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【感想】パルフェ おかえり…ようこそ、ファミーユへ

美少女ゲームってこんなに面白いんだっけ…?

別に予測不能な鬱要素で思いっきり引き込まれたり、何時間も止まらなくなる迫力のシーンがあったり、心臓が痛くなるような選択肢が突きつけられることもない。ハッとする思想や哲学が語られるわけでもない。
そういう派手(?)な要素なんかなくても、魅力的なキャラ、少しずらしたストーリー、舞台設定に忠実に丁寧に作り込んだ作品世界によって、こんなに素敵な体験になるということを教えてくれるゲーム。大事な場面での心に沁みるような感動が堪らない。登場人物たちに通底する「優しさ」の描き方は本当に魅力的だと思う。

ただ、1点だけどうしても納得いかないことが……少し前にアマカノ2を遊んで黒姫結灯さんが最強だと思ったところだったはずなのに。もう20年前のヒロインですよね?カトレア君、きみちょっと強すぎませんか?


戯画のゲーム「パルフェ ~chocolat second brew Re-order~」の感想です。
※これ以降、ネタバレがあります。




グラスの氷が鳴る音。

話をぶつ切りに暗転を入れる、仁が少し酔っていることの表現。
流れる主題歌のピアノアレンジが、輪をかけるようにお洒落。

本当にバーにいるみたいな、ちょっと雰囲気のよい夜を大事な人と過ごす感じが出ていて、素晴らしく良い。

イベント『ちっともあきらめとらんじゃないか』はストーリー上も重要なシーンだけど、バーの心地よい雰囲気がまんま感じられてとても印象に残った。
共通のエピソードでの、仁の料理を試食する時の厨房での音による調理の表現だったり、カフェで里伽子越しの由飛との会話では、ヒソヒソ話で立ち絵を消し、由飛がいなくって会話が戻ると立ち絵を再度出すなど、細かい部分含め演出が良いと感じることがとても多い。

プロローグより

ちょっとした場面で前作ショコラが感じられるのも嬉しい。

恵麻の重い話を使った冒頭に速攻で掴まれ、「彼女は…鈴を鳴らすような心地よい声を、していた。」というテキストが印象的なOPへの流れに、ワクワク感がすごい。主題歌は何度も聴くたびにどんどん好きになっていくし、作品全体をとおしてBGMもとってもよい。

ちなみに里伽子√ばかり推されているイメージもあったけど、これはゆずソフトのキャラ人気投票みたいなもので、ほかの√も十分魅力的だと思う。


以下、各キャラやその個別√の感想です。
※これまで以上のネタバレがありますのでご注意ください。


明日香ちゃん

プロローグより

こんにゃくでも思ったのだけど、年下キャラの使い方が本当に巧いと思う。
ファミーユがこんなに素敵なお店だと感じられるのは、賑わっていることを音で表現したり、店員としてのキャラみんなが面白かったり、仁や恵麻のちょっと複雑な思い入れだったり、いろんな要素があると思うけど、自分の中では明日香ちゃんのお店に対する想いの部分が大きい。
彼女だけは大学生でも社会人でもなく、バイトでしかないのに、深い思い入れを持つ立場にないのに、自身の文化祭で再現してみんなにまた思い出してもらおうとするくらい大切に想っている。

何か新しいことを始めてそれが周りを巻き込んだ動きになるのって、言い出した人だけでなくそこに賛同する人、一人目や二人目のフォロワーが大事って話を聞いたことがある。
だから、ブリックモールに出店するチャンスが生まれたのは偶然でも、開店にこぎつけることができたのは、プロローグでバストサイズの話にみせかけてノートの端に寸法を書くあのエピソードの明日香ちゃんのおかげだってすごい納得してしまった。
個別を通して仁が何度も、ファミーユがまた再開できたのは明日香ちゃんのおかげと言っていたと思うけど、ほんとその通りだと思う。

そんな事を考えながらエピソードを追っていたから、ファミーユへの想いがつまった重要イベント『いいんちょ明日香』ではしっかり感動させられたし、個別にでてくる「感謝なんかされたくないもん。ファミーユは、わたしの居場所なんだもん」というセリフも刺さって仕方なかった。

文化祭の失敗の流れから、仁への気持ちを自覚してアプローチする姿が可愛く、擦り寄りながら机を一周してしまったり、机から見上げる上目遣いの破壊力がとんでもないことになっている。

個別もしっかりラブコメしてて、新年会は本人の意図しない流れになってちょっとかわいそうだったけど、キャラみんなの魅力が特に詰まった場面になっていたと思う。

「今日まで、ファミーユを守ってくれてありがとう…
 って、あたしが言ってもそれはそれで失礼よね」
「里伽子さん…」
「逃げたもんね、あたしは。
 明日香ちゃんとは、正反対」

明日香√

そして、自分の進路のために解雇される。
由飛をつかってお店としての成長をみせるのも巧くて、もうファミーユは大丈夫ということがわかる。ファミーユを大事に思ってきたことが共通から示されているから、彼女の頑張りがお店を軌道に乗せることに貢献しているから、だからお店をやめなければならないことにつながるこの√の流れは、一層魅力的。
過去の因縁がありそうな里伽子に勉強をみる事を頼む、主人公の鬼畜っぷりもひどい。笑 「気にしないで。ただの遠吠え」。上のセリフを言ったあとの言葉。こんなに気になる負け犬、初めて見た。

