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天畠氏の「あかさたな話法」はAACなのか

先日(2024年9月)、オーストラリア知的障害協会がFC/RPM/S2C使用反対声明を発表した。

https://asid.asn.au/wp-content/uploads/2024/09/Sept-2024-Final-Position-Statement-on-FC-and-RPM-13-July-202475.pdf#page=13.87

オーストラリア知的障害協会の声明は現在のFCを巡る複雑な問題に簡潔な回答を示している。『コミュニケーションの権利を守る』セクション下に『コミュニケーションの共同生産または共同構築は、様々な支援的コミュニケーション方法において生じる』(Co-production or co-construction of communication occurs in a variety of assistive communication strategies)というサブセクションがある。このサブセクションは、天畠氏に使用されている「あかさたな話法」が拡張・代替コミュニケーション(Augmentative and Alternative Communication: AAC)として適正なのか、聴覚走査法として障害者に安全に機能しているのか、適正な共同作業であるのかを考える上で非常に興味深い。以下に要約を示す。


コミュニケーションの共同生産または共同構築は、様々な支援的コミュニケーション方法において生じる

発話がほぼ不可能または全く不可能な人のためのコミュニケーションに、第三者(介助者)が関与する技法はFCとRPMだけでなく、AACの技法として存在する (Johnson et al., 2012)。オーストラリア知的障害協会は、どのような形のAAC技法も、その人自身の声を反映するものであるべきということ、AACとしてのインテグリティを確保することを推奨している。そのためには、コミュニケーションを支援する介助者の役割の観察し認識する必要がある。また、その役割を記録する必要がある。

介助者がメッセージの共同生産に関与するコミュニケーションの例として以下のものがある:

  • 発話の解釈

  • 視線による指示の解釈

  • 選択肢作成のための項目の事前選択

  • 文字盤やコミュニケーションブック上の項目を見つけるためのプロンプトやヒントの提供(例:本のページをめくる、シンボルや絵をマット上の特定の位置に移動させる)

  • メッセージのエンコード(例:赤が「日常活動」、青が「感情」、緑が「要求」など、色や数字が特定の単語群やメッセージのレベルを表す場合、介助者は本人が選択した色や数字項目の解釈を行う)

  • 非意図的コミュニケーションの解釈(例:大きな音に対する体の硬直などの反応を解釈する)

そのような多くのコミュニケーション技法は理論的に適正であり、強いエビデンスに基づいている (Ganz et al., 2024; Holyfield et al., 2017; Iacono et al., 2016; Logan et al., 2017, 2022; Lorah et al., 2022, 2024; Sievers et al., 2018; Syriopoulou-Delli & Eleni, 2022)。他方、エビデンスベースが形成されつつあるものや強固なエビデンスベースに欠けているものもある (Mirenda, 2014)。

いかなる形式のAACを使用してメッセージを共同生産するにしても、当反対声明に即し、介助者の役割を確認すべきである。AACを使用して生成されたメッセージへの介助者の影響がすべて認識され、影響を受けた部分が特定され記録されるべきである。メッセージが本当に本人によって綴られているという自律性が客観的かつ確実に立証されない限り、共同生産を通じて生成されたメッセージを、その人の欲求、ニーズ、見解、経験、または選択を反映しているものとして扱ってはならない。

重要なのは、AACを使用してメッセージを共同生産する際に生じる介助者の意識的または無意識的な影響から、知的障害のある人を守ることである。障害者を介助者の影響から守るには以下の方法がある:

a) ひとつだけでなく複数のコミュニケーション手段(本人とメッセージ照合可能であると立証できている自律したコミュニケーション手段を最低限ひとつ含める)を確保すること
b) 多様なコミュニケーション・パートナーから支援を受けること
c) メッセージを生成する際にプロンプトやヒントに頼らないこと

AACを使用して作成されたメッセージの自律性とオーサーシップを確かめることは、AAC臨床家、支援者、サービス提供者の最優先事項である。メッセージへの介助者の影響が特定され、認識され、自立したコミュニケーションへのアクセスを目指し適切な対応をとることが重要である。


天畠氏に使用されたあかさたな話法はAACとして適正か

天畠氏の博士研究指導教員である立岩氏によると、天畠氏を著者とする論文について、“どれだけと確定はできないが、彼は寄与している”(立岩, 2018)と述べるにとどまり、天畠氏にオーサーシップが帰属する範囲が不明であるとしている。さらに、天畠氏を筆頭著者とする別文献では、天畠氏の論文執筆においては ”障がい者の自己決定よりも、介助者が障がい者本人にとって利益になると判断した選択肢や結論を、本人が決定するよう働きかける有り様である”とされ、“筆者の論文執筆においては、通訳者の「誘導」は不可避と言わざるを得ない”とする記述があり、介助者が主導してメッセージを紡いでいるとしている。

