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王様のひとりごと

 王様は、生まれてからずっと王様です。
だから、王様以外の人はやったことがありません。
だから、この頃少しおもうのです。
 もし、漁師になっていたら、朝3時におきます。王様は普段は朝8時じゃないと起きませんから、5時間も早く起きなければなりません。
 急いで身支度を整えて、朝4時には海の上に居なくてはなりません。雨の日も、風の日も、寒い冬も、暑い夏も、嵐の日以外は毎日出かけなければなりません。
 それに舟が大きく揺れると、胃の中の物を全て出してしまう程の船酔いになります。「あー」そこまでで、考えるのを、やめました。
でも、たくさんの魚やイカが取れた時は、大喜びです。タイのお刺身なんかがいいですね。
 
 
 それでは、百姓になろう。
それでも朝は5時起きです。
 お日様が登るころから沈む頃まで働かなければなりません。
夏は40度近く、冬は0度近くの中で畑を耕したり種を植えたり、雑草を抜いたり、肥料をやったり。収穫まで半年かかるものもあります。
土と、泥にまみれて、爪の中まで泥が入ってしまって。
 「あー」そこまでで、考えるのを、やめました。
でも、美味しいトマトや、きゅうりや、じゃがいもが、食べられることが最も幸福です。
 
 
 今度は、家を建てる、大工さんになろうと思いました。明るくてすてきなお城を作ろうと思いました。
 でも、材料は重いし、道具は使えないし、一番苦手なことは、設計図を作ることです。真っ直ぐな線を引くことさえ苦手だから、考えただけでも気が重くなります。
 まっすぐな線を引けないということは、のこぎりもまっすぐにひけないということです。
 「あー」そこまでで、考えるのを、やめました。
 でも。お城が新しくなったら、どんなに素敵か、と思う。
 
 
 そうだ、学校の先生になろう、まあまあ、朝はそんなに早く起きなくてよさそうだし、子供たちが相手だから、気楽に過ごせそうだし。
 でも、ちょっと待てよ、算数はどうする、国語はどうする、社会や理科はどうする、音楽や体育なんてとても。子供たち相手は気が楽。なんてことはないな。
 聞くところによると、残業だらけだと言うし、モンスターピアレンツにはとてもかないません。
 「あー」そこまで考えて、やめました。
 でも、子供たちと遊ぶのは素敵だな。
 
 消防士なんかどうだろう、かっこいいよ、さっそうと、制服着て、消防車に乗って、火災の現場に到着、長いホースを出して、何本もつないで、強い圧力でホースが跳ね回り、どこに水を飛ばしているのやら、熱い火の粉が降りかかり、あっちこっち火傷。
 救急車も大変です、朝早くから、夜中まで、北へ行ったり、南へ行ったり、交通事故でけがをした人や、重い病気の人を病院へ運びます。時には、擦り傷や、おなかを壊した位、でも、呼ばれます。
 かっこいいけど、火の粉が怖くて、僕にはできません。
 
 やっぱり警察官かな。
 普段から体を鍛えて、何事にも屈せず、強盗や殺人事件、最近多い詐欺事件、交通事故の防止や取り締まり、道案内や巡回まで、幅広く活躍しなければならないんだ。
 でも、時々、何もしてない人を捕まえて、犯人にしたてたり、力の強い人に付いて、力の弱い人を逮捕したり。
 縦の社会だからって、間違っているような命令で、動く人にはなりたくないし。
 
 
 そうだ、自衛隊に入ろう。給料はもらえるし、いろいろな資格は取り放題。でも、毎日毎日、しんどい訓練を受けて、体を鍛えて、自動小銃を撃って、戦車に乗って、F15戦闘機に乗って、国を守るっていいながら、「敵をやっつけろ!」って。
 敵って「誰?」誰の敵?「やっつけろ!」って「殺す事だよね。」何の為に? 誰の為に?戦車や戦闘機が必要なの?核兵器まで必要なの?
 人を殺すことは、僕にはできません。
 災害の出動には、戦車は要りません。
 
