暗さと明るさの美学 ─ 建築デザインから見る日本と西洋の照明文化
1. 歴史的背景と宗教・哲学的観点
日本:陰翳(いんえい)と微光を尊ぶ文化
陰翳礼讃 (いんえいらいさん)
谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』(1933年) は、日本の伝統的な空間美や照明の在り方を象徴的に示しています。日本の建築や室内空間では、障子や襖によって取り込まれる柔らかな光や、木や紙といった自然素材がつくり出す陰翳が重視され、「微かな光の奥行き」や「影との調和」によって落ち着きや情緒を感じる美意識があります。
宗教観・思想
神道や仏教といった伝統的宗教観からは、自然環境(太陽や月の光、水、樹木など)を畏敬し、そこに神聖なものや精神的な意義を感じる考え方が根付いています。極端な人工光よりも、自然の光と影とのバランスを尊重する思想が育まれました。
欧米(特にキリスト教圏):明るさや煌びやかさを重視する文化
キリスト教の光の象徴
聖書の創世記には「光あれ」という言葉があるように、キリスト教では光は「神聖さ」「啓示」「希望」を象徴する重要な要素です。大聖堂や教会建築では、ステンドグラスを通して差し込む色彩豊かな光が、神の存在を感得するための空間演出として機能しました。
近代化と人工照明の発展
産業革命以降、欧米では電気の普及とともに公共空間や家庭内でも人工照明を積極的に導入し、夜間も作業や活動ができる環境づくりが社会的に推進されました。都市部では街灯やネオンサインなどが発達し、「街を明るくする」ことが近代化の象徴ともみなされました。
2. 建築・空間デザインにおける光の扱い
日本:限られた光をコントロールし、陰翳を活かす
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