくれた。モノを作ってもはじめは誰も関心を持ってくれない、なんの評価も受けることができない、だから、事実を捻じ曲げてしまう、皆の関心を惹くために。派手なチョコ細工や飴細工でケーキを飾るようなことだと思った。でもそれは本質的な価値ではないというメッセージだと思う。いじめられて怪我したという描写は、言うなれば眞人の作品だった。彼の普段の誠実さ(作家の美しさ)があれば、両親や使用人(世の中)は今回のいじめ(作品)に大きな傷(事実の捻じ曲げ)などなくても向き合ってくれたのだ。ここは、ものづくりをはじめたときの葛藤の描写なのかなと。
次にアオサギとの出会い。
アオサギ自体はプロデューサーっぽい役割なのかな。普通に物語の進行になってたと思うけど、全体を通して眞人との関係性が変わっていった気がする。そのままでは無理だったけど、眞人なりの交渉やバトルによってアオサギを味方にできた。作品を作るだけでダメで、目的のために周りを巻き込んで説得していくことが必要だということの暗示なのかも。
面白いなと思ったのは、まずは、アオサギの存在や言うこと(みんなはそう信じているけど、確信はないもの=母親の死)に興味を持って自ら確かめようとしたこと、また、アオサギを仕留めるために弓を自作したこと。出来合いのものを使うこともできたけど、刃の研ぎ方を教わったり、飛ばすための設計を考えたり、自分の武器を磨きながらアオサギに向き合ったのは眞人の素質が表現されていたのかなと、そして、最終的には拾った羽が致命傷となったことは運なのかもしれないけれど、自作していなければ受け取ることのできなかった恩恵で、運なのか偶然性みたいなものへの言及なのかわからないけど、次のステップのために時にそのような要素も必要だという教えなのかも。そもそも、その人が面白がっている(いいと思っている)ことは本当に面白いのか、みたいなことも問われてるのかも。運みたいなものは他にもあって、ナツコの失踪時、どこに消えたのか眞人だけが見ていた。そのおかげで洋館にたどり着けたわけで、運の大事さも成長には必要なのかも。アオサギがみせたのかもしれないけれど、それもまたプロデューサーっぽいってことで。
洋館及び下の世界と大叔父の世界
ー前提としてこの世界は、その分野における権威や象徴的な存在、時代を作っている各分野のトップ、組織や巨匠を描いていたようにみえる。そこに身を置く若者眞人の物語。ナツコの奪還が物語での目的だったけど、いい作品を作りたいとか、トップの仕事を学びたいとか、を重ねてると思った。
・洋館
偽物のヒサコをみせられるわけだが、これははじめの絶望みたいなものかもしれない。希望を持って有名店に入るが望むものは簡単には手に入らず、厳しい現実が待っている。理不尽な待遇にも眞人は抗いアオサギを倒して次のステージへ。
・下の世界
ここから先のキリコやヒミは組織のトップではないが2,3番手を担うような実力者みたいな感じなのかな。助けられながら成長していくんだけど、ちょっと皮肉っぽいなと思ったのが、3つある。
1つ目が、キリコと食料(作品)を持ってきた時のそれを待つ廃人みたいなものが、そのブランドが持つファンみたいな無条件に作品を見にきてくれる人みたいに見えた。そのブランドはトップのものであって自ら作品を作りたい人はそこの心地よさに溺れてはいけないよ、みたいな。
2つ目は、白いまるまるしたものが空に飛び立って人間になろうとしてたところ。まだまだ下のレベルなのにもう学び切ったと思って独立したい人たちみたいに見えた。途中ペリカンに喰われていくのは甘い誘惑に負けて他者に利用されて潰される人に、ヒミに焼かれたものは未熟なものがそのブランドを背負って外に出る人間を減らしたいのかなと。何よりみんな同じような形をしていて特徴がない平凡な人間の象徴に見えた。