通常イベントに「せんせ」と「てんちょ」を混ぜて呼ぶエピソードを入れるくらい、呼び方を意識させるキャラでもあるけど、その通り、呼び方が2つあるところから1つ減って、さらにまた新しく1つ足されることになるラストへの流れはとっても良かったと思う。


かすりさん

OPより

お約束のクリーム塗れ要員、だけではなくてファミーユに居場所がほしくて『いらない子』にならないように、ちゃんと役に立てるように頑張る子。経験豊富と見栄を張ったり、リカちゃんのことは名前で呼ぶくせにとヤキモチも妬いてくれる。これが身体を重ねた後なんだから、明日香ちゃんと対照的、パルフェの描く恋愛だよねって感じがする。

「言っておくけど本気だよ。
 あたしあんたにはうまく行って欲しいから」

「今度こそ、絶対に幸せになりなよ!!
 …あたしが言うのもなんだけどさ!」

かすり√

まあこんなことを里伽子に言わせている時点で、仁もたいがいなんだけども。電車に乗ろうと改札へ向かう別れ際に出してくるところが、妙に味がよいというか。

お菓子対決、ブリックモールの中心(適当)で愛を叫んだり、厨房で転んで毎回クリーム塗れになったり(もっとやれ)、ラブコメ色も強くて楽しいのと、ラストの一枚絵の笑顔がとってもよくて全部持ってかれてしまった。


風美由飛

OPより

Normal EDではピアノを弾かなくなってしまうのが印象的。Trueではクリスマスに玲愛が臨時バイトをしてくれて、演奏しっぱなしの由飛を心配し、差し入れのドリンクに、顔を赤くしながら名前を呼ぶ「わかったって言ってるでしょ…由飛…姉さん」。ここのセリフが堪らない。
でもすんなり仲直りとはいかなくて、ファミレスでの二人の応酬はとっても面白い。もう仁は仲直りさせたいんだか、かえって仲悪くしてるんだか。そして、二人から見つめられる一枚絵。なにこのシチュエーション。羨ましすぎ。

「そんなに力いっぱい覗きこまなくても…
 ほら、コピー取ってあるから」
「ん!」
「咥えるな」
 里伽子にしてはお茶目な仕草で、
 俺の手から紙を受け取る。
「必修には赤で丸がつけてあるから。
 そいつの科目について調査してくれ」

「それじゃ、ひとまず散るぞ。
 お礼は今度でもおごるから」
「それなら本にして。
 図書券でも構わない」
 味気ないなぁ、相変わらず…

由飛√

由飛の留年のピンチに仲間の力を借りながら全力でサポートする仁。学科試験の勉強を見ているときの会話にそれぞれの個性が出ていて面白い。
「弾けなかったの」。仁とくっつきながらピアノを弾く由飛。ここの二人の絵も好き。こんなに幸せそうな画面にしておいて、彼女の抱えていたものが、なぜファミーユに来たのかそのきっかけが明かされる。
「あはは…今考えたらそうかもね。でも、間違えてよかった」。キュリオと間違えてよかったというこのセリフも前後の内容も、由飛の辛さや想いが伝わってくる。そして、あのアンティークピアノを何気なく弾いたことにどれほど意味があったのか、伏線回収の衝撃と共にとても印象に残った場面。

カフェの仕事をなかなか覚えられなかったり、私生活がダメダメだったり、ピアノ以外はなかなかひどい描かれ方をしているけれど、ピアノにだけはいい加減になることはなくて、こういう秘めた本音にほろっとさせられるから由飛というキャラも好きになってしまう。


春一番~、仲むつまじく~

WA2があるだろと言われてしまいそうだけど、このライターの方ってこんなに鬱シーンを描くのがうまいんだって思わされてしまうくらい、ピアノが弾けない由飛の描写が重い…。ショコラもこんにゃくも幸せな温かい物語のイメージがあったから、ちょっと容赦のない描き方に引き込まれてしまった。しんどいときの由飛の立ち絵の表情がかなりきついものになっているのも特徴的。

「ちょっとの間だけ…ピアノのこと、忘れさせてやって。みんなの、力でさぁ」。だから、ファミーユで休ませるこういうセリフが沁みる。
「今のあの娘には、あるのよ…一年前にはなかったはずの理由が、できたのよ。…あんたのせいで」。玲愛のセリフもすっごくよい。

いつの間にか由飛がピアノに向き合うお話だと思い込んでいたから、ピアノの不調の原因とその解決は驚きと感動があって本当に好きな場面になった。玲愛の失敗。姉妹の口に出せない確執。ずっと引きずる由飛。それが、玲愛の演奏に、救われる。ここの一枚絵はピアノを弾く手前の玲愛が目を引いてもよさそうなのに、奥の、由飛の泣き顔が堪らない。
その涙が、ちゃんとこれまでの涙と違って感じられるところが、こう腑に落ちて物語としての面白さが詰まっていると感じてしまう。

