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「私は、ホントウの自分であったためしがない」

 椎名麟三がそんなことを云っていた。
 そうだ、そうだ、と、ぼくも思った。

 しかし、だ。

 ホントウの自分とは何なのか。
「ホントウの自分であったためしがない」といえることは、
 ホントウの自分を椎名麟三は知っていたということなのか?

 ホントウの自分。

 そうか、ホントウの自分であったためしがない…
 こう書いてきて、わかってきた。

 どれも、ぜんぶ、ホントウの自分ではなかった、
 いろんな自分がいたけれど、ぜんぶ、ホントウではなかった。

 だから、ホントウのことに、こだわる・・・・ことができたんだ。