 
 そうだ、むにゃむにゃ教の教祖様になろう。
 「むにゃむにゃ」ってお題目を唱えながら、たくさんのお布施を集めて、  「あなたの不幸は信心が足りないから。」なんて言ってお布施を集めて、  「あなたのお子さんの不幸は、信心で幸せになる。」つって言いながら、また、お布施を集めて、「世界平和の為」とか言いながら、またまた、お布施を集めて。
 ガラスの仏像を「これを持ってないと不幸になる。」と言って、何十倍ものお金で売り付けて。
 そのお金で、政治家に歩み寄って、税金をごまかしたり、何かと便宜を図ってもらったり。
  山の中に、大きなお寺を建てて、「むにゃむにゃ」ってお題目を唱えて、何もしないで暮らせたら、最高だけど。
 修行をしなくてはならないし、信者を引き付ける力がなくては。「むにゃむにゃ」のお題目だけではだめだよね。
 
 
 そうだ、芸能人はどうだろう。歌ったり、踊ったりする歌手も素敵だし。悪い人や良い人、怖い人や殺人犯、なんでも出来る役者なんか最高だと思う。
 でも、大勢の人達の前で、歌ったり踊ったりできるだろうか?テレビの金曜サスペンス劇場で殺人犯ができるだろうか?
 テレビや映画に出るために、監督やディレクターに媚びを売る、なんて出来ないと思うから、止めよう。
 
 
 やっぱり、普通の会社員が合っているかもしれない。
 朝は、決まった時間に起きて、朝食を食べて、いつもの様に満員電車に乗って、ちょっと早く会社に着いたら、ほかの人達とコーヒーを飲んで情報交換をして、仕事が始まったら、上司の指示通りに、お得意様に営業に行って、話が長引いたから、ちょっと遅いランチを食べて、会社に戻って、書類の整理をして、結果の報告をして、又、次のお得意様に営業に行って、夕方遅く会社に戻って、上司に報告をして、昨日の残った書類を完成させて、あー、やっと帰れる。また、満員電車にのって帰ろう。
 毎日毎日、これの繰り返しは、やっぱり無理
だと思う。
 
 
 本当は、どうしてもなりたかったのは、弁護士なのです。
 それも、この世の中で、弱い立場の人を助ける、弁護士になりたかったわけです。
 人は、いつ何時、犯罪に、巻き込まれるかもしれません。また、身に覚えのない犯罪に直面して、捕まることだってあるのです。
 そんな時でも、たとえ、わずかな報酬でも、精一杯弁護ができる、そんな弁護士に、なりたかったわけです。
 でも、あの分厚い六法全書や、法律の本を見ているうちに、勉強には縁がないな、と思い諦めました。
 
 
 いろいろ考えた王様は、やはり、王様を続ける事が、一番だと思う様になりました。
 でも、今まで通りの王様ではいけない、と言うのは分かっていました。
そこで、広く、国民のみんなに意見を聞くことにしました。
 
 王様「今日は、私達の国が、少しでも、より良くなるために、皆さんの意見が聞きたいと思って、集まっていただきました。」「遠慮なく意見を言って下さい。」
 
 国民A 「先ずは、国民皆が、他の人の人権を尊重して、自由で平等に暮らせる社会を作ることが、必要だとおもいます。今もなお、この国では、いたるところに差別があります。
 性差別はもとより、人種差別・民族差別・心身障害者への差別・部落差別・性的少数者への差別など、いたるところで、差別に苦しんでいる人がたくさんいます。にもかかわらず、少しも、解決しようという風に、進んでいるとは思えません。」
 
 国民B 「王様、ご存知でしょうか。この国では、使い捨ての、不安定な、非正規労働者が、働く人の40%になろうとしています。
かっこよく、この国の構造改革を成し遂げる、と言っていた結果です。一体、誰の為の、なんの為の、構造改革だったのでしょう。
 貧富の差がますます開いて、一生懸命働きながら、貧困に喘ぐ状態が続いています。
特に、単身世帯では、その日の食事も食べられない子供たちが、たくさんいるのです。」
 