OPより

「春一番~、仲むつまじく~、姉妹丼~?」。冗談をいうかすりさんが相変わらずいい味だしている。二人を抱える一枚絵は好きな人絶対多いよね。仲間です自分も。
ただ二人から取り合いをされているというだけになっていなくて、ここのタイミングで入れてくるのも、文脈上の意味も、二人の寝顔も、由飛の手が玲愛に置かれているのも、作中屈指の一枚にしてくれる。

ラストは、諦めない玲愛と、ピアノの卒業試験なのにやらかす由飛が印象的。まあおそらく、実際の試験がどんなものか分かっててわざとやってるんだろうけど。クリスマスのとっても良い演奏シーンと、それを思い起こさせるED曲にここだけ歌がつくニクい演出。

メインヒロインの影が薄いなんて誰がいったんだかまったく。共通からの伏線、玲愛との関係を余すことなく生かした素晴らしい物語だったと思います。


花鳥玲愛

プロローグより

「意識しない訳にはいかないでしょ」。10月の売上勝負の結末。キュリオに対して相手にならない。仁が言った時は気にしてないフリをしながら、実はちゃんと見ていた、という流れがくっそよい。まだなりふり構っていると様子を見ていた玲愛に看破される。

『カップは流しに戻しておくこと。洗わなくても結構』。
一枚のメモと、一杯の紅茶。

それだけでもくやしいのに、情けをかけられるこの流れ。カフェを舞台にしていることが思いっきり活きるこのドラマに魅了される。

由飛の訪問でベランダに隠れる玲愛。換気の振りをしながら窓を少し開けて「好きだって、面と向かって言えばいいじゃん」。ラブコメ展開の中の、こういう繊細な見せ方がとっても良い。
鏡にしたためられた口紅の相合傘。体調を崩す彼女の、ベランダにいたからという理由の否定。手を握ってた、名前で呼んでた、と文句をつける。卵酒を飲ませるやりとりに、仕事にいく仁との玄関際の駆け引き。もう、ヤキモチの書き方、性格の書き方が、これ以上ないくらい神がかっている。

『仲直り、したいときには兄はなし』。クリスマス直前の重要イベント。
「ごめん、今からの一言だけはすぐ忘れて、 ………妬ましい」。表情がいままでにない差分。玲愛の問題の所在が、義理の姉、ピアノ、いい加減なのに圧倒的な才能、そうした要素にあること。そして有能チーフでまじめで堅実である現在の玲愛との対比や、なぜそこまでまじめなのかも察せられる。カトレア記念日?には笑った。
「当たり前でしょう。隣に住んでるんだから」。関係性の変化が一言でわかるセリフ。この秀逸さ。『深夜のチェイス』でのコメディちっくなやりとりがとっても面白いと思っていたら、ちゃんと繋がってくるのは流石。
「区別、つきませんわよね」。由飛に対抗して名前を呼ばせる圧も、48回という呼ばせた回数に彼女の嬉しさが出ているところも、思わず壁に頭を打ちつけたくなるくらい良い。


私的には、その、

個別に入ると、ベランダの会話が二人のいつもの場所になっていて。絵の構図が素敵。
そして、お互い顔を見せないで話が進んだ先での、ベランダ越しのキスシーン。流れも入りも完璧。たまらず玄関で続きをやるのも、ハムレット川端に見られてもやめないのも、そして何より、『なんて楽しい喧嘩』で出てきた女性が背伸びするなんてキスのときの作法よ!という会話が伏線になっているのが堪らない。作中屈指のシーンの一つ。

「わかんないわよぉ…理由なんてぇ」「なら………証明してよ!」「今日…どこまでにする?」「私的には、その、最後までが希望なんだけど」。玲愛に首ったけになっているプレイヤーに対してこれは反則でしょ…こんなに魅力的に描いた彼女のエ〇シーンなんてご褒美がすぎる。シナリオもキャラもいいからエ〇はあっさり、なんてことは全くなくて、ここも後で出てくるシーンも強気でなかなか素直になれない玲愛の魅力を存分に生かした内容になっている。作り手は本当に理解っている。これのためだけにこのエ〇ゲをやる価値があると言っても過言ではないと思う。
「私のこと、どう思ってる…?」。次するときに答えると先延ばしする仁に、無理してすぐ2回目をやろうとするのも玲愛らしさが全開で好き。

正月。部屋の掃除とお雑煮。「大喧嘩したのよ」「それも夜通し。パジャマに着替えて、由飛の部屋で二人きりで」。姉妹の関係を本当に解決するのは由飛√だから、ここではあっさり。だけど、玲愛の「うん…うんっ!」ってセリフから嬉しさが伝わってくるのは純粋によい。ファミレスも由飛√と同じ内容ではあるけど、どちらと致したかで描写の意味が違って感じられる。二人に迫られるのは何度見ても良き。

お約束のお店でのエロシーンは、内容が濃いだけでなく、仁の暴走に玲愛が蹴り飛ばすところがおもしろい。「軽々しく…責任なんて言葉、口に出すな~!!!」。手前に出てくる「あ、あんたの濃さじゃ関係ないわよ!」「他と比べたことあんのかよ!?」「あるわけないでしょ!」も思わず笑ってしまった。


