幸せの域値が下がってゆく
久しぶりに父の話させてください。
その後も全く良くない。
3ヶ月ほど前のこと。
肝臓の癌が大きくなってきて胆管が詰まるようになり、そうなると頻繁に熱を出すので、体外に胆汁が出て行くことができるようにチューブをつける処置をした。
胆汁を溜めておくバッグを持ち歩いていた。
そうなってからはあっという間だった。
今はもう自力で動くことができず、朦朧としていて意思の疎通もなかなか取れない。たまに目は合うけれど会話はできない。好きだった本も読めない。
痛みがひどいらしく、意識が無いながらもよく顔をしかめている。
悪い夢を見ているようだと母が繰り返し言う。
これでも当初は完治を目指していたのだ。一年前。
大手術の後しばらくして肝臓の中で再度発見されてからというもの、ゆっくりゆっくりと進行してきた。(転移なのか元々居たのかはもう定かではないみたい)
だんだん小さくなってくれればいいな。
このまま大きくならなければいい。
穏やかに過ごしてくれたら良い。
苦しまないでほしい。
希望はどうしても捨てられなかった。つい最近まで。
もしかして癌の成長が止まっていたりしないだろうか、とか本気で考えていた。
癌がきれいさっぱり消えました!奇跡!みたいな、
それ本当なの?というような話。
インターネットなんて匿名でも何とでも書ける。嘘だろ。あほらし。と思っていた。
一方で、そんな話をすごく信じたかったし本当は望んでいた。
たとえ嘘でもわずかばかり希望を与えてはくれたからそういう話も案外無駄ではないのかもしれない。
どうにかなる人はもちろんいる。
運良く完治したり、なんてことなくそのまま自然死に近い形で生涯を終える人もいる。
父はどうにもならなかった。それだけのこと。
悔やんだってどうにもならないのだ。
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