 国民C 「私の住んでいる町には、外国の軍隊が駐留しています。毎年の様に、その兵士たちが、窃盗や暴行を犯したり、交通事故やら、若い女の子がいたずらされています。そのほとんどが、泣き寝入りしています。
 何故、私たちの国に、外国の軍隊が必要ですか?
 何故、私たちの国でとりしまれないのですか?」
 
 国民D 「王様は知っていますか?この国では、20歳以下の女の子で、望まない妊娠を強いられる人が、1年間に、1万人近くいることを。
全体では、12万人を越えています。
 この国の、性に関する情報のほとんどは、インターネットやTV、雑誌等、外からの情報によるものです。科学的根拠はなく、誤ったじょうほうが、多いのも事実です。
 私たちは、小さい頃から、ちゃんとした性教育を受けていません。
ちゃんとした性教育を受けるために、まず、大人達が学ばなければなりません。
 少しでも、不幸な人を減らすために、今すぐ始める必要があります。

 それは、人権を尊重し、ジェンダー平等と多様性を認め、安全で健康的な価値観を育てる事から始めなければなりません。その上で、性と生殖に関する知識を共有する作業を進めていく必要があります。未来に向かって、不幸な若者を作らないために。」
 
 国民E 「私のお願いは、トランスジェンダーやLGBTQ同士の結婚の問題と夫婦別姓の問題です。
 この国では、古い倫理観と、宗教観に、がんじがらめにとらわれている人たちがたくさんいます。性差別を基本とした倫理観では、結婚は異なる性でし、姓は男の姓を名乗ることが、当たり前に語られます。
 女は男の従属物の様にも語られています。

 人間は、男だろうが、女だろうが、肌が黒かろうが、白かろうが、国や民族が違おうが、障害があろうが、無かろうが、生まれたところが違おうが、みんな平等の権利を持っているはずです。
 ひとりひとりが人間としての権利、人権を持っているはずです。自由と平等の為に、同性婚と夫婦別姓を認める様にして下さい。」

 
 国民F 「この国では、生活に必要なエネルギーのほとんどを、外国からの輸入に頼っています。化石燃料と言われる、石油・石炭・天然ガスがおもなものです。
 これらを燃やすと、二酸化炭素が発生して、上昇して、地球を取り巻き、温暖化の主な原因になります。
 地球では、この30年の間に平均気温が0.85度上昇していると言う事です。このままでは、今世紀末には2.6度~4.8度くらい上昇して、平均海面水位は、南極や北極、氷河が溶けて、82㎝上昇するだろうと言われています。
 その上、台風が巨大化して、人々の暮らしに大きな影響を与え、大雨や、干ばつが続き、人間ばかりか、動物や植物にも大きな影響を与えてしまいます。

 一刻も早く、太陽光や水、風や波、など、再生可能な自然のエネルギーに変換し、温暖化を止める様にしましょう。」
 
 この話を聞いて、王様は、あれだけ迷っていた自分が、恥ずかしくなりました。それぞれ、早く解決しなければならないことばかりでした。
 早速、
 「自由と平等、差別をなくする」提案は教育大臣に。
 「働いていても貧困」の問題は、労働大臣に。
 「外国の軍隊駐留」の問題は、国際大臣に。
 「包括的性教育」の問題は、保健大臣に。
 「同性婚や夫婦別姓」は、法律大臣に。
 そして、
 「地球温暖化」の問題は、自然環境大臣に。
 出来ることから始めよう。と、指示を出しました。
 
 王様は思いました、ひとつひとつ事象は、全てつながっていて、自分たちとは切り離せないものだと、決して大きな国ではないけど、国民ひとりひとり声を聞いて、問題を解決して、みんなが、暮らしやすい国にしていくのが、自分の仕事なのだ。と。
 
 
 
 

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