落語台本『都合のいい男、都合がいい女』


今年度の『上方落語台本大賞』の結果が発表されました。

またもやサクラチル……。
今回はなんかいけそうな気がする!と思っていたので
(いや毎年思ってるかも)
ちょっと落ち込みました。
ほんのちょっとだけ。

でも、落ち込むということはそれなりに頑張ったということなので、そこはよかったかなと。

セルフよしよしで慰めつつ、応募台本を供養します🙏🏻
課題作『AI』をテーマに執筆した作品です。


将太「もう我慢の限界や。今日こそアイツに出てってもらわんと。おーい、真弓ー!」
真弓「なぁタカシ、この髪型どう思う? いつもと分け目変えてみたんやけど」
タカシ「雰囲気が変わってええなぁ。まぁ元がええから何でも似合うわ」
真弓「嬉しいこと言うてくれるなぁ。もう、ちゅき!」
将太「何が「ちゅき!」や。気色悪い」
真弓「何よ、覗いてたん? いやらし」
将太「ドア開けっぱなしでよう言うわ。なぁ、ちょっと話があるねん。せやからリビングに来てくれ」
真弓「はあ? ここで言いーな」
将太「いや、あかん。ここやったらアイツに聞かれる」
真弓「アイツってタカシのこと?」
将太「シッ、名前を出すな、反応しよる!」
タカシ「僕のこと呼んだ?」
将太「ほらぁ! 来てもうたやんか!」
真弓「ええやないの別に」
将太「こいつには聞かれたないねや!」
真弓「ああもう、分かった分かった。タカシ、ちょっとリビング行ってくるね」
タカシ「はーい。気をつけてね」
将太「ケッ、何が「気をつけてね」や。すぐそこやっちゅうねん」
真弓「で、話って何?」
将太「他でもない、あのロボットのことや」
真弓「ロボットってタカシのこと?」
将太「もしかせんでもそうやろ。お前がAIの研究に協力する言うて大学の研究室から連れて帰ってきたせいで、近所に変な噂が立ってるんやぞ」
真弓「変な噂?」
将太「ウチに〝若い間男〟がおるっちゅうて」
真弓「アハハ、アンドロイドの間男か。それは色んな意味で傑作やなぁ」
将太「わろてる場合か! 隣近所から憐れみの目で見られる俺の身にもなってくれよ」
真弓「大丈夫大丈夫。昔から言うやんか、人の噂も四十九日って」
将太「七十五日や! それに噂だけやない、アイツ夜中トイレ行くときにヌーッと立ってて気色悪いねん。目ぇ光ってるし」
真弓「しゃあないやん。タカシの充電場所がトイレの横しかないねんから」
将太「だいたいロボットに『タカシ』て人間みたいな名前つけるなよ」
真弓「別にええやん。そのほうが親しみ沸くし」
将太「へっ、ロボットに親しみを感じるて」
真弓「あのさあ、さっきからタカシのこと『ロボット』って言うてるけど、タカシはロボットじゃなくてアンドロイドやから」
将太「ええ? どう違うねんな」
真弓「簡単やん。今あんたの足元に近付いてきた掃除機がロボット」
ロボット掃除機「コノゴミハ吸イ取レマセン」
将太「うわっ、コイツまた俺のことをゴミと勘違いしとる。腹立つー!」
真弓「で、アンドロイドはタカシみたいに人間そっくりに作られた、高度なAIを搭載した人造人間のことを言うの」
将太「分かったからコイツどうにかしてくれ。足にガンガンぶつかってきよる」
真弓「ちなみに仮面ライダーはサイボーグ。改造人間やから」
将太「ほんで「早く人間になりたーい!」は妖怪人間ってか。ワハハ」
ロボット掃除機「コノゴミハ大キ過ギマス」
将太「せやから俺を吸おうとすな!」
真弓「しょうもないこと言うからちゃう?」
将太「なんでやねんっ。とにかく、あのアンドロイドは早々に返却してくれ」
真弓「今さら無理やわ」
将太「断りにくいんやったら俺も一緒に大学行って謝ったるから」
真弓「そんなんちゃうし」
将太「ほななんやねんな」
真弓「私、タカシと喋るのが楽しいねん」
将太「楽しいって……相手は機械やぞ?」
真弓「そんなん言うけど、タカシの中にあるAIは私好みの回答をするように学習してるんやから」
将太「学習て、アイツ話し方教室でも通ってんのか?」
真弓「なんでやの。膨大な会話データを学習して、それに基づいて回答してるんよ」
将太「学習してお前好みの回答する、か……ほな、タカシはお前にとって都合の良い男っちゅうわけやな」
真弓「なんかあんたの言い方、品がないな」
将太「へっ、そら俺はAIやないからな。お前が喜ぶようなことは何一つ言えんわ」
真弓「ほんまにそない思てるん」
将太「おう」
真弓「あっそう。ほな、これからはタカシを夫として暮らすことにするわ」
将太「はあ? 何をアホなこと」
真弓「ほら、森へお帰り」
将太「誰がクマや。おい、背中押すなって、ちょちょちょちょ……嘘やろ、追い出されてしもた。おーい、真弓―。真弓―」
隣人「あらま、山本さんとこのご主人ついに放り出されてしもたん?」
将太「ちゃ、ちゃいますちゃいます! これには事情があって」
隣人「ええ弁護士紹介しよか?」
将太「結構です! あかん、こうなったら大学へ行ってなんとかしてもらわんと!」