思い出に詰め替えて…

プロローグより

本店に帰るという玲愛。
離れてる間に自分が心変わりをしたら…?という仁に、しがみついて想いを伝える。返事の代わりに、今まで以上に、ぎゅっと身体を絡みつけてきた、という描写に宿る繊細さ。「私のこと、嫌いになったら言ってね?そうしたら、仁を、自由に、して、あげる…から…っ」。言っていることと身体の仕草がずれているようにもとれて、不安だけでなく、素直になれないことが表現されているようにも感じる。
ベランダ。久しぶりになってしまった二人の場所。そこで、吐露する。遠距離。心が離れる恐怖。由飛という勝てない相手。やっと、お互い、許せるって…思ってたはずなのに。
真面目で、有能だけど、でもピアノで挫折して。代わりのものもなくキュリオのチーフという居場所が絶対になってないから、中途半端で、自分がどうすべきか分からなくなる。間違った想いの根っこが出てくるシーン。

「里伽子さんって…本当に仁のこと、わかってるんだ。
 おっそろしいな」
「…単純なのよ、あいつは」

「…あいつには、うまく行ってもらわないと困るから」
「…どうして?」
「………」
「わたしは…そこまで割り切れなかったなぁ。
 だから、嘘でも、ちょっと楽しくて、
 嘘だから、ちょっと…せつなかった」
「ごめんね…」
「ううん、一勝一敗だから…だから、いい」
「………」
「だってわたしは…お姉ちゃん、なんだから」

玲愛√

仁の作戦にみえて、仁の本音と行動を引き出すためだった里伽子の策略。一勝一敗は、ピアノで勝って恋愛で負けたということだろうか。由飛の想いも感じられる会話である点も彼女の表情も◎。

「それが…仁の『仲直り』?」。策略にまんまと嵌った玲愛と仁。玲愛が仁を格ゲーばりにボコボコにする演出も楽しい。でも、話が姉妹の問題から玲愛と仁の問題になっていたから、共通での重要イベントを忘れていたから、ここで回収してくる展開に涙が止まらなかった。
玲愛の仕事の転機で壁をつくって乗り越える単純な物語と見せかけて…。ファミーユを明示して復活させる、それも一番ファミーユから遠かった玲愛がいなくては無理だと言って。他の√でも本店復活の描写はある。でも跡地がちゃんと出てきて、その前で仁が想いを語り約束するのはここだけ。
『オレと、玲愛と、新旧取り混ぜた仲間たちの思い出に詰め替えて…』『兄貴と、兄貴が愛したもののために、俺と、俺が愛したものたちで、立て直す。』。テキストがくっそ良い。その上、兄貴にできたことが、俺にできない訳がない、といった記述や、コンプレックス、感情の総決算という言葉が使われているように、仁が、過去の家族も大事にしながら新しい関係とともに兄貴を超えることで、前に進もうとすることの表現になっている。
由飛√で姉妹関係の解決をあんなに劇的に描いていて、それ以上はないだろうとタカを括っていたから完全にやられてしまった。

「それを、私に手伝えと?」「お前らの仲直り、手伝ったよな? 俺」。このやりとりも大好き。「どうしてもぉ、私が欲しい?」。これを言うときの絶対分かっててやってる表情も。「だったら…責任取ってもらおうかな?」「…重いよ? 今回のは」。エ◯シーンのなんならちょっとギャグっぽい流れのセリフをこんな大事な場面にもってくるなよ…どうしても巧いと思ってしまうじゃないか。


…痛感したぁ

OPより

「みんな…笑って送り出してくれたし」「私、裏切ったみたいなものなのにね」「お前の周りの世界は…お前が考えるよりも…ちょっとだけ優しいんだよ」。ここのセリフも、素晴らしすぎる一枚絵も知っていたけど、キュリオの帰りのこういう流れで使われた言葉だったとは…。さりげない一言。周りに対してちゃんとしなきゃいけない、そうでない自分が耐えられない、勝てない姉に比べ価値がないと思ってしまう妹を思いやった、一言。すごい意味が込められてるとか、深いとか、そういうことではないから、とっても素敵なセリフになってるんだと思う。

「…痛感したぁ」。玲愛の返事がまた素晴らしすぎる。仁の言葉にある「優しい」がちゃんと届いていると感じられて、彼女がこれからは自分を肯定し前向きに進めるんじゃないかと納得できてしまう。姉と比べてしまい、里伽子の策略で暴かれたとおりその芯の部分に自分で自身を支えられるものがなかった彼女が、仁の夢『仲直り』に加わって前に進もうとする。

家に、帰ろう。この一文がとっても印象に残る。最後は笑えるオチがついて、帰るのは玲愛の家で両親への挨拶付きになりそうなやりとり。でも、だからなのか、こんなにhomeという意味での家を、家族って言葉を感じられる。この最後の流れも含めて大好きな場面。
(ここの一枚絵は、夕日の射す光がちょうど左手薬指の位置にきているという感想がありました。こういうの気づく方、流石です。)


