暗さと明るさの美学 ─ 建築デザインから見る日本と西洋の照明文化 vol.2
1. 建築空間の構成と光との関係
日本建築:陰翳を織り込み、素材で柔らかく光を操る
深い軒と縁側、半屋外空間の活用
日本建築の特徴として、屋根の「深い軒」や「縁側」など、屋内と屋外の境界が曖昧な半屋外空間があげられます。
これらの空間は、太陽の直射光や雨風をある程度しのぎつつ、程よく外気や自然光を室内に取り込む効果があります。
「屋外→半屋外→屋内」というグラデーションが生まれ、光量や視線の抜け、風通しなどを巧みに調整することで、内部空間が過度に明るくなりすぎないように設計されることが多いです。
障子・襖・和紙による拡散と陰影
障子や襖、和紙といった素材は外部からの光を柔らかく拡散させ、室内に均質で穏やかな光をもたらします。
同時に、透過性と不透過性の絶妙なバランスによって、部分的に影が生まれ、「光と影の濃淡」が感じられる空間を作り出します。
この光のグラデーションこそが、日本建築特有の静謐(せいひつ)さや奥行き感、そして「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」的な美しさを際立たせる要因です。
床や壁、天井の仕上げ材と反射率
日本建築では木材が多用されるため、光の反射率が比較的低く、「光がやわらかく吸収される」傾向があります。
白漆喰や和紙などの仕上げも、直接的に光を反射するというよりは、穏やかに拡散して全体を包むような光環境を作ります。
こうした素材使いと空間構成が合わさり、「静けさ」「侘(わび)・寂(さび)」を感じさせる空間が醸成されるのです。
西洋建築:明るさの獲得と装飾性、象徴性
大きな開口部と採光の確保
ゴシック建築やルネサンス建築では、天井の高さを強調したり、大きな窓やステンドグラスを設けたりするなど、ダイナミックに光を取り込む工夫が見られます。
ヨーロッパの多くの地域は日照時間が限られることもあり、より多くの自然光を室内に取り込みたいという実用的・宗教的ニーズが強かったといえます。
光の象徴性とドラマチックな演出
ゴシック建築の大聖堂では、ステンドグラスを通る光が多彩な色彩を生み、キリスト教の神聖性を演出していました。
バロック建築やロココ様式でも、豊かな装飾やシャンデリアなどを用いて、光の煌びやかさやドラマチックな陰影を強調。人々の感情に強く訴える壮麗な空間を作り上げました。
近代建築の「合理性と透明性」
産業革命以降、機能主義やモダニズムが進むと、開口部を可能な限り大きくして自然光を取り込み、人工照明は効率重視の設計が行われるように。
ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエの建築に象徴されるように、ガラスや鉄骨などを多用し、光を遮らず空間を“透明”にする構成が主流となりました。
2. インテリア・デザインにおける照明計画
日本のインテリア:控えめで奥行きを生む照明
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