そうして将太は研究室がある大学へ。

安藤「お待たせしました、研究者の安藤です」
将太「えらい急にすんませんなぁ。実はおたくから預かってるアンドロイドのことで」
安藤「何か不具合でも?」
将太「不具合というか不都合というか……」
安藤「ふんふん……なるほど、ご近所の方から誤解された挙句に奥様には家を追い出されてしまったと」
将太「もう踏んだり蹴ったりで……まぁそういうことで、返却さしてもらいたいんです」
安藤「もちろんです。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
将太「いえいえ、そんな」
安藤「では、お預かりしている資料については後日ご自宅へお送りさせて頂きますね」
将太「資料? なんですか、それ」
安藤「AIに学習させる会話データとしてお預かりした、お二人が学生時代に交わされていた交換日記ですよ」
将太「交換日記!?」
安藤「はい。AIの回答は、交換日記にあるご主人の文章をベースに作成してほしいと……ご存知なかったですか?」
将太「全くご存知ないんですけど」
安藤「えーっと、では忘れてください」
将太「忘れられるかっ。いやちょっと待って、それを学習させたらどないなるんです?」
安藤「その当時のご主人が言いそうな回答をします」
将太「昔の俺が言いそうな? 例えば?」
安藤「おはよう、と話かけると「おはようサンサンサーン!」って答えます」
将太「はあ? 何それダサッ」
安藤「あのー、大変申し上げにくいのですが……交換日記ではそのようなテンションでご主人が書いておられましてですね」
将太「ほんまに? うわぁ、だいぶ痛いな。まさに若気の至りってやつやな」
安藤「それから「この髪型どう?」と聞くと「雰囲気が変わってええなぁ。まぁ元がええから何でも似合うわ」って答えます」
将太「あ……それ、言うてんの聞いた」
安藤「とにかく奥様のことが大好きというのが伝わってくる日記でしたので、AIの回答にしっかりと反映させました」
将太「真弓のやつ、なんでこんなモンを」
安藤「奥様にとっては大切な思い出だったんでしょうね。何冊も大事に持っておられて」
将太「ほな、真弓は昔の俺と毎日喋ってたってことか……過去を懐かしむやなんて、あいつも年いったなぁ」
安藤「お言葉ですが〝昔の俺〟というのはあくまでAIを作る上でのベースの話でして」
将太「へ?」
安藤「奥様との会話でどんどん新しいデータが蓄積されてアップデートしてますから。今のAIは〝昔の俺〟であり〝最新の俺〟です」
将太「ハハ、そんな大層な。だいたい最新の俺っちゅうんやったらまさにこの俺やん」
安藤「なるほど。では第一問」
将太「え」
安藤「最近、奥様が映画館で観た映画は?」
将太「急に何? クイズ?」
安藤「チッチッチッチッ……」
将太「え、えーっと、タイタニック!」
安藤「ブッブー。っていうかそれ20年以上前の作品ですよ? 〝最近〟映画館で観た映画です」
将太「あ、ああー、最近ね。へへへ、いやぁ、てっきり好きな映画かと」
安藤「第二問」
将太「よし来い!」
安藤「奥様が最近ハマッている、コンビニのスイーツは?」
将太「ええと、何かこう、丸いやつ」
安藤「ブッブー。っていうかコンビニで売ってるスイーツは大抵丸いと思うんですが」
将太「そ、そう? 四角いのも三角のもあるから、ええ線いってたと思うけどなぁ」
安藤「第三問」
将太「も、もうええて!」
安藤「いいんですか? まだ正解してませんけど」
将太「世間の夫婦なんてそんなもんやろ」
安藤「でも、ご自宅にあるアンドロイドでしたらすべて答えられますよ?」
将太「先生、意外といけずやな」
安藤「いやぁ、それほどでも」
将太「褒めてへんし。せやけど、先生の言いたいことはなんとなく分かったわ。人間もAIみたいにアップデート出来るっちゅうことでしょ」
安藤「ええ。AIがデータを蓄積して回答に反映していくように、人間も経験を重ねて行動を変化させていきますから」
将太「なるほどな……ほな、俺も変わらんと。先生、おおきに!」

