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2023年のULEZの拡大は繁華街での消費需要を低下させていない
case|事例
2023年8月にロンドン市は超低排出ゾーン(ULEZ)の拡大を行った。その際に、繁華街での商業活動やホスピタリティに悪影響がでるとの危惧が各所から寄せられた。ある調査は、拡大エリアに立地する全企業の5分の1が減収に苦しむだろうと主張していた。その調査の主張は、運転コストの上昇が繁華街での消費意欲を削ぎ消費活動を妨げるという理屈に基づいていた。
今回、これらの懸念に対して、クレジットカードの大規模データを用いて、消費活動の減少実態の検証が行われた。ULEZが拡大された2023年8月29日の前後で実際に消費活動の不連続な現象がみられるのか定量的に評価が行われた。
拡大対象となったエリアの2023年全体の消費額の推移をみると、年間を通じて減少傾向がみられるものの、導入直後の不連続的な落ち込みはみられていない。また、2022年の推移と比較すると、同様の傾向を示しており、導入直後の消費額の落ち込みは、季節変動によるものと示唆される。次に、拡大対象となったエリアとならなかったエリアの2023年の消費額推移をみると、むしろ拡大対象となったエリアの方が減少は緩やかで、ULEZの直接的な影響として消費額の有意な減少があったとは判断できないことが明らかとなった。
ロンドンの大気質の悪さはヨーロッパでも有数とされているが、ULEZの導入による公衆衛生上の効果を指摘する論文がいくつか発表されている。今回の検証によってULEZが消費活動に悪影響を及ぼすことは確認されなかった。このことはロンドンの政策立案者を安心させると共に、ニューヨークなど同様な施策に取り組む都市の後押しともなる。
insight|知見
自動車での来街者が消費活動の中心であり、自動車を抑制すると地域の活力が失われるというのは、ロンドンに限らず日本でも指摘されます。一方で、自動車以外の来街者の方が消費額が多いという、これまでの神話を覆す調査研究も多々あります。
今回の調査も、自動車を抑制しても一般個人の消費活動への影響は微々たるものだという同様の結論が導かれています。記事中で指摘されているように、確かに環境政策上、ジレンマとなる自動車の扱いに対して、政策を推進するひとつの根拠となりえます。
一方で、経済格差を考慮していない点や購入品目が考慮されてない点など、特定の属性に不当に悪影響を及ぼしていないのかということはもう少し検証余地があるのかなと思いました。