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シングルマザーの住まいにまつわる課題を次の世代に持ち越さない

株式会社LivEQuality大家さんです。住まいをかりづらい困窮世帯のシングルマザーを対象に、安心安全で快適な物件を市場より低い価格で貸す、大家さん事業を展開しています。

わたしたちは「インパクトボンド」という新しいファイナンスの仕組みを開発し、資金調達を行うことでこの事業を運営しています。

インパクトボンドは金利のリターンを低めに抑え、ソーシャルリターンという社会的インパクトを最大化するように設計した投資の仕組みです。

わたしたちの取り組みに共感してくださった方々がインパクトボンドを引き受け、インパクト投資家として参画してくださっています。

そんなインパクト投資家の一人、フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社 代表取締役 藤田淑子さんに、参画を決めた理由や期待についてお話を伺いました。

フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社 代表取締役 藤田淑子さん


────藤田さんは現在、資産家や起業家など富裕層の方のフィランソロピー(社会貢献)活動の支援を行う企業を立ち上げ、共同代表を務めてらっしゃいます。どんな経緯で起業されたんでしょうか。

私は元々、外資系金融機関のプライベートバンキングで富裕層の資産運用に関わる仕事をしていました。

約20年勤めたあと、これからは資産運用だけでなく相続やM&Aなどの法的サービスも提供したいと考え法科大学院に進みました。

法科大学院ではさまざまな判例を見て学びます。そのとき愕然としたんです。社会にはこんなにもたくさんの課題があるのかと。

搾取する人とされる人が固定化した構造的な問題。守られるべき人権が守られていない状況。どれだけ大変でもさまざまな事情を抱えて助けを求めることができない方々。

私は理解や想像が足りていなかった、社会の課題に目を向けずに生きてきてしまったんだ、と思ったんです。

困難な状況にある方々の力になりたいと思い、ソーシャルの世界に入ろうと決めました。

それから山口県で地域活性化事業や子ども食堂の運営に関わったり、社会変革推進財団でインパクト投資の普及活動に取り組んできました。

フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社を立ち上げたのは2023年3月です。

よりよい社会のために何かしたいけれど、何をどんな風に支援すればいいか分からない。そう考えていらっしゃる富裕層の方々が、自己実現と社会貢献を両立できるお金の使い方を一緒に考えることが今のミッションです。


──── ソーシャルセクターの活動についても投資についてもプロの知見を持っている藤田さんが、LivEQuality大家さんのインパクト投資に参加した理由は何だったんでしょうか。

社会貢献に関心のあるお客様にLivEQuality大家さんのインパクト投資をご紹介する機会があり、代表の岡本さんと一緒に訪問したんです。

同行者として真横で説明を聞いているうちに「この活動には私が投資しなければ」と感じて、帰り道にはもう「岡本さん、私が投資させていただいてもいいですか?」と聞いていました。

私がその場ですぐに投資を申し出たのは、岡本さんの話を聞きながら、2つのことを考えたからです。

1つは、たいへん社会的意義が高い活動であるということです。

私はシングルでも安心して子育てができる社会であってほしいという強い思いがあります。

自分の話で少し恥ずかしいのですが、まだ私が子どもだった頃に、母がこんなことを言っていたんです。

「どんなことがあっても私は離婚しないわよ。だってあなたを育てていけないから」と。

たしかに離婚した母親が子どもを一人で育てることは大変です。経済的に困窮することも多い。そういう状況が40年以上も前からずっとあるわけです。

岡本さんの説明を聞きながら、私が子どもの頃とまったく同じ課題がこの社会に根強く残っていると再認識しました。

そんな思いをこれ以上後輩たちにさせるなんて、申し訳ないと思ったのです。

若い女性たちが「大変だから」と子どもを持つことを諦めたり、子育てをしながら大変な状況にある人を救えない社会なんてあってはならない。改めてそんな風に思いました。

それと、私も不動産を借りられない経験をしたことがあります。

法科大学院に通っていたとき、当時の夫と別居することになったのですが、学生で安定的な収入がないということで家を借りられないんです。

一時的に学生だっただけで、金融機関での勤続年数は長いものでした。貯蓄もあるので「1年分を先に払います」と言ってもだめ。お金の問題じゃないと言われて。旦那さんの保証をもらってくれと。

私の場合は夫が協力的だったので、保証をもらって契約ができました。でも、もしDVなどで相手に連絡すら取れない状況だったら?