「おかえりなさいませ…旦那さま」。EDも、地の文に、仁の独白に、いままでの家族を大事にしながら、新しい家族も大事にしたい想いが表現される。だから、再建できたファミーユに迎えてくれるのが玲愛であることが、左手薬指が示すとおり新しい家族が待ってくれていることが、「おかえりなさいませ」が意味をもつ。
由飛√もとっても面白かったのに、姉に負けないくらいの、なんなら家族が表現されているという意味では勝っているくらいの、とっても素敵な√でした。


恵麻姉さん

プロローグより

共通の最初の最初から家族であること、その重さや初恋を巧くつかったストーリーが印象的。個別に入ると背徳感、葛藤が描かれる。煙草の匂い。元旦那の一人さんの代わり。過去のくだりで明かされる内容に引き込まれる。あと、上は脱ぐのにストッキングは脱がないサービスがあって癖にささるのもポイント高い。


「ハンバーグセットお待たせしました」
「お、来た来た。
 んじゃ俺、いただくぞ?」
「ん…いいよ」

恵麻√

里伽子を意識する恵麻と、なかなか里伽子と二人で話せない仁。一人さんの扱いがちょっと可哀想になるくらい、恵麻との仲を深めようとする仁に里伽子の想いが立ちはだかる。ファミレスで爆発する彼女の想い。

「半年前から決まってたの」

「あのとき、仁は恵麻さんを選んだの」
「そりゃ…選ぶとかそういう問題じゃないだろ?
 家族なんだし、助け合うのは当たり前だろ?」
「選んだの…」
「里伽子…違う。
 あの時は仕方なかったんだって」

「祝福、しないとね。
 大体、それだと、
 あたしが二人を結びつけたってことになるんだから」

「子供の頃からの夢…かなったね?
 色々と回り道したけど、たどり着いたね」

「おめでとう…二人とも」

「祝福、するよ…する、するから…う、うう…っ、
 ちょっと…待っててよ…」

恵麻√

姉にあえて家族になろうと言う仁と、覚悟を決め前へ進む恵麻。土下座をする相手は流れからいって両親かと思いきや、作中描写されるのは恋愛関係の部分。

「これは、その、最初にして最大の一歩…
 リカちゃん…わたしたち家族に…加わって」

「今は…祝福なんて、できないけど」
「うん…」
「いつか…笑ってみせるよ」
「っ!?」
「ちょっと、二人を待たせるかもしれないけれど…
 かならず、心の底から…っ」
「リカちゃん…っ」
「だから…よろしくね。
 面倒、かけるかもしれないけど…一緒に、いてね?」

恵麻√

最大の一歩、家族に加わってという恵麻のセリフ。一緒にいてね?と言う里伽子。結婚や血縁ではなくて、そうではない「家族」をつくることで里伽子も救おうとする。

EDは、3年ぶりにプロトタイプの制服に袖を通す里伽子が印象的。

「違う、そのことじゃない。
 …また、3人で始めさせてくれて、ありがと」
「待っててくれて、ありがと。
 今まで、ありがと、ありがとね…っ」

 里伽子も、最初は色々と遠慮してたみたいだったけど、
 こうして、もう一度、制服に袖を通してくれた。

 この日まで…本当に、長かった。
 沢山のものや、人と戦った。
 たいせつなひとを、守った。
 たいせつな場所を、取り戻した。

 だって、俺と姉さんの戦いは、終わったから。
 約束を、果たしたから。

 里伽子が、やっと笑ったから。
 心の底からの微笑を見せてくれたから。

恵麻√

仁と姉さんの二人が何と戦ったのか、守ったたいせつなひとは誰か、果たした約束の中身って? 具体的なことはほとんど書かれていないから、セリフに込められた思いを察することができた瞬間の火力が凄まじい。

「今日まで律義に待っててくれてありがとう恵麻さん…
 これでようやく、あたしもスタートラインに立てました」

恵麻√

(恵麻√なのに、まるでもう一人のヒロインのための内容にも感じられる。ED曲のあとにわざわざこの内容を持ってくるのは、これが作中全体でのTrueとしての意味をもつから?
あれから2年しか経ってないのに戦いが終わるのは、仁だけじゃなく恵麻も頑張ったからという解釈もできなくはないのかもしれない。けれど、どこか現実味が欠けているような、理想的すぎて、起きたら覚めてしまう叶わなかった夢のようにも感じられた。)


総評

シナリオが面白くて、テキストが抜群によい。こうくるだろうと思わせてちょっとずらしたり、何気ない言葉に文脈で意味をもたせる書き方が秀逸すぎて虜になってしまう。ライターの方の持ち味が十二分に発揮されている傑作だと思いました。絵もとってもよくて、塗りを含めると古さはどうしてもあるけれど、構図とか表情をはじめ場面の切り取り方が巧くて見入ってしまう魅力がある。そして何より、音や画面効果を使った演出によって、コメディもそうでない部分も作品の雰囲気や世界観を巧みに表現できていると感じることが多かった。

