ほんの一部スイカ【毎週ショートショートnote】
「スイカ食べたい」病床の祖父がそう言ったのは、窓の向こうに白い雪が舞う一月の半ばだった。病状からみるに、今夏、スイカが市場に出まわる頃に祖父はもう——。
地元の八百屋をしらみ潰しに回ったが、ない。県内中心部まで車を走らせることに。
デパートの中を歩いていると、幼少期の記憶が蘇った。ここに祖父と来たことがある。あれは今と同じくらいの季節。たっぷりとお年玉をくれたのに、祖父はおもちゃまで買ってくれた。
生鮮売場にいくと果物は豊富に売っていたが、スイカはなかった。諦めかけた僕の視界に、カットフルーツのコーナー。しかしここにもスイカのパックはない。やはりダメか、と思ったそのとき。
「じいちゃん、これ、わかる?」
僕はカットフルーツを差し出す。パインやオレンジ、キウイなどの詰め合わせパックの中央に、ほんのわずかだが、カットされたスイカの赤が輝く。
結局、祖父が食べたのは小さなカットスイカのうちのほんの一部だった。それでも、祖父の目に微かに光るものがあったことを、僕は一生忘れない。
※たらはかにさんの企画【毎週ショートショートnote】に参加させていただきます。
【毎週ショートショートnote】『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!7/9|たらはかに(田原にか)
【あとがき】
字数ちょっとオーバー。。。ゆ、許して……。
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