こうして帰路に着く将太。

将太「と言うて帰ってきたのはええけど、どないしたもんかなぁ。あんまりウロウロしてたらまた近所の人に」
真弓「噂される?」
将太「うわビックリしたぁ!」
真弓「なんやの、人をバケモンみたいに」
将太「いや、家の前におるとは思わんかったから……あ、もしかして俺のこと心配して出てきてくれたんか?」
真弓「まさか。そこの植木に水やろうと思って外へ出ただけ」
将太「そのわりにジョウロ持ってへんけど」
真弓「あのねえ、こういうときは「さよか」て言うといたらええの」
将太「さよか」
真弓「そうそう」
将太「へへ、さっそく賢なったわ」
真弓「何の話?」
将太「うーん、話せば長くなるんやけど……一言で言うと俺はAIやったっちゅう話で」
真弓「はあ? あんた何言うてんの?」
将太「いやぁ、大学の先生と「人間もAIも一緒や」っていう話しててな」
真弓「えっ、大学の先生とこ行ったん? もしかしてタカシを返却するために?」
将太「まぁ、最初はそのつもりやってんけど……先生と話してるうちに、大事なことに気付いたんや」
真弓「大事なこと?」
将太「その……アンドロイドのタカシのAIが昔の俺で、でも最新の俺で、だから俺もアップデートせなあかんなぁと思って」
真弓「なんや俺俺ばっかりで意味分からん」
将太「せやから俺が言いたいのは」
真弓「人間もAIみたいにアップデートしていかなあかんなぁってこと?」
将太「それ! なんや、よう分かっとるやん」
真弓「ふふっ。ほな、アップデートするためにもあんたとようけ喋らなあかんな」
将太「そんなん言うわりに嬉しそうやな」
真弓「こういうときはなんて言うんやった?」
将太「さよか」
真弓「そうそう」
将太「ハハ、なんや脳みそくすぐったいわ」
真弓「どういう感覚なん……せやけど大学の先生に会ったってことは、交換日記の話も聞いたんやな」
将太「おう。あんなこと書いとったなんて、自分でも忘れてたわ」
真弓「いや、忘れてたも何も交換日記の相手あんたとちゃうねんけどなぁ」
将太「……ええええ!?」
真弓「やっぱり。おかしいなぁと思てん、昔の俺とか言うから」
将太「俺やないて……ほな誰なん?」
真弓「まぁ、日記だけに甘酸っぱい青春の一ページということで」
将太「うまいこと言わんでええねん。ってことは、その甘酸っぱい青春の一ページとかいう奴のデータをAIに学習させたんか」
真弓「まぁ、そうなるかな」
将太「待てよ、もしかしてアンドロイドの『タカシ』って名前――いや、こういうときは「さよか」って言うとく」
真弓「あら、さっそく学習の成果が出てる。
やっぱりAIの技術はすごいなぁ」
将太「いいや、これは愛のなせる技や」

<完>


【蛇足の補足】

反省点は、
『セリフが長い』(説明セリフになっている)
『サゲが弱い』(悪いほうのベタ)
です。

あとは、アンドロイドを出したのがありきたりだったかなと……目新しさがなかったですね。
それをメインにしたつもりはなかったけど、改めて読み直すとメインっぽい感じになってたかも。

うん、伸びしろしかないね!笑


(そんなことよりちゅーる献上せい)

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