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新築よりも改修の方がCO2排出量の削減効果が高い

case|事例

ノートルダム大学の研究者らが、シカゴの100万棟以上のビルを対象に分析を行い、既存建築物のレトロフィットや改修の方が新築するよりもオペレーショナルカーボンとエンボディードカーボンの両方でCO2排出量の削減効果が高いことを明らかにした。建物の改修によって建物の寿命を50年から70年もしくは80年に延ばし、建物のサイズを20%小さくすることでCO2排出量を3分の2におさえることができる等の結果が示されている。現在、開発した手法をヒューストンやデンバー、ワシントンD.C.に適用しており、2025年末までに全米の主要都市圏の分析を終え、CO2排出量の全体像が把握できる予定だという。

研究の背景には、建物全体のエンボディードカーボンの算出の難しさがある。特にビルのストックを測定する方法の欠如や全米の統一された建物レベルのデータの欠如、エンボディードカーボンの性能評価のためのベンチマークの不足などが課題となっている。また各州で人口規模や人口密度、市場需要が異なることも分析を難しくさせる。

今回の研究では、機械学首とAIを用いて既存データを統合し分析用のデータセットを開発した。この際、位置情報を用いて異なるデータタイプをマッチングし、構造材料や屋根のタイプなどに分類している。都市スケールでみると石積みの壁と構造と地下基礎、砂利やタールを用いた屋根の建物が最もライフサイクルでみた際のCO2排出量が大きい。これはルーフトップの材料に起因している。一方で、全体の29%を占める木造の壁と構造で地下室があり板屋根を持つ建物が最も排出量が少なかった。

ビルのライフスパンを考えると既存建物のリノベーションの方がライフサイクル全体のCO2排出量が有意に小さい。たとえ新築建物のエネルギー効率が高くても既存の建物を壊して新築することは環境的にはほとんど意味がない。しかし、商業ビルの改修については課題がないわけではない。インセンティブの不一致や投資回収期間の長期化、規制、専門知識や専門家の不足などが改修を妨げる足かせとなっている。加えて、オーナーとテナント、投資家、建設事業者などの多様なステイクホルダーの複雑な調整も高いハードルと言える。エネルギー削減を長期的なコスト削減を目的に行う場合、ビルの環境性能の向上は不可欠で、意匠改修のみの場合は排出量増加を招くことになる。

insight|知見

  • 福岡でも天神や博多で再開発プロジェクトが目白押しです。一方で、建築資材や人件費の高騰によって開発にかかるコストの増加が続いています。今後、東京や大阪を除く政令指定都市や地方都市では、需要の不足によって容積がインセンティブにならないケースも想定されます。

  • このような状況下では、容積緩和型の再開発による都市再生だけでなく、改修・リノベーションによる都市再生も検討する必要があるように思います。この記事で言われているように新たなインセンティブや規制の検討が必要なように思います。