お店への想いがしっかり感じられる明日香ちゃん√、姉妹の関係と解決が印象的な由飛√、家族がキーの玲愛√と、同じ家族にまた別の重さをもたせた恵麻√。
各ヒロインの√とも違った面白さがあって(全体を伏線につかっているがゆえに読む前と後でいろいろ変わってしまうとある√の性質を別にしたうえでの話になってしまうけど)グランドを用意して√ロックをかけたらその辺にある名作になったかもしれないけれど、でもそうではないバランスが、突出しきれていないどの√にも魅力があるところが、パルフェで一番好きなところかもしれません。
そして、端からみると不幸な主人公がお店を切り盛りしていくストーリーの裏で、しっかり家族を感じられて、ちょっとだけ優しさが表現される見せ方。感情をぐちゃぐちゃにするような内容ではないからこそ、このゲーム特有の良さがある気がして、それがほかの面白いゲームと比べても異質で評価できるポイントだと思います。

あらすじを読むと、お店を再開し戻ってくる仲間、そうでない仲間もいる事に触れられていてドラマを予感させる。そして全√をクリアするとヒロイン全員が、一人残らず、ファミーユに「帰ってくる」ことがわかる構成。そこに「家族」が感じられるのも大好きなところ。

キャラの魅力も物語も上質で、口当たりも中身もいい、素晴らしい作品でした。




ここからは蛇足です

このゲームの面白さも、ヒロインの魅力も一人残らず上に書きました。
なので、ここからは蛇足です。


夏海里伽子

 ぽとり。

里伽子√

左手に載せられた包帯を落としてしまう。二回とも。真冬に汗をかきながら絶望してゆく。仁の動揺の描き方。ブーツを履くかどうかの躊躇、裸足、凍傷のリスクも厭わない。噴水前は、約束の時間に来てくれない事でも、半年遅れのプレゼントを渡したことでも印象的な大事な場所。そこが再びドラマの舞台になる。
話の核心はこれからなのに、動作や移動していることを描いているだけなのに、ぞっとする悪い予感しかない展開に引き込まれ強烈に印象に残る。

引き金が、ぽとり、というもう何ともいえない擬音なのが、逆にこの場面の異質さを一層際立たせている。


「ごめんね、焦がしちゃった」

里伽子√

火事の真相。途中で位牌のことかなとピンときたけど、むしろそれがオマケなことに心底驚かされた。
共通も個別√も彼女の協力は意味をもっていたから、作品全体を、仁がそれぞれのヒロインに対し頑張って掴んできた「幸せ」を、プレイヤーのゲーム体験ごと文字通りひっくり返す。


OPより

「ごめん…自分じゃ、外せないんだ。
 だから…仁が外して」

里伽子√

右手の手首に嵌っているブレスレット。左手でしか、外すことの出来ないアクセサリ。恋人への贈り物は返すけど、恋人でなかった頃の贈り物は持っていたい。
どんなに設定を作りこんでも、属性をてんこ盛りにしても、作中のテキストで内面を説明しても、たくさんセリフをしゃべらせても、多分こうした言動に宿る表現は超えないと思う。ヒロインをヒロインたらしめる、世界中のほかのどのキャラとも異なる「里伽子」が現前するのはこういうところだと思う。

「………」
「あはは…」
「あはは…あはははは…
 あたしって、凄いねぇ…」
「あたしなら…
 わかって、くれるんだぁ…
 あははは…あはははははははっ!!!」

里伽子√

話のあまりの展開に、真相の衝撃に、プレイヤーの感情が追い付かないところに浴びせられる。もう、なんでこんなセリフがこのキャラから取り出せるんだろうね。普段の冷静そうにみえる性格に、ここまでの激情をブレンドしようと思った作者を褒めるしかないんだろう。話の流れとか、言葉一つ一つとか、そうした部分以上に、ずっと感情を揺さぶるものが込められていると感じてしまう、あんまりに強烈すぎるセリフだと思う。

共通の意味深だったどのイベントにも、恵麻Trueのファミレスにも、微塵も描かない。賢くて先回りしていつも優位を保って。そんなキャラにみえていた彼女の、溜めに溜め込んだ感情の、内面の爆発ともいうべき発露。

「二年間、一緒にいて…
 はじめて、支えて欲しかった日だったのに」

「それから何度会っても、全然気づいてくれなかった!
 …恵麻さんの怪我はすぐ気づいたのに!」
 必死で隠してたんだ…
 気づかれないたびに、ほっとして、落胆して…
 そして、絶望してたんだ。

「好きだから、好きだから、大好きだからっ!
 仁が、憎いよぉっ!」

里伽子√

好きの反対は無関心なはずだから、憎いのはむしろ感情の正しい方向で。テキストにあるとおり、ほっとして、落胆して、恵麻と自分の差に、現実に絶望する。
ここまでのゲーム内容を通してまざまざと見せつけられていたから、恵麻との関係も里伽子の表面上の態度も見てきたから、人の心情ってこんなに表現することができるんだと思ってしまうくらい、心に刺さる。

ここの全てをひっくり返す伏線回収の何が本当にすごいって、共通だけでなくてほかの個別も巻き込んでいることでも、ここまでのゲーム体験を破壊していることでも、そのための真相を読ませない意味深で自然な描写でもなくて、たった一点、里伽子の内面を描写するためだけに使われているところだと思う。
単に謎が解ける快感なんてものでは到底なくて、ようやく明かされたものが、とても身近なヒロインの、とても言葉にできない絶望でしかないから、強烈な、激烈とさえいえる体験になる。これを見て里伽子を救いたいと思わない人なんているんだろうか…。

