韓国における教員の労働問題
昨年7月18日、ソウル市瑞草(ソチョ)区所在にある公立小学校で、A教師(24歳)が自ら担任を受け持つクラスの教室で自死する事件が起きました。特に韓国では、保護者からの無理難題(モンスターペアレント問題)、生徒からの暴行、教師一人に問題を解決させようとする公教育界の長年にわたる問題、加重な労働など、教育現場における多くの問題が議論されてきていましたが、この度の事件をきっかけに、「教権」の回復を求める教育現場の声がより一層高まっています。
その後の調査で、A教師については、保護者トラブルがあったことは認定されませんでしたが、人事革新処(韓国国務総理直属の中央行政機関。2014年に行政自治部(内務省に相当)から人事関連の職務を分離して新設された。)は、2024年2月27日、A教師について殉職認定(公務員災害補償法の基づき、公務員が公務上の負傷や病気で在職中に死亡した場合、または退職後に病気や負傷で死亡した場合、殉職と認定される。殉職した公務員の家族は、殉職遺族給付を受けることができる。)をしたとのことです。
―国会前集会
ある教師の呼びかけで、A教師の自死事件直後から、毎週末国会前で集会が行われるようになり、この集会は現在も定期的に続いています。2023年9月2日には20万人もの教員、保護者、学生などが集まり、モンスターペアレント問題にとどまらない、様々な教育現場の問題点を訴えたといいます。
特に、A教師の四十九日にあたる翌4日には、『公教育を止める日』と命名された区切りの集会が開催されました。この日は平日でしたが、教師たちは自身の休暇を使い参加し、主催者側によると、国会前だけで5万人、全国で10万人が集まったといいます。
壇上に上がった小学4年生の生徒は「わたし以外にはみな学習塾に通い、先行学習(先取り学習)をしている。授業中に先生に対し面と向かって『つまらない』、『もう習った』と言う場面が、1年生から4年生になるまで繰り返されてきた。亡くなったA先生もこうした問題に悩まされていたのではないか」と話しました。
また、昨年高校3年を受け持ったという先生は、「270人を受け持ったが、それぞれに500字の評価をしなければならなかった。それだけで13万字になる。また、それを書く過程で保護者からは『こう書いてくれ』と言われ、書いた内容については『なぜこう書いたのか』と言われ苦しんだ」と過剰な労働や批判にさらされる事情を明かしたといいます。
―教員の心身の健康に関する調査
『韓国教育新聞』の記事によると、2018年から23年6月までに自ら命を絶った教師は100人にのぼるといいます。この内70人は「原因不明」とされていますが、教師の精神的ストレスの増加が影響していることは明らかだとのことです。
『全国教職員労働組合』と『緑色病院』が発表した幼稚園・小中高教師3505人を対象に行った実態調査の結果では、38.9%が重度の鬱症状に陥っているとの結果が出ています。これは、一般成人の4倍にあたる数値です。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/61fe674e42aface3b3e6c66fcb550a69c295bb55
―「教権保護4法」の国会通過
A教師の事件をきっかけとして拡大した、教員の権利を考え直し教員たちの命と健康を守ろうとする社会運動の後押しもあり、韓国の国会教育委員会は、2023年9月13日、国会本庁で法案審査小委を開き、教員の地位向上および教育活動保護のための特別法(教員地位法)、教育基本法、小·中等教育法、幼児教育法を議決しました。立法の核心は、教師が児童虐待疑惑で申告された場合にも正当な理由がない限り職位解除処分を禁止し、教育活動を侵害された被害教師に対する費用支援業務を学校安全共済会や民間保険会社などに委託できるようにした内容だということです。
これらの法案は合わせて「教権保護4法」と呼ばれ、同月21日に正式に改正案が国会にて決議されました。
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=217322
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=217467
(教権保護4法の内容について、次回につづく)