天畠大輔氏の博士論文の成果の一部として公開された単著論文(天畠, 2020)によると、天畠氏の博士論文執筆は介助者による「先読み」を伴い、その内容は介助者が変わるたびに変化し、再現性に乏しいと明記されている。立岩氏も、“博士論文のような、論理を展開してく長いものを書こうとする場合、たんに文字列を予想するだけでなく、通訳者はときに先に続く論を提案する”と述べ、「先読み」には株式会社に喩えられるチームが天畠氏の博士論文執筆に組織的に関ったことを明らかにしている。介助者が変われば天畠氏のアイデンティティは変化し(天畠, 2021)、アイデンティティは日替わりとされ、どの通訳者と協働するかによってテキストの内容が左右される(天畠, 2022)とされている。

天畠氏は14歳で障害を負った後、IQが30と測定され、医師は天畠氏の知能を幼児程度と判断した(天畠, 2012)。その後、どのような検査を受けたのか、再測定されたのかといった情報はなく、知能がどの程度回復したのか、あるいはしていないのかを示す信頼性のある情報もない。

オーストラリア知的障害協会のFC/RPM/S2C反対声明に沿って、天畠氏に使用された「あかさたな話法」における天畠氏と介助者の「共同作業」のAACとしての適正さ(あるいは不適正さ)についてリスト化してみた。

介助者の役割はほぼ明確化されている。天畠氏が介助者の腕を引っ張った(とされる)ときに介助者が読み上げていたひらがなが何かを「解釈」する。それだけではなく、「先読み」や「誘導」を行い、本人の自己決定よりも介助者が本人にとって利益となるであろうと考えた結論を本人が選択するよう働きかける。

あかさたな話法は介助者の影響を受けていると認めているが、影響を受ける範囲は明確にされていない。
生成されたメッセージのどの部分が天畠氏の発信であるのかも、どの部分が介助者の発信であるのかも特定されていない。
その検証は特別な道具もラボも要さず、どこでも実施できる数分のオーサーシップテストで可能であるにもかかわらず、立岩氏ほどの障害者の人権問題に詳しいはずの人物が検証に後ろ向きであり「どこまで本人の言葉なのか分からない」と評するに留まっている。

したがって、メッセージ自律性の検証はまったく行われていない。あるいは公にされていない。

論文ではどこまでが天畠氏の言葉なのか不明であることが明かされているが、天畠氏の政治活動開始以降はあかさたな話法で紡がれた言葉は本人のものとして扱われている。

本人の自己決定は重視されておらず、「先読み」や「誘導」を行い、介助者のよしとする結論を本人が選択するよう働きかけているので、プロンプトやヒントに頼っている。

介助者と共同で言葉を紡ぐことがよしとされ、自律したコミュニケーションを目指していない。

天畠氏に複数のコミュニケーション手段は与えられておらず、あかさたな話法のみである。共同作成されたコミュニケーションが正しいか本人に確認するためのコミュニケーション手段もあかさたな話法で行われる。あかさたな話法のみなので、本人が自律してコミュニケーションをとれると立証された手段はひとつもない。これは奇妙な現状ではないか。

ボストン子供病院にて効果的なAAC提供に尽力してきたホワード・シェーン氏はすでに10年前に、身体に少しでも筋肉を動かせる部分があればコンピューターと繋がった効果的なAACを提供できると断言している。現在であれば、もっと効率的で使いやすい機器が利用可能なはずである。天畠氏は少しでも筋肉が動かせるどころか、介助者の腕を引っ張ることができる。それなのに、天畠氏は未だに人間を介した「あかさたな話法」という自律性も客観性も信頼性も期待できないコミュニケーション方法しか使わせてもらえないのだ。天畠氏が自律したコミュニケーションをとる権利を保障されていない状況は、極めて奇妙である。

天畠氏にあかさたな話法を使用する介助者は複数存在するが、天畠氏のケースにおいてそのことは天畠氏のコミュニケーション権利を守るように作用していない。オーストラリア知的障害協会が複数の多様な介助者にコミュニケーションを補助してもらうことを推奨しているのは、コミュニケーションの客観性向上および障害者がひとりの独占的介助者によって操り人形化するのを予防するためだろう。仮に、天畠氏のコミュニケーションを介助する人たちの間で、天畠氏の自律したコミュニケーションを行う権利を尊重すべきだという前提が共有されているなら、介助者によって天畠氏の人格が変化する事態に危機感を抱き、天畠氏を巡る現状を変えようと動くであろう。しかし現実には、天畠氏の「アイデンティティは日替わり」とBuzzfeedで微笑ましい話として報道されている。人権擁護のスタート地点にすら立てていないのだ。


