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都市を良くするための5つのステップ
case|事例
(バンクーバー市元チーフプランナーBrent Toderian氏の2018年の論考)
私が世界中で行っている先進的なアーバニズムのアドバイスのほとんどは都市をより良くすることを支援するという最も単純なことだ。近年の都市の成功事例を紹介することも価値のあることだが、皮肉なことに長い間偉大であり続けている都市を例に出すと、「あの都市はすごいけど、自分たちには真似できない。」と批判者は容易に比較対象からその都市を除いてしまう。また、偉大な都市でさえ、過去数十年あるいは数百年になされた賢明な判断にあぐらをかき、今の栄光に容易に安住しうる。それは以前のNYCやパリをみれば明らかである。
偉大かどうかに関わらず、都市の改善のために大胆で創造的なことを行っている都市は注目に値する。「より良い」とはどういうことかは議論の余地があるし、良し悪しについて概ねの結論が出ているにも関わらず間違った選択を行う都市もあるが、すべての都市が学習曲線を描き、改善を試みている。より明確なビジョンを持ち、良い方向に進もうとしている都市でさえも、「どのように」実現するかには苦労をしがちだ。成功の道は一直線ではない。学習曲線のあらゆる地点にある都市と長年仕事をしてきた結果、都市を良くするためには5つのステップがあることを見出した。
STEP1|間違ったことをする:残念なことに多くの都市が依然としてこの段階にあり行き詰っている。ダラスからメルボルンまで、未だに都市を貫く新たなフリーウェイを建設したり、道路を拡幅したり、低密度で自動車依存型の分譲地造成やショッピングセンター開発をしたりしている都市を思い浮かべてほしい。これらが悪い慣行であることを示す費用の試算や評価結果が十分にあるにもかかわらず、政策の誤りやサイロ思考、リーダーシップの欠如によって、間違ったことをやり続けている。より良い都市になるためには、良いことをするだけではなく、悪いことを止めなければならないが、これはとても難しい。
STEP2|間違ったことを「より良く」行う:都市はこれまでのやり方を変えないために、並外れた労力とエネルギーを注ぐことができるため、間違ったことを改善する方法を見つけることに満足してしまうことは難しいことではない。もし、電気自動車や自動運転車が数年後に普及するから公共交通への投資は必要ないとの主張が好例だ。都市デザインの文脈では、美しい中央分離帯を備えた高規格の幹線道路や景観に凝った巨大な平面駐車場なども例示できる。このような主張や考えは、よりよい土地利用やマルチモーダルインフラへの投資といった賢明な基本的な解決策から、意思決定者の注意をそらす可能性がある。
STEP3|両方を同時に実現する:この段階の都市は、公共交通や自転車インフラのような良いことに投資をはじめ、土地利用などについて適切な政策を導入し始める。しかし、同時に間違ったことを続け、それらの割合が大きい傾向にある。デンバーがLRTの新線を建設すると同時に、その横の幹線道路を拡幅し、LRT駅に巨大な駐車場を整備したことが好例のひとつだ。ブリスベンもBRTへの投資やWFの幹線道路の高架下の自転車レーン整備を進める一方で、交通に関する予算の大半は自動車の運転のしやすさの向上に充てられている。この段階で行き詰っている都市は公共交通への転換などの進歩が得られないことに不満を抱くことが多い。しかし、それはビジョンの実現に向かって困難な選択を避けていることに起因するので驚くべきことではない。
STEP4|正しいことを間違ったやり方で行う:正しいことを間違ったやり方で行うことは何もしないことよりも悪いことだろうか?デザインが熟慮されていないもしくは、成果が期待できない自転車レーンや公共交通の実証実験を考えてみよう。失敗や成果が得られなかったことがその後の意思決定にどのような影響を与えるだろうか?確かに散々な結果の場合、アイディアが数年、もしくは一世代後退することもある。しかし、戦略的で賢明な都市は、創造的なリスクと迅速な学習を受け入れる文化の中で、よく考えられた実証、あるいは単に日常的な有能な失敗からも学んでいる。物事を学び、修正することをより機敏に行うことは、多くの市役所が必要とされる文化である。しかし、その間に間違ったことをよりよく続けるよりも、正しいことを下手に行う方が意味がある。
STEP5|正しいことを上手くやる:最終的に正しいことを上手にできるようになっても学習曲線は終わらない。継続的な改善と学習はいつまでも必要だ。バルセロナやロンドン、ウィーン、ブエノスアイレス、NYC、ストックホルム、メルボルン、バンクーバー、コペンハーゲンのように一般的に成功を収めている都市の多くが、互いに競い合い、よりよくなるために懸命に努力を続けている。
https://www.fastcompany.com/90278237/5-steps-to-making-better-cities
insight|知見
6年前の記事ですが、とても納得感のある気づきの多い記事でした。福岡はどのSTEPかなと考えて読み進めましたが、STEP3ですかね…。福岡に限らず日本の多くの都市はSTEP3なのではないかなと思いました。
記事の中で、学習をして改善を続けるということの重要性が特に強調をされています。一般に社会実験では「良い」成果を期待されがちですが、失敗や成果が得られなかったことから学び、それを次にいかすことが、賢明で戦略的な都市で行われていることだというのは、その通りだと思います。市役所だけでなく、コンサルタントも議員も、まちづくりに関わる人が意識しないといけない点ですね。