ちょっと冷静になると分かるけど、仁が悪いとはいいきれないし、状況の過酷さを脇に置けば、リハビリから逃げているのも絶望しているのも、里伽子個人の問題、独りよがりで面倒くさい部分といえなくもない。
でも、だからこそ、このヒロインも、この場面も際立っている。素直じゃない、こんなに面倒くさい、愛が深すぎるヒロインを描くために、物語全部を伏線につかう。どう考えてもやりすぎなんだけど、出来たものが極上のテイストなんだから文句もいえない。ライターの方の面倒くさい女にかける情熱の賜物なのか。凄すぎる。

大好きだから、憎い。一見すると訳分からないこの表現がこんなに腑に落ちてしまう。多分、こんなに相反してそうな感情を納得できる場面なんてこの先もそうそうないと思う。

 俺が無意識に差し出した手を、
 里伽子は、払いのけた。
 ………左手、で。

里伽子√

最後の「さよなら」もその手前の「ごめん。やっちゃった」もいろんな意味でキツいんだけど、より強烈に感じたのは、拒絶を示す手の表現。
続くテキストでも書かれるとおり、その払いのける手に力のないことが、強さが込められないことが、あえて左手を出す彼女の決意や想いが、どこまでも重い「痛み」になる。

これを書きたいがために、ここまでの伏線やら設定やらを作ったのではないかと錯覚したくなるほど、優れた表現になっていると思う。
(こんなに秀逸すぎる表現、ほかにみたことないと書きたいところだけど、別メーカーの2001年初出の夏の傑作でめちゃめちゃ印象に残っている場面と被る。ヒロインの想いのベクトルの向きは逆だけど、弱さによって表現するところは同じ。)


夢のその先。

「後悔しないわね?」
「果てしなく後悔したから、やるんだよ」

里伽子√

先回り。大学にも、実家にも、病院にも。復学する理由も、お店と大学の両立も、既に実現してくれた人がいるから、単に状況を厳しく書くだけならそれを解決しようとする主人公の行動はいかにも作り物っぽく見えてしまうかもしれないけど、そういう解決が頑張り次第では不可能ではないと実際にやってしまっているヒロインがいるから、説得力も、物語上の意味も感じられる。
仁の決意が語られる上のセリフが好き。恵麻とのやりとりで出てくるのもポイント高い。


「仁は正しいんだよ…あんたは、家族思いのいい子だよ…
 ただ、あたしが逆恨みしてるだけなんだよ」

「ごめんね仁…でも、許さない。
 大好きだけど…顔も見たくないの」
「わかったから…もう、近づかないで。
 あたしに…関わってこないで」
「お願い…」

里伽子√

手術、リハビリ、低い治る可能性。でも、それだけではない絶望する理由。
一番支えてほしいときに裏切られた、心に負った傷。
逆恨みだと自分で自覚していて、ごめんねと自分から謝るのに許さなくて、本当は相手のことをめちゃくちゃ気にしているのに、関わってこないでと「お願い」する。こんなに、こんなに面倒くさい性格なのに、どうしてこうも魅力的なんだろう…。

「そんなの無理に決まってるでしょ?
 だって、あたしはもう、
 あんたの役には立たないんだよ…?」

里伽子√

外堀から埋めて、弱みに付け込んで、卑怯なプロポーズ。正々堂々とか、男らしさとか、そんなものとは真逆なのに。里伽子がやりそうなことを仁がやっているからなのか、セリフにも地の文にもどこにも書いていないのに里伽子への愛に溢れていると感じられる。
面倒くさい女と察することができなかった男が、一度離れてまたくっつくだけの、ありふれた、どこにでもありそうな物語。筋書だけみたっておそらく絶対面白くなさそうなのに。なんでこう、くっそ堪らない話になるんだよ。

「あたしはもう、そんなに強くなくなった…」
「仁のためなら何でもできるとか、
 いつか報われる時が来るとか、
 そういうこと、信じられなくなった」

里伽子√

Normal EDで先に結末を見せるのは、仁の将来のイメージ、ビジョンということだろうか。その未来予想が回想として使われる。Normal EDがまだ実現していない、叶っていない夢にみえる演出。TrueのEDで差分がつくことで現実になったことが分かる描き方も嬉しい。
同時に、作中ずっと完璧で、外堀を埋める策略が上手で、はっきりとした弱みを見せてこなかった里伽子の牙城が崩れるタイミングでもある。彼女の、仁への想いが、自分の芯の部分が信じられなくなったこと、弱音の吐露。外側は面倒くささ120%にみえるのに、だからなのか内面は驚くほど素直で純粋で融通きかないけど真っ直ぐにみえる。きっと、仁がこれだけ想いをぶつけてくれて、それを受け取れないわけないと、嬉しくないわけないと本人も思っているはず。でもそこに至る内面の変化を、テキストでもセリフでもなく、未来の回想によって、読み手にこうなってほしいと感情移入させる見せ方によって、あくまで仁の視点から描く。
初見のときは感動しっぱなしで考える余裕はなかったけど、里伽子の想いを変に大げさに書いてないところが無性によくて、巧くできていると感心してしまう。

