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医学生の2割が退学を検討|背景にあるメンタルヘルス問題とは?
近年、医学生のメンタルヘルス問題が深刻化しており、英国の調査では医学生の約20%が退学を考えた経験があることが報告されました。長時間の学習や実習、過酷な試験プレッシャーが精神的な負担となり、学生の健康を損なうケースが増えています。(参考:medical.jiji.com)
医療業界全体で人手不足が叫ばれる中、医学生が途中でキャリアを諦める事態は、医療の未来にも大きな影響を与えかねません。なぜ医学生のメンタルヘルスが危機に瀕しているのか、日本とイギリスの環境の違いも交えながら考察します。
英国の医学生の現状
医学生の2割が退学を考える理由
英国の調査によると、医学生の退学検討理由には以下のような要因があります。
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特に、英国では医学生が高額な学費を負担しなければならないため、経済的負担が大きいことが一因となっています。
英国の医学部は、バッキンガム大学を除き、すべて国立大学として運営されています。しかし、学費は年間約120万円と、日本の国立大学の年間約50万円と比較して高額です。さらに、外国人留学生の場合、学費はこの2~3倍、に達するとされています。(参考:ishin-kai.info)
このように、英国の医学部の学費は非常に高額であり、学生にとって大きな経済的負担となっています。特に、留学生にとっては学費がさらに高く設定されており、年間で約240万~360万円、6年間の総額では約1,440万~2,160万円に達し、日本の私立大学の医学部に匹敵する額になります。(参考:ishin-kai.info)
医学生は平均で約50,000ポンド(約900万円)以上の借金を抱えて卒業することが一般的です。
このような高額な学費は、学生やその家族にとって大きな経済的負担となり、返済の難しさが問題となっています。
日本と英国の医学生の環境の違い
学費と経済的負担
日本の国公立大学の医学部は、6年間の学費が約350万円程度であるのに対し、英国の医学部は年間約3,000〜9,000ポンド(約50万〜150万円)の学費がかかります。さらに、留学生などではこれが大幅に増加し、経済的な負担が退学の一因となっています。
研修環境の違い
日本では、卒業後は2年間の初期研修医期間があり、指導医のもとで実地研修を行います。一方、英国では医学生は5〜6年の課程を修了後、Foundation Year(F1/F2)と呼ばれる研修期間を経て本格的な医師として働き始めます。
英国ではこの研修期間も非常に過酷であり、ワークライフバランスが悪化することが指摘されています。日本の初期研修医制度も労働環境は厳しいですが、英国では医師不足が深刻化しており、研修医の負担はさらに大きいといわれています。
医師の待遇の違い
英国の医師の給与は、日本と同程度がさらに低いことが課題とされています。
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英国ではコンサルタント(専門医)になってもその年収は約40,000〜97,000ポンド(約770万〜1,870万円)と報告されています。 doctor-overseas.com日本の医師の平均年収は診療科や経験年数によって異なりますが、一般的には約1,000万〜2,000万円とされています。 epilogi.dr-10.com
英国の医師は給与水準が日本と大きく変わらないものの、生活費や学費の負担が大きく、結果として待遇に不満を持つ医師が多いことが特徴です。
日本の医学生の現状
日本における医学生のメンタルヘルスに関する調査結果
日本においても、医学生のメンタルヘルスに関する問題が注目されています。特に、医学部の過密なカリキュラムや試験のプレッシャーが学生の精神的負担となり、抑うつ状態や退学願望につながるケースが報告されています。
2023年12月から2024年3月にかけて、日本全国の医学生2,301名を対象に行われた調査では、13.1%の学生が「死んでしまいたいと思うことがある」と回答しました。この結果は、医学生のメンタルヘルス不調が無視できないレベルで存在することを示しています。igakuren.jp
また、別の研究では、医学生の退学願望と睡眠時間、メンタルヘルス不調、メランコリー親和型性格との関連性が指摘されています。特に、睡眠時間の短さや特定の性格特性がメンタルヘルス不調と関連し、退学願望を抱く要因となる可能性が示唆されています。jsomt.jp
他学部学生との比較
医学生は他学部の学生と比較して、退学率は低いものの、自殺率が高い傾向があるとの報告があります。その理由として、実習や試験などの過密なスケジュール、医学部特有の閉鎖的な環境、人間関係のストレスなどが挙げられています。note.com
医学生のメンタルヘルスの課題は解決できるのか?
医学生のメンタルヘルスの悪化は、日本でも例外ではありません。ストレスマネジメントのために、以下の対策が求められています。
メンタルヘルス対策事例
1. マインドフルネス実習の導入
医学生のセルフケアとして、マインドフルネス実習が取り入れられています。この実習は、学生が自身の感情や思考に注意を向け、ストレスや不安を軽減する効果が期待されています。jstage.jst.go.jp
2. メンタルヘルスリテラシー教育の強化
医療系学科の大学生を対象に、メンタルヘルスに関する知識と適切な対処方法を学ぶ教育が行われています。調査によれば、約35%の学生がうつ症状に関する適切な知識を持ち、専門家への相談など適切な対処行動を選択する傾向があることが示されています。researchmap.jp
3. 低学年医学生への生活支援
医学部1、2年生を対象に、生活状況の調査を行い、早期からの支援体制を整備する取り組みが進められています。これにより、学生の生活上の問題やストレス要因を把握し、適切なサポートを提供しています。jstage.jst.go.jp
4. 臨床実習中のストレス対策
臨床実習中の学生のストレスを軽減するため、実習内容の見直しやサポート体制の強化が行われています。具体的には、実習前のオリエンテーションやメンタルヘルスに関する教育、相談窓口の設置などが実施されています。watemed.repo.nii.ac.jp
これらの取り組みを通じて、医学生のメンタルヘルスの維持・向上が図られています。今後も、学生一人ひとりが安心して学べる環境づくりが求められます。
その他今後より必要とされるもの
経済的支援の拡充
奨学金制度の充実(学費の一部免除や、返済不要の奨学金の増加)
アルバイトをしながら学ぶ負担を軽減するための制度設計
ワークライフバランス・給与等待遇の改善
過剰な勤務負担を軽減するための制度見直し
当直等夜間対応等への十分な報酬等給与体系の見直し
過労死を防ぐための労働環境整備
カスハラ対策
医療従事者が患者から不適切な扱いを受けることを防止する施策
医療訴訟対策
不適切な医療訴訟によって、医師が不当に拘束、世間から中傷されることを防止する施策
まとめ:医学生のメンタルヘルスを守るために
医学生のメンタルヘルス問題は、日本・英国を問わず深刻化しています。特に、英国では高額な学費と過酷な研修環境が、退学率の高さにつながっていることが分かります。
日本でも、医学生が精神的・経済的な負担に悩むケースは増えており、学費負担の軽減やメンタルヘルスサポートの充実が今後の課題となります。
今後、医療の質を維持し、より良い医療体制を築くためには、医学生の精神的健康を守ることが重要です。大学や医療機関だけでなく、社会全体でサポートの仕組みを整えていくことが求められています。