約束を忘れる話し
来週は彼とコンサートに出かける。いつもとは少し違うデート。少しお洒落をして、きちんとメイクをして...シックで上品なワンピースがいいかな?などどウキウキしていた。彼をコンサートへ誘ったのは、数ヶ月前のチケット購入時だったから、
「来週のコンサート、予定通りでいいかな?」と確認のメッセージをした。返信、
「ごめん、忘れてた。仕事をいれちゃった。本当にごめん、チケット代を払うから...」
最初にわたしの頭をよぎったのは、チケット代のことなど、どうでもいいこと、それから「1週間前に確認しておいてよかった!」ということだった。彼のメッセージに「ごめん」が二回も書いてあり、本当に申し訳ない気持ちなのが伝わってきた。故意だった訳でないのだ。忙しいときに遊びのメッセージをもらったら、カレンダーに入れ忘れてしまうことも理解できたし、仕事が大切なのも理解できる。
だから「大丈夫だよ、他のひとを誘うからチケット代も無駄にならないし、事前に気づいて良かった!」そんな返信をした。これで彼の気持ちも軽くなっただろうか。
でも、どうしてだろう?そのうち「彼は私を大切に思ってくれているのだろうか?」「実は予定は分かっていたのに仕事を取ったのではないか?」なんの根拠もなく、意味のわからないマイナスの気持ちが浮かんできた。私はいつからそんなバカになったんだろう。どうして?そんなことないでしょう?ハッとした。私は悲しかったんだ、残念だったんだ、と。私は一度、自分の気持ちを素直に受け止めることにした。無理して前向きにしなくても良いのではないか。
大好きな彼と、好きな音楽を聴けなくて残念。それは、彼のことがとても好きだから。そして、私は、彼が私のことを好きでいてくれていると知っている。拗ねたり、マイナスの妄想をして、嫉妬したり落ち込むことを、彼は喜ぶだろうか?喜ぶはずがない。そんな女は私も嫌だ。
だから「好きなあなたと行けなくて残念だけど、また行こう」とメッセージを送った。彼も「今度からちゃんとスケジュールにいれる」と言ってくれた。気持ちを受け止めてくれたのが、とても嬉しかった。ますます彼を好きになった。
恋人がいたら、ちょっとしたすれ違いやトラブルが起こることもある。そんなときに、感情的になりすぎず、素直に気持ちを伝えられる、一緒に前向きになれる、それは恋ではなくって、愛なのだ。
「忘れる」ということは、人間に与えられた素晴らしい機能で、記憶の定着にも重要な役割を果たしているが、忘れてしまう最も可愛らしい動物といえば、リスである。
彼らは、冬が来るまえに食糧となるどんぐりや種をたくさん集めて、土に埋める。一ヶ所に集めていると、他の動物に見つかったらまるまる奪われてしまうから、色々な場所に埋める。するとどこに保存したのか忘れてしまう。小さな身体で、一生懸命集めたのに...
しかしその「忘れられた小さなどんぐり」は、ほかの個体の食料になって空腹を満たしたり、数ヶ月すると芽が出て、数年後には大きな樫の木になる。「忘れたこと」が、森林の形成に役立っているのだ。
忘れられた小さなデートも、きっといつか、もっと大きくて貴重な時間になって、返ってきてくれるかな、と、楽しみにしている。お互いを尊重し大切に想って過ごしていたら、そうなる気がする。