それでも夫の保証がなければ家を借りられないなら、小さな子どもを抱えたシングルマザーの方々は一体どうすればいいのだろうと。

そう考えると、この不動産の仕組みがとても怖いものに感じられました。

LivEQualityは、シングルマザーの方々によい物件を安価に提供して生活の再建をサポートすることで、その人らしい人生を歩んでいく支援をしています。

自分の実体験からも、これは本当に大切な活動だと感じたので、投資したいと考えました。


──── すぐに投資のご決断をいただいた背景には、LivEQualityの活動に深く共感いただいたからなんですね。もう1つの理由はなんでしょうか。

私はお金持ちではないので、自分が投資家になるとは考えていませんでした。でも考えてみると、老後のために銀行に預けているお金があることに気づいたんです。

これは漠然と老後が不安だからと置いているお金なので、数十年は使う予定がありません。ならばこれを使えばいいのではないかと考えました。

インパクトボンドは債券なので、返ってくることを前提に運用されます。10年後だろうが20年後だろうが自分が生きているどこかのタイミングで返ってくる可能性が高い。

それなら銀行に預けっぱなしにするよりも、社会課題の解決のために使いたいと感じました。

債券を購入することは、その課題を解決する仲間になることです。そしてシングルマザーや不動産を取り巻く状況の変化を、しっかりと見届けていきたいと考えました。

債券が返ってくる頃に「あれ?当時はこんなことが社会課題だったんだね。今はもうシングルマザーと不動産に関する課題は解決しているよね」と言えるようにする。そんな目標を持っています。


──── 今後さらにインパクト投資家を増やすために必要なことは何だと感じていらっしゃいますか。

今は、経済的なリターンだけを追求する投資よりも、社会的な活動への投資に関心が高まっています。

特にLivEQualityは不動産を活用して経済的なリターンを生み出しながら、入居者の自立に向けた丁寧なサポートを行っています。

ビジネスとソーシャルの取り組みをバランスよく両立している活動への投資には、多くの人が興味をもつはずです。

でも、LivEQualityのような投資先に出会う方法がないんです。

資産家の方が社会のために役立つお金の使い方をしたいと思っても、銀行の窓口に行ってもそんな商品は売っていない。商品も情報もないんです。

私は職務上、岡本さんのこともLivEQualityのメンバーのこともよく知っています。絶対の信頼を寄せているからこそ、安心して投資の判断ができました。

もちろんLivEQualityは資金調達のために走り回って頑張ってらっしゃるけれど、どうしても限界があります。

ですのでこれからは、インパクト投資のような商品にアクセスしやすくなって、社会的な活動に関する情報が広がることが重要だと思います。

私はこれまでに仕事を通じて社会的な活動をされている方々にたくさん出会ってきました。本当に素晴らしい方々がチャレンジをされています。

その情報さえ伝われば「使わないお金を課題解決のために託せば世の中がよくなる」と考え投資に参加する人は増えると思います。


────ありがとうございます。最後にLivEQualityに期待していることがあればぜひ教えてください。

この表現が適切かわかりませんが“ありのまま”でいてほしいと思っています。

業界をリードする立場として、イノベーティブな取り組みを成功させているというスマートなイメージをつくらなければいけないプレッシャーもあると思います。

ですが、LivEQualityの経済性と社会性を両立しながらインパクトを拡大するということは、とても難しいチャレンジです。

一人ひとり事情が異なる生身の人を支援するわけですから、想定外のことがたくさん起こるはずです。そういったうまくいかないことも含めて、ありのままに伝えてもらいたいと思っています。

これからLivEQualityがぶつかる課題は、LivEQualityだけが抱えることではなく、社会全体で考え解決していくべきことだからです。

でもそれは、順風満帆に見せるよりもはるかに難しいことだと思います。「うまくいっています」「こんなにできています」と発信するよりも、ずっと勇気も必要です。

しかし「こんな大きな壁がある」「こんな苦労がある」という事実を正直に伝え、みんなで考える社会にしていくことが、本当の意味での社会的インパクトにつながるのではないでしょうか。

私はそれを、どこまでも応援したいと思っています。



ほかのインパクト投資家のみなさんのインタビュー記事はこちらにまとめています。

株式会社LivEQuality大家さんの取り組みについてはこちらのnoteをご覧ください。


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