3つ目は、老いたペリカンとの出会い。その話は、役割が決まっていて、それに満足し、これ以上の成長を求めることすらできなくなった老いた精神の象徴に見えた。このトップ企業に来た時には自らの成長とオリジナルの作品を世に出すことを強く望んでいたはずなのに、同じく尖った熱量の持ち主だったはずなのに安住してしまった先輩みたいな。なんで埋葬したのかわからないけど、これ以上醜い姿をみないようにしたのかもしれない。自分はこうはならないようにって。
この辺までで眞人がすごいなと思ったのが、はじめの目的を失わなかったこと。ずっと一貫してナツコを連れて帰ろうとしていたこと。いろんな困難を乗り越えて、誘惑にも勝って、流されてしまった人たちに影響されず登り続けたこと。
大叔父との対面。大叔父はたくさん本読んで狂って塔に消えたみたいに一般人からはみられてたけど、実際は大きな帝国を築いてコントロールしていた。塔は1から築いたのではなくて隕石みたいなのでベースは作られたみたいな描写だった。この辺からも大叔父も先人から学び、自分のオリジナルを作り出してきたことがわかる。積み木の均衡がこの世界をコントロールしていると。積み木はこれまでの作品だと思うんだけど、形が違うのと、縦に絶妙なバランスで積み上がってたところがポイントなのかなと思って、その魅力的で圧倒的な実力が組織のコントロールに繋がってる、これまでみてきた世界を牛耳る権威だ。
これを継いで欲しいと言われた眞人が断ったのがこの作品のクライマックスだったと思う。圧倒的な権威を前に、安定した世界を前に、自らの目的(ナツコ奪還だけど、いい作品作りたい、みたいな)を忘れずに現実の世界(1から自分の作品を作るみたいな)に戻ることにした。そして、積み上がっていた作品はわりとあっさり崩れ組織は崩壊した。これは、権威みたいなものは幻で、絶対的ではないことを表現しているのかなと。
現実に戻った眞人が持っていたひとつの積み木は、師匠というか偉人から学ぶ、モノづくりにおいて普遍的な価値を持つなにか、みたいなことだったんだと思う。全てを丸ごと受け入れてはいけないけれど、置き土産はあるからそれを今後さらに昇華していけという教えなのかな。
この世に残したいひとつのレシピ(料理)を紹介する、みたいな企画があって、尊敬しているシェフが出したのが、肉をただ焼いただけのものだった。なんでかって言うと、肉の火入れは今後も変わることのない技術だから、と言う理由だった。僕らの時代にこの技術は見つけたからそれを残したいと、後続の料理人が1から探すことのないようにと、その余った時間でまた新しい料理を作る時間にして欲しい、みたいなことを語っていてそれを思い出した。
ひとつ気になったのは、現実の世界では存在しないナツコをずっと探していたこと。ナツコは一般社会にはなかった。本当に大切なことはそのへんには落ちてないよっていうメッセージなのかも。目的(いい作品作りたい)を果たしたいなら、世間からは狂っているとされてるものでも、継続して悪意のない作品を作り続けている人から学ぶ必要があるってこと。今あるその権威は案外脆く絶対視する必要はない、ただ、痛みは伴うけれど何か普遍的な価値を見つけるまで登り続けるくらいの価値はあると、それを見つけたら、あとはそこの居心地の良さに甘えることなく自らの作品を作りなさいと、そういう作品だったのかなーと思った。
最後の描写、大叔父はすごく老人で生涯で13個の石を積んだ、そのバトンを引き継いだ眞人はまだ学生という対比。モノづくりは忍耐が必要で長期戦だという根本的な主張とともに、君たちは何を受け取り、何を作り、何を残すのか、そいったメッセージのある映画だったなと思う。
過去作を観ていたり宮﨑駿さんの人生を知っていた人はもっと別の楽しみ方があることを知った。同じ人をずっと追うっていう楽しみを僕もいつか知りたい。