気候変動に取り組むためには都市の形を変える必要がある
case | 事例
2020年のCO2排出量の72%は都市によるものと推計されている。今世紀半ばには世界の都市面積は現在の3倍まで広がると予測されており、都市から排出されるCO2をいかに削減していくかということがますます重大な課題になるといえる。最新のIPCCのレポートでは、都市の排出量削減を進めるためにはこれまでとは異なる方法で都市を作るべきだと主張している。
レポートでは、自治体のリーダーは建物の改修から廃棄物の処理に至るまで迅速な対応が必要だが、中でも特に「移動」が重要であると述べている。15分都市のように都市をコンパクトに再編する場合、25%程度のCO2削減を達成できる可能性がある。電気自動車の普及ももちろん重要な機会であるが、移動手段の電化だけではすべての問題をカバーすることはできない。そのため、自転車や徒歩での移動のしやすさ、都市サービスの近接性や密度も併せて考えていく必要がある。
都市のデザインが変われば、そこに住む人の行動も変わる。その好例がコペンハーゲンである。コペンハーゲンはかつて自転車の移動が全く主流ではなかったが、今では3分の2の市民が通勤や通学で自転車を使っている。パリもコペンハーゲンに倣って積極的に都市の改変を進めている。一方、カタチを変えるのが容易ではない都市もある。都市のカタチを変えたアムステルダムもかつては自動車文化が根付いた都市であったとはいえ、アメリカのような自動車中心型の都市で都市を再編成するのは困難を伴う。
成長の著しいアフリカや東南アジアの都市でもスプロールやカーボンロックインを抑制する支援が必要となる。都市を適切な方向に成長させるためには、適切なタイミングで適切な投資を行う必要がある。また将来に向けた視点も重要となる。途上国の都市のCO2排出量の増加スピードは先進国の都市とよりも早く、その増加トレンドは今後数十年継続するとみられている。現時点での対策だけでなく、排出量が増加する将来を見越した対策も併せて必要となる。
移動のほかにもCO2を吸収するという観点で都市の緑化も重要だ。都市の緑は74億トンの炭素を蓄えており、毎年2.7億トンの炭素を隔離しているといわれる。また猛暑や洪水など気候変動の影響へのレジリエンスも高める。都市の排出量は増加傾向にあり、何もしなければ今世紀半ばに40億トンに達すると予測されている。何よりも迅速な対処が求められている。
https://www.fastcompany.com/90737985/we-need-to-redesign-cities-to-tackle-climate-change-ipcc-says
insight | 知見
IPCCのレポートは、最近のヨーロッパを中心とした都市の変革の動きの背景のひとつを的確に説明していると思います。
都市の排出量を削減するために重要な要因として挙げられている「移動」へは、確かにヨーロッパを中心とする各国が、技術開発やインフラに積極的に投資を進めています。
一方で福岡やそのほかの日本の都市は、必ずしも世界のトレンドにあった投資を行っているようには思えません。運転士不足に起因する公共交通のサービス縮小やいまだに貧弱な自転車や歩行者のインフラは将来の交通環境が思いやられる状況に思います。記事にあるように、将来の視点を持つこと、適切なタイミングで適切な投資をすることが何よりも重要だなと思いました。