References

Ganz, J. B., Pustejovsky, J. E., Reichle, J., Vannest, K. J., Foster, M., Fuller, M. C., Pierson, L. M., Wattanawongwan, S., Bernal, A. J., Chen, M., Haas, A. N., Skov, R., Smith, S. D., & Yllades, V. (2024). Augmentative and Alternative Communication Intervention Targets for School-Aged Participants with ASD and ID: A Single-Case Systematic Review and Meta-analysis. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 11(1), 52–65. https://doi.org/10.1007/s40489-022-00326-6

Holyfield, C., Drager, K. D. R., Kremkow, J. M. D., & Light, J. (2017). Systematic review of AAC intervention research for adolescents and adults with autism spectrum disorder. Augmentative and Alternative Communication, 33(4), 201–212. https://doi.org/10.1080/07434618.2017.1370495

Iacono, T., Trembath, D., & Erickson, S. (2016). The role of augmentative and alternative communication for children with autism: Current status and future trends. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 12, 2349–2361. https://doi.org/10.2147/NDT.S95967

Johnson, H., Watson, J., Iacono, T., Bloomberg, K., & West, D. (2012). Assessing communication in people with severe-profound disabilities: Co-constructing competence. https://dro.deakin.edu.au/articles/journal_contribution/Assessing_communication_in_people_with_severe-profound_disabilities_co-constructing_competence/20900695/1

Logan, K., Iacono, T., & Trembath, D. (2017). A systematic review of research into aided AAC to increase social-communication functions in children with autism spectrum disorder. Augmentative and Alternative Communication, 33(1), 51–64. https://doi.org/10.1080/07434618.2016.1267795

Logan, K., Iacono, T., & Trembath, D. (2022). A systematic search and appraisal of intervention characteristics used to develop varied communication functions in children with autism who use aided AAC. Research in Autism Spectrum Disorders, 90, 101896. https://doi.org/10.1016/j.rasd.2021.101896

Lorah, E. R., Holyfield, C., Griffen, B., & Caldwell, N. (2024). A Systematic Review of Evidence-based Instruction for Individuals with Autism Using Mobile Augmentative and Alternative Communication Technology. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 11(1), 210–224. https://doi.org/10.1007/s40489-022-00334-6

Lorah, E. R., Holyfield, C., Miller, J., Griffen, B., & Lindbloom, C. (2022). A Systematic Review of Research Comparing Mobile Technology Speech-Generating Devices to Other AAC Modes with Individuals with Autism Spectrum Disorder. Journal of Developmental and Physical Disabilities, 34(2), 187–210. https://doi.org/10.1007/s10882-021-09803-y

Mirenda, P. (2014). Revisiting the Mosaic of Supports Required for Including People with Severe Intellectual or Developmental Disabilities in their Communities. Augmentative and Alternative Communication, 30(1), 19–27. https://doi.org/10.3109/07434618.2013.875590

Sievers, S. B., Trembath, D., & Westerveld, M. (2018). A systematic review of predictors, moderators, and mediators of augmentative and alternative communication (AAC) outcomes for children with autism spectrum disorder. Augmentative and Alternative Communication, 34(3), 219–229. https://doi.org/10.1080/07434618.2018.1462849

Syriopoulou-Delli, C. K., & Eleni, G. (2022). Effectiveness of Different Types of Augmentative and Alternative Communication (AAC) in Improving Communication Skills and in Enhancing the Vocabulary of Children with ASD: A Review. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 9(4), 493–506. https://doi.org/10.1007/s40489-021-00269-4

立岩真也. 不如意の身体──病障害とある社会. (青土社, 2018).

天畠大輔. 声に出せない あ・か・さ・た・な. (生活書院, 2012).

天畠大輔. 「発話困難な重度身体障がい者」の論文執筆過程の実態思考主体の切り分け難さと能力の普遍性をめぐる考察──. Jpn Soc Rev 71, 447–465 (2020).

天畠大輔. 〈弱さ〉を〈強み〉に: 突然複数の障がいをもった僕ができること. (岩波書店, 2021).

天畠大輔. しゃべれない生き方とは何か. (生活書院, 2022)

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