「本当に…本当に…」

里伽子√

『夢のその先。』が流れる。「だから俺の家族になれよ!」と切り出したところで一度音楽が『暖かい空気に包まれて』に変わってからの、二段構え。曲も、曲名も、この瞬間の為にあるかのように感じてしまう。

「しょうがないなぁ………仁はぁっ!」

里伽子√

ちゃんと一言ずつクリックさせて見せてくれる。
家族を大事にするという自分の信念も曲げず、でも里伽子を救うために、もっと家族を大事にすることに解決を求める。この書き方、流れが堪らない。


着替えさせただけなのに

伏線と左手を使った拒絶、卑怯なプロポーズ、どちらもとんでもない良い場面なのだけど、でもこの√で一番好きなシーンはこのあと。証明して、という里伽子に彼女のお願いを叶える場面。

「スカート、短いでしょ?
 こうすると、見えちゃうでしょ…っ?」
「み、見せる、なよぉ」
 二人とも、変な顔、してる。
 ただ、着替えただけなのに。
 ただ、着替えさせただけなのに。
 なんで、こんなに一所懸命、見つめあって、
 涙を、ぽろぽろと零さないといけないんだよ…

里伽子√

里伽子が手縫いでつくったプロトタイプの制服。結局、仁しか着ているところは見ていない。もう着る機会のない、目的も役割も果たすことのできない制服。
着替えさせてと淡々と命じる里伽子と、受け入れる仁。袖、首、頭と、服だけでなくパーツもすべて。これからの二人の生活がイメージされるだけでなく、淡々としているのに、二人がこのうえなく通じ合っていることが感じられるような、そんな一つ一つの動作と独白。とても丁寧な描写。

始まりの象徴ともとれるこの制服をあえて使うことで、一つの終わりが描かれる。

「ごめんね、戻って来れなくて…
 お店、手伝えなくって、ごめんね」

里伽子√

想いが、本音が溢れる。
壊れてしまった里伽子の人生。再生へと変わる瞬間。それが「諦め」によって表現される。
腕の感覚は戻ってない。でも仁が踏み出し、受け入れることによって、時間が動き出す。だから、止まっていた時間が終わるから、里伽子が想いを吐き出せる。
もうどうしようもないことも、諦めも、受け入れていただろうに。それでも想いが溢れて止まらない。ファミーユへの想い。自分こそが力になりたかった想い。

どうにも出来ないことが、時間が動くことで、実感、真実になる。認めないわけにはいかない。
ただ制服に着替えさせただけの、見つめ合って、涙をぽろぽろとこぼす二人の描写がたまらなくよい。込められている意味が深すぎる。

「チーフ、だったのに、
 責任、果たせなくなっちゃって、ごめんねぇ」
「大丈夫、大丈夫、だから…
 お前が育てた、みんなは、
 ちゃんと、受け継いだ、から」
「それも…寂しいよ、
 本当は、ずっと戻りたかったんだよ。
 みんなのところ、帰りたかったんだよ…っ」

里伽子√

なんでファミーユに戻ってきてくれないのか?仁も、プレイヤーも思ってたはず。
でも本当は本人が一番、誰よりも、戻りたかったはずで。けれど戻ることは叶わない、その大きな想いをずっと抱いていたことが真っ直ぐ表現される。火力が凄まじい。ここに至る前にあれだけ彼女の想いを描いているのに、この本当の意味での終わりがあって、諦めとともに再生が始まる描き方が秀逸過ぎて困る。なんであの拒絶やプロポーズを超えるクライマックスがさらに作れてしまうんだ。もうここはバグの一種でいいと思う。

だから、続く仁の「家族」を迎え入れる一言はどこまでも、深く、優しく、あたたかい。

「おかえり…
 ようこそ、ファミーユへ」

里伽子√



本当にずるくて

里伽子√も里伽子も作中で本当にずるくて、これを見た後に意味が分かるシーンが多すぎる。

  • 大学や授業中の態度。

  • 里伽〇もんでの仁の姉スキーに対する愚痴。

  • バーでの涙。

  • 仁の料理の試食に出てくる右手というテキスト、食べる姿を見せず、お腹が苦しいのにやせ我慢するセリフ。 etc.etc.

共通だけでなく、上にも書いたようにどの個別でもちゃんと仁を想った行動が描写されている。

  • 明日香ちゃんへの自虐的な態度。

  • かすりさん、由飛、玲愛、それらの√での、仁に幸せになりなよというセリフ。

  • コンタクトができない事や腕が動かないことを隠すようなお茶目なプリントの受け取り方と、仁との食事を断る態度。

  • 玲愛√での由飛との会話の「………」。一勝すらできない自分。

  • 恵麻√での、相手が恵麻だから仁の前で涙が零れてしまう姿と、恵麻の土下座の意味。EDでの、事情が分かっているともとれるやりとりや独白。

特に好きなのが、個別1回目のエ◯シーンの両手を縛らせる里伽子。
マニアックなプレイにみせかけて、一枚絵がとても美しいと見せかけて、そこに意味が加わる。両手をきつく縛れば、片方の腕だけ動かすことでも自然に肩に手をかけてキスができる。

蛇足は以上です。

お疲れ様でした!またお越しください。


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