都市の緑は熱中症での死亡を減らすために重要な役割を果たす
case|事例
今年の夏はこれまでの最高気温を1週間で2度更新するなど、異常に暑い夏だった。温室効果ガスの排出によって地球は確実に暑くなっており、その対処が急がれる。これまで緑地の全体的な便益は十分に確認されてきたが、健康リスクとの関連は未だ解明されていない点が多かった。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究チームは、BMJ Openに発表した論文で、これまでの既往研究をメタ分析し、都市の緑が気候変動を原因とする病気や死亡を減らすうえで重要な役割を果たしていることを明らかにしている。分析対象とされた研究は、2000年1月から2022年12月までに英語で発表された論文3,000本のなかから12本が選ばれレビューされた。疫学的な研究からモデリングやシミュレーションを行った研究、実験研究まで多様な分野の論文が含まれている。
メタ分析の結果、公園や樹木などの都市の緑地が、暑さによる健康への悪影響を相殺しており、 緑地が多い地域は、緑地の少ない地域よりも暑さによる体調不良や死亡の割合が低く、特にそれは脆弱なグループにおいて顕著であることが示された。また、都市の緑地は健康リスクの軽減に限らず、精神衛生の改善やwell-beingの向上にも寄与することも明らかにされ、都市計画において公衆衛生を改善するために公園や街路樹などを増やすことが提言されている。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標11では具体的なターゲットの1つとして、2030年までに、子どもや高齢者などの社会的な弱者に対して特に、安全で利用しやすい緑地や公共空間へのアクセスを確保することを定めており、今回の研究はその妥当性の根拠となる。
insight|知見
当コラムでも何度か紹介をしていますが、緑の価値を再評価し都市の緑化を進めている事例が増えてきています。一方で、日本の都市はちょっと遅れをとっているように感じてしまいます。
かつて、福岡都心部では、けやき通りや博多駅前通りをはじめ、十分な緑陰が形成され、日差しを気にせずに歩くことが出来ましたが、今では道路整備や沿道の開発でその貴重な環境も失われつつあります。福岡でも緑の価値を見直してほしいですね。