塗膜調査あるある5 鋼構造物塗膜調査マニュアルにツッコミをいれてみる
鋼構造物塗膜調査マニュアルとは 一般社団法人日本鋼構造物協会発行
塗膜調査を実施する上で参考となる上記マニュアルについてお話しします。
本マニュアルは、鋼構造物塗装の適切な維持管理に役立つよう作成されています。
本マニュアルでは塗膜調査の種類を7つ掲げていますが、本記事ではこれまでお話ししてきた内容に沿うよう「有害物質調査」をピックアップします。
「有害物質調査」の目的
マニュアル第2章2.1(7)において、「有害物質含有塗膜の塗替え塗装においては、作業者の健康への影響や周辺環境の汚染を未然に防ぐために厳重な対策を求められると共に作業に伴い排出される有害物質を含んだ廃棄物の適切な処分も必要となる」(一部抜粋)と明記していることから、以下の3項目が本調査の目的と考えられます。
①作業者の健康への影響の有無を把握する
②周辺環境への汚染可能性の有無を把握する
③廃棄物の適切な処分方法を検討する
このうち、②については、どのような場合においても飛散防止の養生を実施するのが当たり前となっており、周辺環境に飛散することを前提にした有害物質調査を行うことはほとんどありません。もし実施する場合は「環境基準項目」の化学分析が必要となります。
ですから、「有害物質調査」は①及び③を目的として実施することが一般的となっています。
マニュアル第7章7.1 塗料に含まれていた有害物質
7.1(2)PCBの項では、かなり重要なことが記載しています。
①1972年以前の塩化ゴム系塗料の一部に可塑剤としてPCBが使用されていた。
②近年、一部の着色顔料製造時に非意図的に副生成物として生成されるPCBがある。
このうち、②については発注者側が失念している実例があります。いくら1972年以降の塗装であっても②に示した理由により、基本的には全ての対象構造物に対してPCB調査が必要であることは覚えておきましょう。(ただし、ごく最近の塗装であれば、発注者との協議により調査対象から外れることもあります)
マニュアル第7章7.2 有害物質調査のための塗膜採取方法
本項では塗膜採取量の記載があります。
皆さん、これまでのあるある話と本記事の内容をよ~く思い返してください。一部抜粋しますと、以下のような記述となります。
「例えば重金属溶出試験では、乾燥塗膜で50g以上あることが望ましく、余裕を見て100g程度を目安に採取するとよい」
何か気づきましたか?
本記事中で「有害物質調査」の目的は、以下に掲げる理由で実施することが多いと述べました。
①作業者の健康への影響の有無を把握する
②廃棄物の適切な処分方法を検討する
これまでのあるある話でお分かりとは思いますが、
①=含有量試験対応 ②=溶出試験対応 となります。
そうなのです。
含有量試験分の塗膜採取量の記述が一切ありません。
「例えば」と前置きしているので、文脈から読み取れば「あ~ほかにもあるのね」と思うものですが、実際はこの100gが先走ってしまい、塗膜採取量は100gでOKと認識される例があるのです。
それに、「余裕を見て100g程度を目安に・・・」と記述されていますが、「100g程度」と言われると、98gとか99gでも良いんだ、と感じませんか?
溶出試験用試料は最低でも50gとしていますから、99gでは再分析用の試料量として1gの不足となるのです。
かなり不親切な記述をしているとは思いませんか?
マニュアルと言いつつ、こんな悩まし気な表現をされると困っちゃうな~、ですよね(古い!)
まとめ
これまでのあるある話で申し上げた通り、マニュアルと銘打ったものでも曖昧な表現を用いるため、読む人を混乱させてしまいます。発注者側の担当者はこのようなマニュアルを参考にして仕様書を作成しますし、適用図書として指定する場合もありますから、ますますその混乱が増大していくのです。
従って、マニュアルや仕様書を鵜吞みにするのではなく、正しい知識を持って業務を遂行することを肝に銘じておくことが必要不可欠です。
次回は、まだまだ混乱を招く記述がある本マニュアルにツッコミをいれます!